更新日:
2026/5/15

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keyboard_arrow_right医師の働き方改革が2024年4月に施行されてから、2年が経ちました。「宿日直許可 取れない 病院」と検索している経営者・事務長の皆様は、すでに壁にぶつかっている当事者でしょう。労基署への申請を断念した、あるいは申請したが不許可だった、もしくは許可はあるが実態と乖離し始めている──そのいずれかの状況で、次の一手を探されているのではないでしょうか。
本稿が論じるのは、「許可を取るためのチェックリスト」ではありません。宿日直許可が取れない病院に何が起きているのか、なぜ取れないのか、そして取れないまま経営を続けると何を失うのか。その上で、許可取得と並行して今すぐ動かせる経営判断は何か──この3点を、厚生労働省の一次情報と複数の病院事例から構造的に整理していきます。
論点 | 結論 |
|---|---|
現在地 | 働き方改革の施行から2年、約4割の病院が宿日直許可を取得できておらず、一部は「診療所化」の選択に追い込まれている |
取れない3つの構造要因 | ①救急応需の常態化(軽度業務の範囲を超える)、②週1回の宿直回数要件未達、③労基署ごとの運用差 |
放置した場合の3つの連鎖損失 | ①医師採用力の低下(非常勤・派遣医師の敬遠)、②時間外労働上限(A水準960時間)への抵触リスク、③労基署の是正勧告と地域医療からの退場リスク |
解決の基本方針 | 「許可取得に向けた業務設計見直し(ルートA)」と「外部医師活用による応需体制再設計(ルートB)」を両輪で駆動する |
2026年改定との接続 | 『急性期病院B』の実績要件は、①救急搬送年1,500件以上、②救急搬送500件以上かつ全身麻酔500件以上、③人口20万人以下の地域で2次医療圏最大かつ年1,000件以上──などのいずれかを満たす構造(さらに夜間帯〔22時〜翌8時〕の救急搬送1割以上が必要)です。いずれの入口でも救急受入実績は必須 |
宿日直許可の申請件数は、医師の働き方改革の施行前後で爆発的に増加しました。厚生労働省のFAQ資料によれば、医師の宿日直許可の新規許可件数は、令和2年(2020年)に144件、令和3年に233件だったものが、令和4年に1,369件、令和5年には5,173件へと急増しています。2020年比で約36倍。多くの医療機関が働き方改革の施行(2024年4月)に間に合わせるべく、駆け込み申請を行った結果です。
日本医師会が2023年に実施した「医師における宿直許可の取組に関する調査」では、回答した医療機関のうち約6割弱が「労働基準監督署の宿直許可を得た」と回答しています。裏を返せば、残る約4割は許可を取得できていないということです。
許可を取得できなかった病院、あるいは申請自体を諦めた病院で何が起きているのでしょうか。四病院団体協議会病院医師の働き方検討委員会が実施した「医師の働き方改革に関する状況調査」の自由回答には、すでに顕在化している影響が並んでいます。
大学病院派遣の中止・縮小(当直時間の制限や派遣日数の減少)
日当直業務を行う医師不足による確保困難および診療体制の縮小
常勤医不足により今後の日当直体制の維持が難しいため、診療所化を予定
日当直回数の上限が設けられたことで、医師数の少ない診療科では日当直体制をとれない日が生じている
「診療所化を予定している」──これは、宿日直許可を取れない病院が、病院であることを諦めるという判断に追い込まれているという意味です。2026年の今、労基署の臨検・指導は一段と本格化しており、「取れない」ことの経営インパクトは日増しに重くなっています。
宿日直許可の取得要件は、厚生労働省の通達「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日付基発0701第8号)に明記されています。要件そのものはシンプルです。しかし現場で申請が通らないのは、以下の3つの構造的要因が絡み合っているためです。
要因1|救急応需が常態化している
許可基準の核心は、「宿日直中に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること」という部分にあります。通達が具体例として示すのは、「少数の要注意患者の状態の変動に対応」「少数の軽症の外来患者への問診」などです。いわゆる「寝当直」の延長線上にある業務に限られます。
ところが2次救急を担う病院では、夜間に救急車を受け、入院指示を出し、手術適応の判断までこなすのが常態化しています。これは通達が示す「軽度の業務」の範囲を超えており、「通常の勤務と同態様の労働」として労働時間に算入されるべきものです。つまり救急応需体制を維持しながら許可を取ろうとすると、申請時点で矛盾が生じてしまいます。
要因2|週1回の宿直回数要件を満たせない
一般許可基準は、宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回を限度としています。例外として「労働密度が薄い場合」は回数を超えて許可される余地がありますが、ここで問題になるのが医師少数の病院です。
常勤医が数名しかいない病院では、同じ医師が週2回の当直に入らざるを得ません。業務量自体は軽度であっても、回数要件を満たさないという理由で不許可になります。日本医師会の調査でも、「業務量は十分少ないにもかかわらず、週1回の宿直回数を満たすことができないために申請を認められなかった」という病院のコメントが複数寄せられています。
要因3|「業務量が少なくても許可が下りない」という労基署の運用差
日医調査はさらに、申請の採否に労働基準監督官の裁量が影響している可能性を指摘しています。同じ程度の業務実態であっても、担当監督署・担当官によって判断が左右されるケースがあるといいます。
もちろん厚労省のFAQは「様々な工夫で許可を取得することも可能」としており、時間帯限定(例:準夜帯を除く深夜〜早朝のみ)・診療科限定・輪番日以外に限定、といった申請の仕方を推奨しています。輪番日以外の日を前提とした許可がなされた実例も明記されています。つまり「ゼロか100か」ではなく、許可を取れる時間帯・業務範囲を切り出す設計が可能です。しかしこの設計を自院単独で描くのは、現場の業務量を把握し切れていない病院にとって容易ではありません。
宿日直許可が取れない状態を放置すると、経営には3つの連鎖損失が発生します。これは労基署のリスクだけの話ではありません。
①医師採用力の低下
医師の時間外労働には、常勤先と副業先の時間を通算する仕組みがあります。A水準(年960時間)を適用される勤務医にとって、アルバイト先が宿日直許可を持っているかどうかは、受けられる仕事量に直結します。許可のある病院の当直は労働時間にカウントされませんが、許可のない病院の当直はすべて労働時間として通算され、結果として年960時間の枠を圧迫してしまいます。
医師側の選好がどちらに向かうかは明らかです。許可のない病院は、非常勤医師・アルバイト医師の応募が集まりにくくなります。大学医局も同様に、派遣先が許可なしの場合は派遣日数を削る方向で動いています。四病協の調査が示した「大学病院派遣の中止・縮小」は、この力学の帰結です。
②時間外労働上限(A水準960時間)への抵触リスク
2024年4月から、勤務医の時間外労働は原則として年960時間・月100時間未満が上限となりました。許可のない当直は、待機時間も含めてすべて労働時間に算入されます。常勤医が月数回の当直に入るだけで、上限枠の大半を消費してしまいます。
結果として発生するのが、「当直を減らすために医師を雇うが、その医師も当直に入ると上限を超える」という循環です。外来・入院の通常業務を削らなければ回らない事態に陥り、病床稼働率と外来収入の両方が落ちていきます。
③罰則と労基署指導、そして地域医療からの退場リスク
時間外労働の上限規制違反には、労働基準法第141条・第119条に基づく刑事罰(6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が設定されています。実際に刑事告発まで至るケースは稀ですが、労基署からの是正勧告・指導の頻度は施行2年目に入って確実に増えています。是正勧告を受けた病院は、改善計画の提出・派遣元医局への説明・地域連携先への情報開示という連鎖的な負担を強いられます。
そしてこれらが重なった結果として現実化するのが、先ほどの「診療所化予定」という選択です。つまり、2次救急の看板を降ろし、地域医療から事実上退場するという判断が、許可を取れない病院の末路として現れています。
ここで参考になるのが、医師少数区域で150床規模の2次救急を守っている、ある地方病院の判断です。この病院は「大学医局に残る医師はかつての3分の1程度」という派遣減少に直面し、常勤医の働き方改革対応と合わせて、当直体制が構造的な限界に達していました。
同院が選んだのは、「医局との関係を切る」のではなく「医局に負担をかけない」という共存戦略でした。当直・スポット対応という負荷の高い業務を外部医師でカバーし、医局には本流の人事交流・専門医派遣というラインでの関係を維持する設計です。結果として、病床稼働率90%超を保ちながら、地域の2次救急の約3割を担う体制を継続しています。
院長はインタビューでこう語っています。「負荷の高い業務を外部でカバーし、自院で体制を整えることで、医局に対して『無理な相談』をする必要がなくなり、本流の人事交流や専門医の派遣という重要なラインでの関係性を維持できる」──この発想は、許可取得の有無に関わらず、全ての当直難病院に応用できる構造的示唆です。
救急応需体制の再設計と外部医師の活用によって、常勤医の負担軽減と応需率改善を両立させる具体的な手法については、ドクターズプライムワークが複数病院で実装してきました。
宿日直許可が取れない病院が取るべき一手は、「許可取得の再設計(ルートA)」と「外部医師による当直体制の再構築(ルートB)」の両輪です。どちらか一方ではなく、両方を同時並行で動かすことが実務解となります。
厚労省のFAQは、以下の設計を明示的に認めています。自院の当直業務をこれらの切り口で再設計し、許可を取れる範囲を「切り出す」発想が重要です。
時間帯限定:例えば準夜帯(17時〜24時)を除外し、深夜0時〜早朝9時のみ申請する
診療科限定:所属診療科を限った申請(例えば産科のみ、内科のみ)
職種・業務限定:病棟宿日直業務のみに限った申請
輪番日除外:地域で夜間診療の輪番制を採用している場合、輪番日以外の日であることを前提とした申請
これらの設計は単独でも組み合わせでも使えます。重要なのは「全ての当直を許可対象にする」ことを目指すのではなく、実態として軽度業務に収まる範囲を切り出すことです。その残りの「救急応需が常態化している時間帯」は、次のルートBで処理します。
ルートAだけでは、2次救急の応需体制は維持できません。救急応需が常態化している時間帯を、労基署の観点で「通常業務」として正面から取り扱い、その時間帯を担う医師を外部から確保する設計が必要になります。ここで機能するのが、救急対応を専門とする外部スポット医師の活用です。許可対象外の時間帯をカバーするサービスの選定基準は、3類型の構造を理解することから始まります。詳細は当直の外部委託の3類型と選定5観点で整理しています。
関東地方の約260床の2次救急病院(地域の月曜・金曜当番病院)の事例が、この再設計の典型パターンを示しています。同院は常勤医の高齢化(40〜60代)により当直負担が限界に達し、救急応需率は60%台で停滞していました。院内でオンコール体制の整備・インセンティブ設置など環境整備を試みましたが、医師個人の経験値やリスク感覚のばらつきによる「断り」は解消できなかったといいます。
同院が選択したのは、輪番日(月曜)の当直体制を従来の常勤医2名体制から、外部の救急専門医1名体制へ移行するという判断です。併せて「ベッドが8割充足したら近隣・かかりつけ患者に限定」という受入上限ルールを設計し、病棟・救急外来への過重負担を防止しました。結果は以下の通りです。
救急応需率:60%台 → 90%以上に改善・安定
輪番日の救急受入:1日15〜20台をスムーズに対応
病床稼働率:約9割で安定
当直体制:常勤医2名体制 → 外部医師1名体制へ
院長はこの体制変更をこう評価しています。「救急車が7、8台並んでしまう状況もあるが、外部の救急専門医1人でスムーズに対応してもらえるため、安心して業務を任せられる」。常勤医の当直負担が劇的に軽減された上で、救急応需率は大幅に向上しました。「医師を増やしたら応需率が上がった」のではなく、医師の質(救急に対するマインドセットとスキル)と院内ルール設計の組み合わせで、応需率が上がった点が核心です。
ルートA(許可取得のための業務設計見直し)を成立させるためには、許可対象外の時間帯・業務を担う医師が別途必要になります。これを常勤医で補うと働き方改革の上限にぶつかってしまいます。したがってルートBの外部医師活用なしには、ルートAも機能しません。
逆にルートBだけで外部医師を大量に入れても、許可取得されていない時間帯の労働時間は常勤医分も含めて膨らみ続けます。ルートAの再設計がなければ、全体の労働時間管理が破綻してしまいます。
つまりこの両輪は、どちらか一方を欠けば回りません。許可取得に向けた業務設計の再構築と、外部医師による応需体制の再設計を、同じ経営判断のセットとして取り組む必要があります。
ルートAとルートBをどちらから着手すべきか、自院の状態別に整理します。以下のフレームは、経営会議・理事会での検討素材としてご活用いただけます。
自院の状態 | 優先着手 | 理由 |
|---|---|---|
労基署から指摘を受けている/受けそう | ルートA(業務設計見直し)を即着手 | 是正勧告・刑事罰リスクが最優先 |
医局派遣が減少している/減少予定 | ルートB(外部医師活用)を先行 | 当直枠の穴埋めが喫緊 |
救急応需率が低迷している | ルートB先行+ルートA並行 | 応需率改善が収益改善に直結 |
常勤医の離職・疲弊が顕在化 | ルートBを先行 | 常勤医の負担軽減が緊急 |
診療所化を検討し始めている | 両方を同時着手 | 2次救急の看板を守る最後の機会 |
宿日直許可が取れない状態は、病院経営にとって確かに重大なリスクです。しかし、この状態を「詰み」と捉える必要はありません。むしろ、当直体制を経営判断の対象として再設計する絶好の機会と捉えるべきでしょう。本稿の主張を3点に要約します。
「取れない」のは制度の不備ではなく、自院の当直業務設計が許可基準と合っていないからです。時間帯限定・診療科限定・輪番日除外などの設計で、許可を取れる範囲を切り出せます。
許可取得と外部医師活用は両輪です。許可対象外の時間帯を外部スポット医師でカバーしなければ、許可取得自体が成立しません。
「取れない」を放置すると、医師採用力・応需率・経営収益が連鎖的に低下します。診療所化・地域医療からの退場という最終的な選択を迫られる前に、経営判断として動くことが求められます。
さらに中長期的な視点を加えれば、2026年度診療報酬改定で新設が議論されている「急性期病院B(仮称)」の実績要件は、①救急搬送年間1,500件以上、②救急搬送500件以上かつ全身麻酔500件以上、③人口20万人以下の地域で二次医療圏最大かつ年間1,000件以上、などのいずれかを満たす構造(さらに深夜帯の救急受入実績等の付加条件)になると予測されます。
いずれの基準においても救急受入実績は必須であり、宿日直許可の取得と応需体制の再設計が立ち遅れている病院にとっては、到達困難な高いハードルとなります。つまり、宿日直許可の取得と応需率の改善は、2026年改定以降も地域で急性期機能を維持するための「最低条件」と言えるでしょう。
「救急を断らないことが、結果的に病院経営を黒字化する」という因果は、複数の病院事例で既に実証されています。応需率向上 → 入院率向上 → 病床稼働率向上 → 収益向上 という設計は、宿日直許可の壁を越えた先に初めて機能するのです。
ドクターズプライムワークは、救急車のたらい回しを解決し病院経営の黒字化を実現する「断らない医師」と「データ分析」の救急改善プラットフォームとして、本稿で触れた当直体制の再設計を複数の2次救急病院と共に実装してきました。許可取得の困難に直面している経営者・事務長の皆様にとって、外部の視点を入れた経営判断の整理は、次の一手を描く出発点となるはずです。
引用元
・厚生労働省「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日付基発0701第8号)
厚生労働省「医療機関の宿日直許可に関するFAQ」(2024年8月6日版)
厚生労働省「断続的な宿日直の許可基準について」(S22発基17号)
社会保障審議会医療部会「医師の派遣を受け入れている医療機関の宿日直許可の申請状況」
日本医師会「医師における宿直許可の取組に関する調査」
四病院団体協議会病院医師の働き方検討委員会「医師の働き方改革に関する状況調査」
医療法第16条(宿直義務)
労働基準法第141条・第119条(時間外労働上限規制の罰則)
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ
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