更新日:
2026/5/14

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keyboard_arrow_right「医業利益が3期連続で赤字」「病床稼働率が80%を切ったまま戻らない」「診療報酬改定のたびに経営が苦しくなる」——こうした課題を抱える病院経営者・事務長は、決して少数派ではないのではないでしょうか。
2024年度の病院経営は、医業赤字病院が全体の約7割に達するという過去に類を見ない深刻な状況に陥っています。物価・人件費の上昇が続く一方、診療報酬の上昇は追いつかず、多くの病院が「構造的赤字」という壁に直面しています。
本記事では、この環境下で黒字化を実現している病院に共通する3つの起点を、公的統計と現場事例をもとに整理します。キーワードは、「病床稼働率・救急応需率・DPC収益」の連鎖設計です。
論点 | 結論 |
|---|---|
現状の深刻度 | 2024年度は医業赤字病院74.6%・経常赤字病院65.6%(四病協最終報告) |
黒字化の本質 | 単一施策ではなく「病床稼働率→救急応需率→DPC収益」の連鎖設計 |
起点1 | 病床稼働率85〜90%の安定維持(コロナ前水準80.5%を上回る黒字ライン) |
起点2 | 救急応需率の改善を通じた入院症例の継続獲得(救急補正係数にも直結) |
起点3 | 診療報酬改定の政策誘導を先読みし、加算算定漏れをなくす |
中医協の指摘 | 「救急対応に積極的な病院ほど経営が厳しい」構造を反転させる仕組みが必要 |
全国の病院経営がなぜこれほど厳しくなっているのか。理由を分解して確認します。
全日本病院協会など四病院団体協議会(四病協)が実施した2024年度病院経営状況調査(最終報告)によると、病院経営の指標は以下のように悪化しています。
医業利益:2023年度マイナス1億5,828万円 → 2024年度マイナス1億8,044万円(100床当たり、14.0%拡大)
経常利益:2023年度マイナス2,862万円 → 2024年度マイナス8,102万円(100床当たり、183.1%拡大)
医業赤字病院の割合:74.6%
経常赤字病院の割合:65.6%
厚生労働省の第25回医療経済実態調査では、機能別の赤字病院割合も明らかになっています。
機能分類 | 赤字病院割合 | 平均医業利益率 |
|---|---|---|
回復期 | 40.0% | ▲0.5% |
慢性期 | 56.3% | ▲1.0% |
高度急性期 | 75.0% | ▲6.7% |
急性期A(7対1) | 77.8% | ▲9.9% |
急性期B(10対1) | 73.0% | ▲12.0% |
つまり、急性期病院ほど赤字割合が高く、赤字幅も大きいのが現実です。これは中医協が指摘した「救急対応に積極的な病院ほど経営が厳しい」構造そのものではないでしょうか。
もう一つの構造問題が、病床利用率の低迷です。厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」によれば、2024年の病床利用率は全国平均で77%、コロナ前の2019年(80.5%)の水準に戻っていません。
病床は病院経営における最大の固定資産です。稼働率が3〜5ポイント低下するだけで、年間収益は数千万円〜億円単位で減少します。急性期病院では稼働率85〜90%が黒字の分岐点とされており、80%を割ると赤字化の確率が急速に高まる構造があります。
一般病院の医業・介護費用は年々上昇しており、直近では全体で3.2%上昇(医療経済実態調査)と報告されています。特に医薬品費・水道光熱費・紹介手数料(医師人材確保コスト)の伸びが顕著です。
この環境で黒字化するには、「診療報酬の伸び」を待つのではなく、能動的に収益構造を組み替えるしかありません。その起点となるのが、次に示す3つの経営判断です。
病院黒字化の最初の起点は、病床稼働率を85〜90%で安定的に維持する仕組みをつくることです。
稼働率は単発の施策では動きません。入院の入口(救急・紹介)→ 病棟マネジメント → 退院調整の3フェーズすべてに設計が必要です。
入口の設計:救急応需率を高め、救急からの入院を安定化させる(緊急入院の確保)。紹介率も並行して管理し、複数の流入経路を持つ
病棟マネジメント:病床管理を専任(ベッドコントローラー)化し、空床を日次で可視化する。平均在院日数の短縮とのバランスを管理する
退院調整の早期化:MSW(メディカルソーシャルワーカー)が入院時点から退院先を調整する。転院・退院のボトルネックを早期に解消する
関東地方の2次救急病院(262床規模)では、輪番日の救急応需率を60%台から90%超に改善し、病床稼働率を約9割で安定化させました。同院の取り組みは、単に救急医を増やしたのではなく、受入上限ルール(「ベッドが8割充足したら近隣・かかりつけ患者に限定」)を設計することで、救急需要を病棟マネジメントと整合させた点に特徴があります。
病床稼働率の改善は、地味だが最も経営インパクトが大きい領域です。稼働率1%の改善は、中規模病院で年間数千万円の収益改善に直結します。
2つ目の起点は、救急応需率を改善し、入院症例の継続的な流入源を確保することです。
令和6年の救急出動件数は771万件超と過去最多を記録、高齢者の割合は約63%に達しています。この膨大な需要を受けきれる体制を整えれば、救急は病院経営における最大の入院症例獲得チャネルになります。
応需率の改善(60%台 → 90%超)
救急医療入院症例の増加(分子が拡大)
病床稼働率の上昇(病床の空きが埋まる)
DPC収益の拡大(救急医療入院の単価は相対的に高い)
救急補正係数の評価向上(2024年度改定で独立した評価項目)
診療報酬上の救急評価向上(2026年度改定で急性期病院A・Bや看護必要度A項目加算など、救急実績への評価がさらに強化)
北陸地方の民間病院(200床前後・2次救急)では、外部の救急専門医を活用した体制強化により、救急車受入数が昨対比36.7%増、救急搬送からの入院率が45%→57%(+12ポイント)に改善し、上半期だけで昨対比約1億円の増収を達成しました。
九州地方の民間病院(180床規模・2次救急)でも、日勤帯の救急応需率がほぼ100%となり、月平均12.8人の入院獲得(入院率75.8%)、年間3,600万円相当の売上増を初年度で達成しました。
これらの事例に共通するのは、「救急応需率の改善=病院経営全体の改善」という因果構造です。救急を単なる現場のKPIではなく、経営戦略のレバレッジポイントとして位置づけ直すことが、黒字化への最短経路になります。
救急応需率の改善に必要な組織戦略の詳細は、関連記事「救急応需率を改善する5つの組織戦略」をご参照ください。
3つ目の起点は、診療報酬改定の「政策誘導の方向」を先読みし、先行投資することです。
2024年度改定では、機能評価係数Ⅱから救急医療係数が独立して「救急補正係数」となりました。そして2026年度改定では、急性期医療の評価が「看護師配置数(体制)」から「救急・手術の具体的な実績(機能)」へと大きく転換する方向が示されています。2026年2月13日の中医協答申では、新設の急性期病院A一般入院基本料(救急搬送年間2,000件以上・全身麻酔手術1,200件以上が要件、2026年6月1日施行予定)、急性期総合体制加算(旧・急性期充実体制加算と総合入院体制加算を統合)、および看護必要度A項目への救急搬送受入実績に応じた加算などが明らかになりました。
救急搬送受入実績の可視化:年間救急車受入台数を可視化し、基準値(例:1,000台、2,000台)への到達ロードマップを設計する
救急医療管理加算の算定精度向上:加算1の算定比率を高めるため、重症度判定の院内ルールを整備する
救急患者連携搬送料(下り搬送)の活用:2024年度改定で新設された下り搬送加算を活用し、3次救急→2次救急→回復期の流れを設計する
地域包括医療病棟の運用設計:2024年度改定で新設された地域包括医療病棟を、高齢者救急の受け皿として位置づける
DPCコーディング精度の管理:レセプト精度管理で、入院初期の医療資源投入量を実態どおり反映させる
中国地方の労災病院系2次救急病院は、応需率90%以上を維持しながら、院長が「データで動かす」経営スタイルでDPCデータと応需率を可視化し、診療科・個人の自発的な行動変容を引き出しています。同院長は次のように述べています。
「国が求めていることをやれば、国は評価してくれる。患者さんが求めていることをしっかりとやる。それが結果として国の政策誘導に乗ることになり、経営改善につながる」
この発言の本質は、「診療報酬改定を短期的な取引ルールではなく、中期的な経営戦略の方向指示器として読む」ことです。
DPC救急補正係数の仕組みと具体的な改善ステップについては、関連記事「救急補正係数とは?計算方法・上げ方・経営インパクトを厚労省資料から解説」および「救急補正係数を上げるには?DPC収益を最大化する5つの実践ステップ」をご参照ください。
3つの起点は独立ではなく、相互に連鎖して経営改善を生む点が重要です。
フェーズ | 主要施策 | 経営KPI |
|---|---|---|
フェーズ1 | 救急応需率の改善(医師確保+組織文化) | 救急車受入台数・応需率 |
フェーズ2 | 救急医療入院症例の増加 | 入院転換率・救急医療入院症例数 |
フェーズ3 | 病床稼働率の上昇 | 病床稼働率(目標85〜90%) |
フェーズ4 | DPC収益・診療報酬加算の拡大 | 救急補正係数・加算算定率・DPC総収益 |
フェーズ5 | 常勤医・看護師の負担軽減 | 離職率低下・採用コスト低減 |
フェーズ6 | 地域からの信頼蓄積 | 紹介率・救急隊からの要請数 |
1つの起点(例:救急応需率の改善)が、連鎖的に病床稼働率・DPC収益・人材定着・地域信頼を押し上げる構造になっています。だからこそ、単発の施策ではなく連鎖設計が経営黒字化のカギになるのではないでしょうか。
自院の経営改善余地を検証するために、以下の観点で現状を確認してみてはいかがでしょうか。
確認項目 | 改善余地のシグナル |
|---|---|
直近3期の医業利益率 | 3期連続赤字なら構造改革が急務 |
病床稼働率(直近12ヶ月平均) | 80%未満なら入口・病棟・出口の全フェーズ見直しを |
救急応需率(輪番日/平時) | 70%未満なら最大の経営改善レバレッジ |
救急医療入院症例数の推移 | 減少傾向ならDPC収益にも連動して低下している可能性 |
救急補正係数の値 | 同規模病院平均を下回るなら算定精度・救急体制の両面で改善余地 |
平均在院日数 | 効率性係数との両立を意識しているか |
紹介率・逆紹介率 | 地域連携が機能しているかの指標 |
MSW(医療ソーシャルワーカー)の配置 | 退院調整の早期化を担う専任職員がいるか |
これらのシグナルに複数該当する場合、病院経営の黒字化は部分最適の積み重ねではなく、3つの起点を統合した経営再設計として取り組む必要があります。
病院経営を黒字化するために必要な視点は、次の3点に集約できます。
黒字化は「稼働率・応需率・DPC収益」の連鎖設計です:単一施策では動かない。3つの起点を相互に連動させる経営再設計が本質的な解決策になります
救急応需率の改善は最大のレバレッジです:救急からの入院が、病床稼働率・DPC収益・加算評価のすべてを押し上げる起点になります
診療報酬改定は短期ルールではなく中期の方向指示器です:2024年度改定で独立した救急補正係数、そして2026年度改定(6月1日施行)で新設される急性期病院A・B、急性期総合体制加算、看護必要度A項目への救急搬送加算——政策誘導を先読みした経営が、中期の勝ち残りを決めるのではないでしょうか
2024年度の医業赤字病院74.6%という数字は、「真面目にやっていれば何とかなる」時代の終焉を告げています。構造的赤字の時代に黒字を維持できる病院と、できない病院を分けるのは、経営層が救急を「現場の問題」ではなく「経営の起点」として捉え直せるかどうかにかかっているのではないでしょうか。
自院の病床稼働率・救急応需率・DPC収益の実データをもとに、黒字化に向けた具体的な打ち手を検討したい経営者・事務長の方は、救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」の活用を検討してみてはいかがでしょうか。「救急を断らない医師」の紹介と、救急データ分析による運用改善の両面から、救急体制の再設計を支援しています。本記事で触れた北陸地方の民間病院(昨対比1億円増収)・九州地方の民間病院(年間3,600万円増収)・関東地方の中規模病院(応需率60%台→90%超・病床稼働率9割安定)の事例も、同サービスの活用により実現しています。
引用元
厚生労働省「医療経済実態調査(医療機関等調査)」(第24回・第25回報告)
厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
四病院団体協議会「2024年度病院経営状況調査(最終報告)」
健康保険組合連合会「第25回医療経済実態調査の結果に対する見解」
総務省消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」
中央社会保険医療協議会「令和8年度診療報酬改定 答申」(2026年2月13日)
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ
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