更新日:
2026/5/14

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keyboard_arrow_right自院における脳卒中救急の受入体制について、構造的な見直しを検討されている病院経営者や部門責任者の方は少なくないかと存じます。脳神経外科や麻酔科の問題による緊急手術対応の難しさ、脳神経外科の当直体制の厳しさ、土曜日の当直を担当する後任医師の確保──多くの医療機関の経営層から寄せられる課題の本質は、専門医不足ではなく「常勤の脳神経外科医1名の退職で即座に応需体制が崩れる」という構造的脆弱性です。本稿では、脳卒中救急の受入体制を構築するにあたっては「自院の機能定義(rt-PA可能病院か転送病院か)」の経営判断から始まるという視点で、3つの構造要因、症状別の受入判断基準、地方都市の2次救急病院の事例、そして経営判断の3つの選択肢を、日本脳卒中学会ガイドライン準拠で整理していきます。
論点 | 結論 |
|---|---|
脳卒中救急が組めない3つの構造要因 | ①脳神経外科・脳神経内科医の地域偏在、②rt-PA/血栓回収療法の施設要件、③24時間CT/MRI体制 |
症状別の受入判断フレーム | 虚血性はrt-PA 4.5時間/NIHSS、血栓回収は発症8時間(一部16〜24時間)、出血性は手術適応 |
現場実装のカギ | 「自院の機能定義」を先に決め、それに合わせた院内動線とSCU連携を設計する |
経営判断の3つの選択肢 | ①一次脳卒中センター(PSC)等の認定取得、②rt-PA可能病院+転送連携、③受入後即時転送 |
現場における課題の実態 | 脳神経外科当直医の退職→後任確保の困難が、地方2次救急の頻出課題 |
脳卒中救急の受入体制が組めない原因は、専門医の地域偏在、rt-PA/血栓回収療法の施設要件のハードル、24時間CT/MRI体制の維持コストという3つのハードルが重なっているためです。脳神経外科医個人の負担増として捉え直すと、退職リスクと後任確保の繰り返しに翻弄され、構造的な解決には至りません。
消防庁の「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」(2025年3月28日公表)によれば、令和6年の救急出動件数は771万7,123件と過去最多を更新しました。脳卒中は救急搬送の主要疾患の一つであり、特に高齢化が進む地域では搬送件数が増加し続けています。一方で、お打ち合わせでは「脳神経外科の当直体制が厳しい」「特定の診療科の医師が不足している」という発言が頻出し、需要増と供給制約のギャップが構造的に拡大しています。
日本脳卒中学会専門医は全都道府県に存在しますが、2次救急規模の中小病院では確保が極めて困難です。専門医1〜2名体制が標準で、退職や休職が即座に応需体制の破綻を招きます。「脳神経外科の当直体制が厳しい」「特定の診療科の医師が不足している」が、地方都市の2次救急病院の現場の実態を示しています。
日本脳卒中学会「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第三版」(2019年3月公表)が定めるストロークチーム4条件の達成は、中小病院には重い負担です。
条件 | 内容 |
|---|---|
条件1 | CTまたはMRIが24時間可能 |
条件2 | 急性期脳卒中の知識・経験を持つ医師(日本脳卒中学会専門医など)を中心とするストロークチーム+脳卒中ケアユニット(SCU)等の高度な医学的管理が可能な病棟 |
条件3 | 脳神経外科的処置が迅速に行える |
条件4 | rt-PA静注療法実施担当者が日本脳卒中学会が承認する講習会を受講・証明取得 |
血栓回収療法はさらに高い要件として、血管造影室または手術室に血管撮影装置を備え、ステント型血栓回収機器の認可(2014年〜)に準じた体制が必要になります。
夜間・休日のCT/MRI技師確保、放射線科医の遠隔読影体制の構築は、中規模病院で年間数千万円規模のコストになります。脳卒中疑い症例は来院後速やかにCT/MRIを撮影する必要があるため、技師の即応体制が組めない病院では、そもそも脳卒中疑いの救急を受けられません。
「脳神経外科医を増やせば脳卒中救急が受けられるようになる」という発想では、構造的な解決にはたどり着けないのではないでしょうか。次節で、症状別の受入判断基準を整理します。
脳卒中救急のうち、自院で受けるべき範囲と、3次救急・脳卒中センターへ転送すべき範囲は、「発症からの時間」と「自院の機能」の2軸で線引きできます。この線引きを院内標準として文書化することが、属人化の解除と応需率改善の前提になります。
虚血性脳卒中の急性期治療における最重要のラインは、発症から4.5時間以内のrt-PA(アルテプラーゼ)静注療法の適応判断です。日本脳卒中学会「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第三版」では、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者に対してrt-PA静注療法を行う、とされています。
発症時刻の特定
治療前CTで脳梗塞所見が軽微以下であること
NIHSS(NIH Stroke Scale)による重症度評価
除外項目(出血性疾患・最近の手術歴等)の確認
発症時刻不明症例でも、MRI拡散強調画像とFLAIRのミスマッチ等の条件下で「考慮しても良い(グレードC1)」が追加されました。これにより、起床時に発症が判明する症例(wake-up stroke)の一部にも適応が広がっています。
ストロークチーム4条件の充足が前提です。条件を満たさない病院は、rt-PA投与は行わず、適応症例を可能な施設へ即時転送する設計(次節のDrip-and-Ship戦略)になります。
血栓回収療法(機械的血栓除去術)は、原則発症6時間以内(一部の症例では画像所見の合致を条件にDAWN試験で24時間、DEFUSE-3試験で16時間まで適応拡大)。施設要件は血管造影室または手術室に血管撮影装置を備え、ステント型血栓回収機器の認可(2014年〜)に準じた体制です。
自院で血栓回収療法までを完結するのは、2次救急規模では困難です。rt-PAを自院で開始し、血栓回収療法可能施設へ搬送する「Drip-and-Ship戦略」が現実的な対応です。この戦略を成立させるには、血栓回収療法可能施設との転送プロトコルの事前合意が必須になります。
脳出血・くも膜下出血は、CT診断後に脳神経外科的処置が必要かどうかの判断を即時に下す必要があります。
脳出血:血腫量・部位・GCSによる重症度判定。血腫量・部位・神経症状を総合的に判断して手術適応を検討する
くも膜下出血:Hunt and Hess分類で重症度判定。Grade I〜IIIは早期動脈瘤処置(クリッピング/コイル塞栓)の対象、Grade IV〜Vは集中治療を含む慎重な治療方針判断を要する
2次救急の対応範囲は、CT診断後、脳神経外科的処置が必要な症例は3次救急への即時転送、というラインが標準です。
TIAは脳梗塞に進展するリスクを評価するために、ABCD2スコア(年齢/血圧/臨床所見/持続時間/糖尿病の5項目)で2日以内の脳梗塞リスクを層別化します。3点以下は外来管理可、4点以上は入院管理推奨という運用が標準です。
判断基準が文書化されていない病院では、当直医個人の経験値とリスク感覚に依存した「念のため断る」が発生し続けます。次節では、地方都市の2次救急病院の実装事例を匿名化で紹介します。
脳卒中救急の受入体制を組めない病院に最も多い課題は、「脳神経外科当直医の退職+後任確保の困難」という構造的なボトルネックです。常勤医1名に依存した体制は、退職リスクが直接応需率に跳ね返ります。
背景:
地域の救急を担う同院では、常勤の脳神経外科当直医の退職に伴い、後任確保が急務となっていました。その際のお打ち合わせでは、以下のような実態が浮かび上がっています。
脳神経外科の当直体制が厳しいこと、特定の診療科の医師が不足していること
特に土曜日など、特定の曜日・時間帯における当直担当医の確保が急務となっている
同院では、過重労働の是正や当直体制の見直しといった勤務環境の改善を並行して進めているものの、地方都市特有の採用難もあり、後任確保に苦慮している
この事例が示すのは、脳神経外科救急の受入体制は「常勤の脳神経外科医1名の退職」で即座に破綻する脆弱性を抱えているという構造的な現実です。脳神経外科医の絶対数が地域に少ない中で、退職→後任確保のサイクルは2〜3年に一度発生し、その都度応需体制が一時的に崩れます。
「常勤の脳神経外科医1名」に依存した体制は、退職リスクが直接応需率に跳ね返ります。自院の機能定義(rt-PA可能病院か転送病院か)を経営判断として再定義し、外部医師活用と転送連携の組み合わせで体制を冗長化することが、応需率の構造的安定につながります。
具体的には、次の3点が体制冗長化の柱になります。
常勤脳神経外科医1名+外部医師の組み合わせで土曜日・夜間の輪番を埋める
rt-PA投与の院内プロトコルを文書化し、当直医の経験値に依存しない体制をつくる
血栓回収療法可能施設との転送プロトコルを事前合意し、Drip-and-Ship戦略を機能させる
自院の脳卒中救急体制の「現在地」を、以下の8項目で点検します。
確認項目 | チェック |
|---|---|
24時間CT撮影が可能であり、夜間も技師が即応できる | ◻︎ |
24時間MRIが可能(rt-PA適応外の判断にも有用) | ◻︎ |
日本脳卒中学会専門医、または同等の知識を持つ医師が常勤している | ◻︎ |
rt-PA静注療法の院内プロトコル(適応・除外・投与手順)が文書化されている | ◻︎ |
血栓回収療法可能施設との転送プロトコルが事前合意されている | ◻︎ |
脳神経外科医のオンコール体制(脳出血・くも膜下出血対応)が整備されている | ◻︎ |
FAST→CT 20分以内の院内動線が標準化されている | ◻︎ |
救急隊との「脳卒中疑い症例の搬送基準」が事前共有されている | ◻︎ |
8項目中5項目以上にチェックが入らない場合、脳卒中救急の受入設計の再構築が経営判断のテーブルに載るタイミングと考えられます。
脳卒中救急の受入設計は、自院の機能を「rt-PA可能病院/Drip-and-Ship病院/即時転送病院」のいずれと定義するかを経営判断の出発点に据えます。
問い:自院は「rt-PA可能病院」か「rt-PA不可・転送病院」か。
この機能定義を先に決めることが、院内動線の設計、当直医配置、転送先合意のすべての出発点になります。機能定義なしに「とりあえず脳卒中も受けられる体制を」と動き出すと、ストロークチーム4条件の一部だけが整備された中途半端な状態に陥り、結局「念のため断る」が常態化します。
選択肢 | 向いている病院 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
①脳卒中センター認定取得 | 300床以上規模で脳神経外科常勤医が複数名在籍し、血栓回収療法が常時可能な体制を有する病院 | 高度急性期病院としての地域評価/加算算定 | 24時間体制維持コスト・専門医確保が前提 |
②rt-PA可能病院+転送連携 | 200〜300床・脳神経内科または日本脳卒中学会専門医常勤1名 | Drip-and-Ship戦略で2次救急の役割を全うできる | 転送先との事前のプロトコル合意、およびSCU等の高度な医学的管理体制の確保 |
③受入後即時転送 | 100〜200床・脳神経専門医不在 | 自院の機能限界を明示し、3次救急との役割分担で地域貢献 | 救急隊との搬送基準合意・転送先マッピングが前提 |
選択肢①の常勤強化ルートを選ぶ場合、紹介会社依存の構造と採用ポートフォリオの再設計が経営課題となります。このテーマは関連記事「医師紹介会社の手数料が下がらない構造」で詳述しています。
脳卒中救急の受入設計は、院内マニュアル整備と連動します。受入判断基準・院内動線・転送プロトコル・救急隊との搬送基準合意を一体のマニュアルとして整備することで、当直医の経験値に依存しない体制が構築できます。マニュアル整備の全体像は、関連記事「救急受入体制強化マニュアル」で整理しています。
外部の医師リソースを活用する際、単なるスポット派遣への依頼に留まらず、①医師の質、②受入ルールの設計、③データ分析による可視化、④契約の柔軟性、⑤他院での再現性という5つの観点での要件定義が求められます。脳卒中救急においては、特に②の「受入ルール設計」が極めて重要であり、rt-PA投与からDrip-and-Shipによる転送、救急隊との搬送基準合意までを包括的に構築できるスキームを導入することが、応需率改善の分岐点となります。
脳卒中救急の受入設計は、脳神経外科医の確保だけでは成立しません。自院の機能定義・rt-PA投与プロトコル・転送先との事前合意という3点セットが揃って初めて応需率が動きます。この3点セットを自院単独で整えるのが難しい場合は、救急改善プラットフォーム型のサービスを検討する段階に来ていると言えます。
脳卒中救急の受入を成立させる視点は、次の3点に集約できます。
脳卒中救急が組めないのは「個人」ではなく「構造」の問題です:専門医偏在/施設要件/24時間CT/MRI体制という3つの構造要因が重なっています。常勤の脳神経外科医1名に依存した体制は退職リスクで即座に破綻するため、医師個人の負担増の問題ではなく構造の問題として捉え直す必要があります
受入判断基準は「発症時間」と「自院機能」の2軸です:rt-PA 4.5時間/血栓回収8時間/自院がDrip-and-Shipか即時転送か。判断基準と機能定義の文書化が応需率改善の前提になります
経営判断の出発点は「自院の機能定義」です:センター認定/rt-PA可能病院/即時転送の3類型から選ぶ経営判断が、地域での役割分担と応需率の安定化を同時に実現します
脳卒中救急の受入設計について、5問で自院の現在地を点検します。
確認項目 | チェック |
|---|---|
自院の脳卒中救急機能を「センター認定/rt-PA可能/即時転送」のいずれと定義しているか | ◻︎ |
rt-PA投与の院内プロトコル(適応・除外・投与手順)が文書化されているか | ◻︎ |
血栓回収療法可能施設との転送プロトコルが事前合意されているか | ◻︎ |
FAST→CT 20分以内の院内動線が標準化されているか | ◻︎ |
脳神経専門医不在時の夜間救急対応を経営判断のテーブルで検討しているか | ◻︎ |
5問中3問以上「いいえ」の場合、脳卒中救急の受入設計の再構築が経営判断のテーブルに載る段階と考えられます。
自院の脳卒中救急の受入設計、および脳神経外科当直の脱却策を検討したい経営者・副院長・脳神経外科部長の方は、救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」の活用を検討してみてはいかがでしょうか。「救急を断らない医師」の継続供給により脳卒中救急の初期対応を成立させる選択肢と、救急搬送データ・応需率の可視化による断り理由の構造化の両面から、脳卒中救急の受入設計を支援しています。脳神経外科当直医の退職に伴う後任確保や、土曜日・夜間の当直シフト穴埋めなど、病院責任者との面談の際に繰り返し聞かれる課題への対応事例を、自院の状況に即して具体的に提示できます。
救急応需率の向上や医師確保、持続可能な病院運営に向けた具体的なノウハウを、以下の関連記事で詳しく解説しています。
当直医確保の総論 ▶︎ 関連記事:『救急当直医の確保』
実務マニュアルの整備 ▶︎ 関連記事:『救急受入体制強化マニュアル』
経営改善へのインパクト ▶︎ 関連記事:『病院経営黒字化の設計図』
外部委託の選定基準 ▶︎ 関連記事:『当直の外部委託の3類型と選定5観点』
宿日直許可への対応策 ▶︎ 関連記事:『宿日直許可が取れない病院で打てる選択肢』
医師採用の市場構造 ▶︎ 関連記事:『医師紹介会社の手数料が下がらない構造』
消化器系の受入設計 ▶︎ 関連記事:『消化器系救急の「断れない」受入設計』
循環器内科の夜間運用 ▶︎ 関連記事:『循環器内科の夜間救急をどう回すか』
特定期間の要員配置 ▶︎ 関連記事:『夜間・土日・GW・年末年始の要員配置』
参照
消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」2025年3月28日公表
日本脳卒中学会「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第三版」2019年3月公表
日本脳卒中学会公式サイト
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ
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