更新日:
2026/6/23

最新情報を発信中!
専門家によるセミナーを毎日公開!
セミナー一覧
本記事は、累計200以上の病院の救急改善を支援してきたドクターズプライムワークの知見と、厚生労働省の公表資料(中医協「2026年度診療報酬改定」答申、「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」等)をもとに、ICU・HCU稼働率と救急受入の連動設計について解説します。
ICU・HCU加算の算定要件と救急受入件数が連動する構造的な理由
2026年度改定で新設された急性期病院A/B区分がICU維持にもたらす影響
「年間1,000台」の救急受入目標を病棟経営に落とし込む4ステップの設計法
ICU・HCU稼働率を高めたいなら、救急受入数の確保が不可欠です。
特定集中治療室管理料やハイケアユニット入院医療管理料の算定には、所定の重症患者割合や人員配置基準を満たす必要があります。しかし、施設基準を満たしていてもICU/HCUの病床が空いていれば、加算の「対象患者」そのものが存在しないことになります。ICU/HCUに入室する患者の多くは救急搬送を起点としており、救急外来からICU/HCUへの直入、あるいは一般病床からICU/HCUへの転棟という搬送経路がICU稼働を支える生命線となっています。
さらに、ICU/HCUの稼働が維持されなければ、人員配置基準の維持も困難になります。ICU専従看護師やICU専任医師を配置するコストに見合う収益が確保できなくなり、結果としてICU/HCU自体の縮小・廃止を迫られるケースも出てきます。
つまり、ICU/HCU維持の課題は「施設基準の充足」だけではなく、「稼働率を支える患者の確保=救急受入の確保」という上流の問題に行き着きます。
さらに2026年度診療報酬改定では、ICU・HCUの施設基準そのものに「病院の救急搬送件数・全身麻酔手術件数」が新たに組み込まれました。たとえばハイケアユニット入院医療管理料では、「救急搬送件数が年間1,000件以上」「全身麻酔手術件数が年間500件以上」など、複数の実績要件のいずれかを満たすことが求められます。ICU/HCUの稼働を維持する以前に、施設基準そのものが救急実績を要件化したことになります。「救急受入の確保」はもはやICU稼働維持の前提条件ではなく、ICU/HCU開設・継続の必須条件へと位置づけが変わったと言えるでしょう。
2026年度診療報酬改定で新設された急性期病院A/Bの区分が、ICU維持の外部条件として機能し始めています。
厚生労働省の「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」(2024年12月)と、それを受けた「新たな地域医療構想策定ガイドライン」の検討(2025年)では、医療機関機能のひとつとして「急性期拠点機能」が新設されました。特に人口30万人以下の地域では、急性期拠点機能を担う医療機関を1カ所確保・維持できるかという観点から、構想区域の見直しや医療機関の集約化が検討される方針が示されています。この方針を受けた2026年度改定の答申では、急性期病院の入院基本料に新たな区分が設けられています。
ある公的病院の副理事長(元厚労官僚)は、この区分について次のように整理しています。急性期病院Aの要件は「救急搬送件数年間2,000件以上、かつ全身麻酔手術件数年間1,200件以上」を両方満たすことです。急性期病院Bは、「救急搬送件数年間1,500件以上」「救急搬送件数年間500件以上かつ全身麻酔手術件数年間500件以上」「人口20万人未満の二次医療圏で救急搬送件数最大かつ年間1,000件以上」「離島の二次医療圏で救急搬送件数最大」のいずれかを満たすことが求められます。中小規模の急性期病院にとっては、「年間1,500件」のラインがリアルなハードルとなります。
この区分がICU/HCU維持にどう影響するかを考えると、構造的な連鎖が見えてきます。救急受入件数が急性期病院A/Bの要件を下回れば、急性期入院料の上位区分を算定できなくなります。入院料の低下は病棟全体の収益性を引き下げ、ICU/HCUの維持コストを吸収する余力を失います。結果として、ICU/HCU自体の存続判断を迫られることになります。
「救急車受け入れを病床稼働率に結びつけなければ、経営改善には繋がらない」——この副理事長の言葉は、救急台数がICU維持の「外側からの条件」になりつつある現実を端的に示しています。
実際に救急受入とICU/HCU稼働の連動を設計し、経営改善を果たした病院が存在します。
ある公的病院(183床・2次救急)では、急性期入院料の区分転落や看護師不足による病床削減、物価高騰の三重苦に直面し、経常収支2%超の赤字が見込まれていました。着任した副理事長が打ち出した戦略の柱は、「政策誘導に徹底して乗る」こと。具体的には、高齢者救急の応需率向上を経営の最優先課題に据え、外部の救急専門医を活用した体制強化に着手しました。
結果として救急車受入件数は昨年対比141件増(36.7%増)となり、年間1,000台を突破。救急搬送からの入院率は45%から57%へ12ポイント改善し、上半期だけで約1億円の増収を達成しています。ICU/HCUへの直入率が上昇したことで重症患者用病床の稼働率も安定し、急性期入院料の維持に必要な実績基盤が固まりました。
この事例で注目すべきは、救急受入数の増加が「入口」としてだけではなく、「ICU/HCU→一般病床→退院・転院」という搬送経路全体の回転を加速させた点です。救急で入院した患者がICU/HCUを経由し、安定後に一般病床へ転棟し、退院していく。この一連の流れが途切れなく回ることで、ICU/HCU・一般病床双方の稼働率が同時に改善しています。
また、別の2次救急病院(334床)でも、救急受入台数を年間約3,000台から約4,800台(約1.6倍)に拡大する過程で、診療マニュアルの整備や多職種連携によるタスクシフトを同時推進しています。救急受入数の増加は、ICU/HCUの稼働率向上だけでなく、組織全体の診療力底上げにも寄与しました。
ICU/HCU稼働と救急受入の連動を経営戦略として設計するために、以下の4ステップが有効です。
まず、自院のICU/HCU病床数に対して、算定要件を満たすための最低稼働率を確認します。特定集中治療室管理料であれば重症患者割合の基準があり、ハイケアユニット入院医療管理料にも看護必要度の基準が設定されています。これらの基準を充足しつつ、経営的に目指すべき稼働率(多くの病院では80〜85%がひとつの目安)を設定します。
次に、現状の救急搬送患者のうち何割がICU/HCUに直入しているかを測定します。前述の事例では入院率が45%から57%に改善しましたが、そのうちICU/HCU直入の割合がどの程度かを分解して把握することが重要です。ここが低ければ、救急受入数を増やしてもICU/HCUの稼働改善には直結しません。入院判断の基準整備やトリアージの見直しが先行課題となります。
目標稼働率に必要なICU/HCU入室患者数から、現状の入室数を差し引き、不足分を算出します。その不足分を「救急受入件数 × ICU/HCU直入率」の式で逆算すれば、必要な救急受入増加数が明確になります。たとえば、ICU 6床・目標稼働率80%であれば、年間延べ約1,752床日が必要です。平均在室日数が4日であれば年間約438人の入室が必要であり、ICU直入率が20%なら年間約2,190件の救急搬送受入が必要という計算になります。
救急受入数を増やしても、ICU/HCUへの入室判断にばらつきがあれば稼働率は安定しません。入院基準(どの重症度からICU/HCUに入室させるか)と転棟基準(ICU/HCUからいつ一般病床に移すか)を明文化し、マニュアルとして運用することが不可欠です。先述の334床の病院では「この症例ならこの検査セットを入れる」といった診療マニュアルの整備が外部医師を含む標準化を可能にしました。同じ発想でICU/HCU入退室基準を整えることで、判断の属人化を防ぎ、稼働率の安定的な維持につながります。
本記事のポイントを3点に整理します。
第一に、ICU/HCU稼働率の維持は施設基準の問題ではなく、「患者の入口=救急受入」の問題です。ICU/HCUに入室する患者の多くが救急搬送を起点としている以上、救急受入数の確保が稼働維持の前提条件となります。
第二に、2026年度改定の急性期病院A/B区分は、ICU維持の「外側からの条件」として機能し始めています。救急車年間1,500台(急性期B)が中小病院のリアルなハードルであり、この基準を下回ることはICU/HCUの存続にも波及します。
第三に、ICU/HCU稼働と救急受入の連動を「設計」として組み立てることが重要です。目標稼働率の設定→直入率の測定→必要救急件数の逆算→入退室基準のマニュアル化という4ステップで、属人的な運営から組織的な設計に転換できます。
「ICUを維持したいなら救急を増やす」——この発想の転換が、中規模急性期病院の病棟経営における次の一手となるのではないでしょうか。
ICU/HCU稼働率の低下は、まず加算収入の減少として直接的に経営を圧迫します。特定集中治療室管理料は1日あたりの点数が高く、1床の稼働低下でも年間数百万円の収入減につながり得ます。さらに深刻なのは、稼働率の低迷が続くとICU専従看護師やICU専任医師の人件費が収益に見合わなくなり、ICU/HCU自体の縮小・廃止を検討せざるを得なくなる点です。ICU/HCUの閉鎖は急性期病院としての機能に直結するため、新地域医療構想下での役割そのものが問い直されるリスクもあります。
「受けすぎて回らなくなる」という懸念は現場でしばしば聞かれますが、鍵を握るのはICU/HCUの出口設計です。入室基準だけでなく、「いつ一般病床に転棟させるか」の転棟基準を明文化し、平均在室日数を管理することで病床回転率を高められます。また、3次救命センターとの連携で「下り搬送」(安定した患者を2次病院が受け入れる仕組み)を活用すれば、ICU/HCU以外の経路でも病棟稼働に貢献できます。2024年度改定で新設された下り搬送に関する診療報酬加算も、この設計を後押ししています。
必ずしもICU/HCUの即時閉鎖を意味するわけではありませんが、経営上の選択肢は狭まります。急性期病院Bの要件を満たせない場合、入院料の上位区分を算定できず、ICU/HCU維持コストの原資が減少します。元厚労官僚の経歴を持つある副理事長は「体制のできていないところが改定の点数を目指して今から救急車を受け入れるのはなかなか難しい。どこか受けているところに機能を任せて、自分たちは受ける方に回るという経営判断も必要になる」と述べています。自院の経営体力と地域内の他院の状況を踏まえ、ICU維持を目指すのか、後方支援に転換するのかを早期に判断することが求められます。
最初の一手は「応需基準のマニュアル化」です。多くの病院で救急受入の可否判断は当直医個人の裁量に委ねられており、医師の専門領域やリスク感覚によって応需率が大きく変動します。「この症状なら受け入れる」「この条件なら断ってよい」を明文化し、組織としての受入基準を設定することで、属人的な判断のばらつきを抑えられます。実際に応需率60%台から90%以上への改善を達成した2次救急病院では、受入基準の文書化と外部医師の活用が同時に行われています。関連する取り組みの詳細は「救急専門医がいない病院の「経営判断」|受ける/繋ぐ/撤退の三択フレーム」もあわせてご参照ください。
ICU/HCU稼働率の維持と救急受入の連動を設計し直したい、自院の救急体制を数値で整理したい——そのような課題をお持ちの場合、ドクターズプライムワークでは救急改善に特化したROI試算のご相談を承っています。
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



メソッドをもっと見る
先月は21件お問い合わせがありました
各サービスの特徴が5分で分かる
気軽に相談してみる