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小児救急を「できる範囲で受ける」 設計専門外医師による初期対応の線引き

    小児救急を「できる範囲で受ける」 設計専門外医師による初期対応の線引き

    更新日:

    2026/5/14

    小児救急を「できる範囲で受ける」 設計専門外医師による初期対応の線引き|メソッド

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    自院の小児救急受入機能を構造的に見直したいとお考えの病院長、副院長、事務長の皆様に向けて解説いたします。「小児科対応への懸念」「不応需の3割は小児科・循環器の対応不可」──多くの病院経営層とのお打ち合わせで繰り返し聞かれるのは、小児科常勤医が不在または1〜2名規模の2次救急病院で、「小児はうちでは見られません」が応需率を構造的に下げているという実態です。本稿では、「小児はうちでは受けられない」を「PAT正常範囲なら受ける」に変える経営判断のフレームを、Pediatric Assessment Triangle(PAT)に基づく初期評価、専門外医師でも対応可能な範囲、関東圏の中規模公的病院の事例から構造的に整理していきます。

    本記事のポイント(30秒でわかるサマリー)

    論点

    結論

    「小児はうちでは受けられない」となる3つの構造要因

    ①小児科常勤医の地域偏在、②専門外医師のNot doing well判断の困難、③小児科病棟・PICUの不在

    小児救急の初期評価フレーム

    Pediatric Assessment Triangle(PAT)で30秒スクリーニング、JTAS-Pediatricで5段階トリアージ

    専門外医師でも対応可能な範囲

    PAT正常+バイタル安定+一次救急レベル(軽症発熱、軽微な外傷等)は対応可能。PAT異常は即時専門医コール/転送

    経営判断の3つの選択肢

    ①小児科常勤強化、②内科系総合医+小児科オンコール、③一次救急に特化(重症は転送)

    自院の機能を「明示する」ことの効果

    救急隊との合意形成が進み、適切な症例が搬送される構造に変わる

    なぜ小児救急が「うちでは受けられない」になるのか

    小児救急の応需が困難になる原因は、小児科専門医の地域偏在と、専門外医師の「Not doing well」判断の困難、そして小児科病棟・PICUの不在という3つの構造要因の重なりです。これを医師個人の対応力の問題として片づけてしまうと、院内合意も経営判断も見えてきません。

    消防庁の「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」(2025年3月28日公表)によれば、令和6年の救急出動件数は771万7,123件と過去最多を更新しました。小児救急のニーズは地域差はあるものの、夜間・休日のかかりつけ医不在時間帯に救急搬送として集中する傾向は全国共通です。多くの病院経営層とのお打ち合わせで確認できる重要な実態として、ある2次救急病院では不応需の30%が小児科・循環器の対応不可で構成されており、小児科対応不可は応需率を構造的に下げる主要因の一つになっています。

    構造要因1|小児科常勤医の地域偏在と高齢化

    2次救急の多くで、小児科医は0〜2名規模です。1人体制では夜間救急は実質対応不可となり、輪番に組み込めない時間帯が発生します。「小児科常勤医が不在」または「いても夜間当直に組めない」という構造が、応需率を直接押し下げています。

    構造要因2|専門外医師の「Not doing well」判断の困難

    小児救急で広く参照される医学界新聞の解説では、「自らの主訴を発することが可能な成人ですら、緊急度と重症度を判断するのが困難な場合が多く、啼泣や不機嫌などからしか患児の状態を判断できない小児患者の対応は、普段小児を扱わない医療従事者(他科医)にとっては困難なものである」と指摘がなされています。「Not doing well(なんとなく元気がない)」というキーワードでしか表現できない状態の判断は、専門医でも難しい領域です。専門外医師が経験値だけで判断すると、見落としリスクと過剰受入リスクの両方が生まれます。

    構造要因3|小児科病棟・PICUの不在

    入院判断後の受け入れ先がなければ、救急外来で初期対応のみして転送するか、そもそも受け入れない判断になります。小児科病棟がない病院では、入院適応症例は最初から転送が前提となり、その判断を救急外来で迅速に下す体制が必要になります。

    「小児科常勤医を増員できれば小児救急に対応できる」という単純な発想では、2次救急規模の病院における現実的な解決策には至りません。次節では、限られたリソースで安全に運用するための小児救急の初期評価フレームについて整理します。


    小児救急の初期評価フレーム──PATで線引きする

    小児救急の初期評価は、Pediatric Assessment Triangle(PAT)を院内標準として採用することで、専門外医師でも一定の線引きが可能になります。ただし、「PATで全症例トリアージできる」という過信は禁物です。PATはあくまで初期評価の入口であり、専門医コールや転送判断のラインを併せて文書化することが前提です。

    Pediatric Assessment Triangle(PAT):30秒スクリーニング

    PATは、カナダ救急医学会の小児救急トリアージ(P-CTAS)の基礎にもなっている、世界標準の小児初期評価ツールです。3つの要素を約30秒〜1分で視診評価します。

    • Appearance(外観):筋緊張・反応・安定・視線・会話/啼泣

    • Breathing(呼吸):異常気道音・異常姿勢・努力性呼吸

    • Circulation(循環):蒼白・まだら状皮膚・チアノーゼ

    3要素のうち1つでも異常があれば、「重症の可能性が高い」と判断します。視診と聴診のみで実施できるため、特殊な道具は不要で、小児科医以外の医師でも簡便に判定可能なツールです。

    TICLESによる外観評価の構造化

    外観評価(Appearance)は最も主観的になりやすい要素のため、TICLES(5項目)で構造化します。

    • Tone(筋緊張)

    • Interactiveness(周囲への反応)

    • Consolability(精神的安定)

    • Look/Gaze(視線・注視)

    • Speech/Cry(会話・啼泣)

    TICLESを問診票や電子カルテのテンプレートに組み込むことで、専門外医師でも構造的な外観評価が可能になります。

    JTAS-Pediatricによる5段階トリアージ

    PATに加えて、JTAS-Pediatric(カナダP-CTASを基にした日本版5段階小児トリアージ)を院内標準として採用すると、緊急度判定の言語が看護師・医師・救急隊の間で統一されます。意識状態、心拍数、呼吸数、体温、酸素飽和度(SpO2)などを用いて5つのトリアージレベルに分類する設計で、PATの初期評価結果と組み合わせて運用します。

    専門外医師でも対応可能な範囲と、転送ライン

    状態

    専門外医師の対応

    PAT正常+バイタル安定

    軽症発熱・軽微な外傷・嘔吐下痢(脱水軽度)等は対応可能

    PAT 1要素異常 or バイタル不安定

    即時専門医コール(オンコール/電話相談)/必要に応じて転送

    PAT 2要素以上異常

    蘇生対応+3次救急への即時転送(小児救命救急センター等)

    意識消失・けいれん持続・呼吸不全

    蘇生対応+3次救急への即時転送(PICU相当)

    注:上記は「経営判断の参考枠組み」であり、個別症例の医学的判断は現場の医師が行うものです。小児の急変は専門医でも見落とすことがある領域のため、迷った場合は専門医コール・転送を選ぶ運用ルールを明文化することが重要です。

    判断基準が文書化されていない病院では、当直医個人の経験値とリスク感覚に依存した「念のため断る」が発生し続けます。次節では、関東圏の中規模公的病院での事例を匿名化で紹介します。


    現場実装の事例──関東圏の中規模公的病院

    小児救急の受入機能を「できる範囲」として再定義することは、応需率と病院収益の両面で測定可能な経営インパクトを生む経営判断です。

    事例|関東圏の中規模公的病院

    背景

    関東圏の中規模公的病院である同院は、小児科・救急対応可能な医師の確保が経営課題でした。診療部長クラスへのヒアリングでは、次のような方針が示されました。

    • 小児科・救急対応可能な医師の確保が応需率改善の核心

    • 非常勤医師は複数の医師でシフトを固める方針

    • 医師が一人で判断できるよう、応需基準や病院の方針を記載したマニュアルを病院側で作成することを強く依頼

    • 常勤採用も視野に入れつつ、まずは定期非常勤やスポット勤務を活用して段階的に体制を構築する方針

    期待される経営インパクト

    • 応需率を90%に引き上げることで、年間数千万円規模の増収が見込まれる収益シミュレーションが提示されています

    • 「小児は受けられない」を「小児科・救急対応可能な医師でカバーする」体制への移行が経営判断のテーブルに載っています

    事例から得られる構造的示唆

    「小児科常勤医を増やす」という発想ではなく、「小児科・救急対応可能な医師(プラスαの専門領域を持つ救急医・総合医)」の確保が、2次救急規模の小児救急受入の現実解になっています。応需率90%を実現すれば、数千万円規模の増収という経営インパクトが見込まれます。

    重要なのは、医師の確保とマニュアル整備が同時進行であることです。医師が一人で判断できるよう、応需基準や病院の方針を記載したマニュアルを病院側で作成することが、医師確保の前提として求められます。「医師を確保すれば小児救急が回る」のではなく、「小児救急の判断基準が文書化されているから、医師が安心して受けられる」という順序です。

    小児救急受入チェックリスト

    自院の小児救急体制の「現在地」を、以下の7項目で点検します。

    論点

    チェック

    小児科医の常勤体制(医師数・当直可能医師数)を把握している

    ◻︎

    Pediatric Assessment Triangle(PAT)を救急外来の標準ツールとして導入している

    ◻︎

    JTAS-Pediatricまたは同等の5段階小児トリアージを運用している

    ◻︎

    「自院で対応可能な小児症状の範囲」を院内・救急隊と合意している

    ◻︎

    小児科オンコール体制(外部医師との電話相談含む)を整備している

    ◻︎

    小児救急の3次救急(小児救命救急センター・PICU相当)への転送プロトコルが事前合意されている

    ◻︎

    けいれん・呼吸不全・意識消失等の重症徴候への蘇生対応プロトコルが整備されている

    ◻︎

    7項目中4項目以上にチェックが入らない場合、小児救急の受入設計の再構築が経営判断のテーブルに載るタイミングと考えられます。


    経営判断フレーム──自院の小児救急機能定義

    「小児はうちでは受けられない」を「PAT正常範囲なら受けます」に変える経営判断は、自院の小児救急機能の明示から始まります。

    3つの選択肢

    選択肢

    向いている病院

    メリット

    注意点

    ①小児科常勤強化

    200床以上・地域の小児医療基幹

    入院対応まで自院完結

    小児科医確保競争が激しい

    ②内科系総合医+小児科オンコール

    100〜200床・小児科医1〜2名

    初期対応は総合医、専門判断は小児科オンコール

    オンコール基準の文書化が前提

    ③一次救急に特化(重症は転送)

    100床以下・小児科常勤不在

    自院の機能限界を明示し、地域の役割分担で貢献

    救急隊・転送先との合意が前提

    機能定義を「明示する」ことの効果

    3つの選択肢のいずれを選ぶにせよ、自院の小児救急機能を救急隊・地域の医療機関に明示することが、応需率改善の前提になります。「PAT正常範囲+軽症の小児を受ける」と機能を明示することで、救急隊の搬送先選定が安定化し、適切な症例が搬送される構造に変わります。「いつ受けてもらえるかわからない」状態が続くと、救急隊は最初から打診を避けるようになり、結果として受入機会自体が減ります。

    中盤CTA

    「小児はうちでは受けられない」を「PAT正常範囲なら受ける」に変える経営判断は、マニュアル整備、医師確保、救急隊との合意という3点セットで初めて機能します。これらを自院単独で整備することが難しい場合は、医師確保や業務フロー構築を専門とする外部機関の支援を活用する段階に来ていると言えます。


    まとめ──小児救急は「自院の限界を明示する」ことで動く

    小児救急の受入を成立させる視点は、次の3点に集約できます。

    • 小児救急が「受けられない」となるのは「個人」ではなく「構造」の問題です:専門医偏在/Not doing well判断の困難/小児科病棟不在の3つの構造要因が重なっています。これを医師個人の対応力の問題として片づけてしまうと、院内合意も経営判断も見えてきません

    • PATとJTAS-Pediatricを院内標準にすれば、専門外医師でも一定の初期対応は可能です:「PAT正常範囲なら受ける」が経営判断の出発点になります。PAT異常は即時専門医コールまたは3次救急への転送、という線引きを文書化することが応需率改善の前提です

    • 自院の機能を「明示する」ことが救急隊との合意を生み、適切な症例の搬送につながります:「小児はうちでは受けられない」ではなく「PAT正常範囲+軽症の小児を受ける」と機能を明示することで、適切な症例が安定的に搬送される構造に変わります

    自院診断チェックリスト(5問)

    小児救急の受入設計について、5問で自院の現在地を点検します。

    確認項目

    チェック

    Pediatric Assessment Triangle(PAT)を救急外来の標準ツールとして導入しているか

    「自院で対応可能な小児症状の範囲」を院内・救急隊と合意しているか

    小児科オンコール体制(外部医師との電話相談含む)を整備しているか

    重症小児症例の転送プロトコルが事前合意されているか

    小児救急の受入範囲を経営判断のテーブルで議論しているか

    5問中3問以上「いいえ」の場合、小児救急の受入設計の再構築が経営判断のテーブルに載る段階と考えられます。

    自院の小児救急の受入設計、および「PAT正常範囲なら受ける」体制構築を検討される際は、救急改善プラットフォームドクターズプライムワークの活用を検討することも一案です。「救急を断らない医師」の継続的な確保と、搬送データの可視化による不応需の構造分析の両面から、小児救急の受入体制再構築を支援する事例が増加しています。

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    参照

    • 消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」2025年3月28日公表

    • 日本小児科学会・日本小児救急医学会の知見(PAT・JTAS-Pediatric)

    • 医学界新聞 西山和孝氏寄稿「PATを用いたトリアージの有用性」

    執筆・編集・監修

    執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
    「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。

    監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
    聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。

    参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ 

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