更新日:
2026/4/30

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keyboard_arrow_right「救急当直を担える医師が足りない」「常勤医の当直負担が限界に近づいている」「非常勤医師を募集しても応募が集まらない」——こうした課題を抱える病院経営者・事務長は少なくないのではないでしょうか。
2024年4月から施行された医師の働き方改革により、常勤医の時間外労働時間には上限が設けられました。同時に、救急搬送件数は令和6年に771万件を突破し過去最多を更新しています(消防庁速報値)。需要は増える、供給は規制される——この構造的なギャップの中で、救急当直医をどう確保するかは、2次救急病院の経営の根幹に関わる論点となっています。
本記事では、「医師少数区域・常勤医高齢化・働き方改革」という三重苦の中で、当直医確保を実現した現場事例をもとに、病院経営者が下すべき3つの経営判断を整理します。
論点 | 結論 |
|---|---|
問題の構造 | 医師働き方改革(2024年4月施行)+常勤医の高齢化+医局派遣の縮小が重なり、常勤医頼みの当直体制は構造的限界 |
経営判断① | 常勤医の負担軽減を「医局との関係を切らずに」実現する外部医師活用の設計 |
経営判断② | 「人を増やす前に、院内オペレーションの効率化」で常勤医の負荷を下げる |
経営判断③ | 当直医の質(マインドセット・スキル)を確保する調達ルートの選定 |
陥りがちな罠 | 単価の安い「寝当直」を重ねても、救急応需率は上がらず経営にも貢献しない |
救急当直医の確保が難しくなっているのは、個別病院の努力不足ではなく、以下3つの構造変化が同時に起きているためです。
2024年4月から、勤務医の時間外・休日労働時間には原則として年960時間(A水準)の上限が適用されています。地域医療確保のための特例として年1,860時間(B水準・連携B水準)まで認められますが、これには医療機関勤務環境評価センターの第三者評価と都道府県知事の指定が必要です。またB水準・連携B水準は2035年度末までに段階的に解消する方針が示されており、中長期的にはすべての施設がA水準を目指すことが求められています。
さらに、勤務間インターバル9時間の確保、月100時間を超える医師への面接指導など、健康確保措置も義務化されました(厚生労働省「医師の働き方改革 2024年4月までの手続きガイド」)。
これにより、従来「常勤医の当直を重ねる」ことで成立していた救急体制は、法令上も維持が困難となっています。
九州地方の医師少数区域で2次救急を担う民間病院(150床規模)の院長は、こう語っています。
「昔なら大学の医局にお願いすれば医師を派遣していただける環境がありました。しかし現在は、大学に残る医師はかつての3分の1程度とも言われています」
この指摘は、地方病院に共通する現実です。医局からの派遣医師は減り、常勤医の多くが遠方通勤となり、働き方改革の施行により当直業務を依頼できなくなる——この連鎖が、特定の常勤医への当直負担集中という構造的問題を生んでいます。
一方で需要側は拡大を続けています。令和6年の救急出動件数は771万7,123件と過去最多を更新し、そのうち高齢者(65歳以上)の割合は約63%に達しています(消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」2025年3月28日公表)。高齢者救急は併存症管理や複雑な社会的背景を伴うため、若年者救急より対応工数がかかります。
供給は制限され、需要は増え、当直医への負荷は増え続ける——この悪循環を断ち切るには、経営層の戦略的な判断が不可欠です。
最初の経営判断は、外部の救急専門医を「医局の代替」ではなく「緩衝材」として位置づけることです。
多くの地方病院では、「医局に頼らない体制づくり」という発想で外部医師活用を検討してしまいがちです。しかしこれは戦略として不十分ではないでしょうか。医局は依然として常勤医の採用ルートであり、専門医派遣の重要な連携先だからです。
業務区分 | 担当者の理想配置 |
|---|---|
通常診療・常勤医人事 | 医局との関係維持(従来どおり) |
当直・スポット対応 | 外部の救急専門医で緩衝(新設計) |
専門医派遣 | 医局との人事交流を継続(従来どおり) |
九州地方の医師少数区域にある民間病院(150床規模・2次救急)は、この設計により病床稼働率90%超を維持しながら地域の2次救急の約3割を担う体制を継続しています。同院長の言葉が、この戦略の本質を示しています。
「負荷の高い業務を外部でカバーし、自院で体制を整えることで、医局に対して『無理な相談』をする必要がなくなり、本流の人事交流や専門医の派遣という重要なラインでの関係性を維持できる」
外部医師を「医局の敵」ではなく「医局との関係を守るための緩衝材」として位置づける発想の転換こそが、医師少数区域で病院経営を持続させるカギになります。
2つ目の経営判断は、医師数を増やす前に、院内オペレーションを見直すことです。
中部地方の大学病院系救急センター(400床規模)では、2024年に看護師が退職代行で集団離職し、救急受入が前年割れするという危機を経験しました。着任した救急医が打ち出した方針は「人を増やす前に、効率的に動いているかを問い直す」——その徹底した業務改善により、1年後には入院数10%増・スタッフ満足度向上を同時達成しました。同医師は次のように語っています。
「人を単純に増やすと考える前に、そもそも効率的に物事が動いているかを考え直す」
診療科の垣根を越えたタスクシフト:内科・外科の境界が曖昧な症例で、どの科が受けるかの院内ルールを整備する
受入基準の文書化:「この症状・年齢・バイタルなら受ける」という判断基準を標準化し、当直医個人の経験値に依存しない体制にする
医師業務のタスクシフト:転院調整・書類作成など、医師でなくてもできる業務をMSW・救急救命士・事務職へ移譲する
病棟から救急への呼び出し最適化:不要な医師呼び出しを減らし、当直医の救急対応集中度を高める
朝引き継ぎパスの整備:夜間の救急症例を翌朝の専門診療科にスムーズにバトンタッチする仕組みを構築する
効率化を先行させた上で外部医師活用を組み合わせると、同じ医師数で応需率を大きく改善できる場合があります。「医師を増やす」は、効率化の後に来る選択肢です。
3つ目の経営判断は、当直医の質を選別する調達ルートを持つことです。
当直医の確保には、大学医局からの派遣、医師紹介会社のスポット紹介、知人医師の紹介、自院採用の非常勤医など、複数のルートがあります。しかし量さえ確保できればよいわけではありません。
関東地方で輪番日の応需率を60%台から90%超へ改善した2次救急病院(260床規模)の院長は、次のように述べています。
「救急車が7、8台並んでしまう状況もございますが、外部の救急専門医が1人でスムーズに対応していただけるため、安心して業務をお任せできています」
この体験が示すのは、当直医確保の成否は「頭数」ではなく「質」に依存するという事実です。医師の経験値・救急対応スキル・マインドセット(「迷ったら受ける」という姿勢)が、応需率・入院率・ひいては経営に直結します。
観点 | 確認すべき問い |
|---|---|
救急対応スキル | 救急専門医資格や救急外来の実務経験が十分か |
マインドセット | 「迷ったら断る」ではなく「迷ったら受ける」姿勢を持てるか |
院内連携力 | 常勤医・看護師・救急救命士とのコミュニケーションが円滑か |
継続性 | 単発ではなく、一定期間継続して勤務できるか |
院内ルールへの適合 | 受入基準・プロトコルに沿って判断できるか |
当直医確保に困った病院が陥りがちなのが、「質を問わず安い寝当直で枠だけ埋める」という選択です。しかしこれは経営的には逆効果になる可能性があります。
「寝当直」とは、実質的に救急対応をせず、呼ばれたときだけ起きて最低限の処置をする当直スタイルを指します。枠は埋まりますが、以下のような副作用が発生します。
応需率の低下:搬送要請に対して「受けたくない」という姿勢が伝われば、救急隊は別の病院を選ぶようになる
救急隊との信頼関係の毀損:「あの病院の当直医は受けない」という評価が定着すると、輪番日でも要請が減る
常勤医の不信感:翌朝の引き継ぎで「なぜこの患者を返したのか」が頻発し、院内の軋轢が生まれる
患者からのクレームや苦情:最低限の対応しかしない姿勢が患者家族の不満につながる
DPC収益への影響:救急医療入院症例が増えず、救急補正係数の評価も伸びない
寝当直の単価が安くても、得られない収益(応需率が上がれば取れたはずのDPC収益)と失う信頼を考えると、経営的には高コストという見方もできるのではないでしょうか。当直医は「数」ではなく「質」で選ぶことが、結果として最も経済合理的な判断になります。
単発・低単価の寝当直ルートで数を揃えるよりも、「救急を断らない姿勢」を持った救急専門医を継続的に確保する方が、中長期的には経営改善に直結します。
この3つの経営判断を組み合わせると、当直医確保の問題を超えた連鎖的な経営改善が生まれます。
常勤医の当直負担が減る → 心身の余裕が生まれる
専門外来・入院患者ケアに集中できる → 診療の質が向上
応需率の改善で救急医療入院症例が増加 → DPC収益が拡大
看護師の精神的負担も軽減 → 離職率低下
「救急を受ける病院」という認知が地域に広がる → 救急隊からの信頼獲得
九州地方の民間病院(180床規模・2次救急)では、外部の救急専門医を活用した当直体制への切り替えにより、日勤帯の救急応需率がほぼ100%となり、月平均12.8人の入院獲得(入院率75.8%)を達成、年間3,600万円相当の売上目標を初年度で超過達成しました。常勤医の救急当直負担がなくなったことで、専門外来や入院患者ケアへの集中が実現した事例です。
自院の救急当直医確保戦略を検証するために、以下の観点で現状を確認してみてはいかがでしょうか。
確認項目 | 改善余地のシグナル |
|---|---|
常勤医1人あたりの月間当直回数 | 月6回以上なら負荷過剰の可能性 |
常勤医の平均年齢 | 50代以上が中心なら体力的限界が近い |
外部医師の活用比率(当直全体に対する) | 10%未満なら選択肢の幅が狭い |
医局からの派遣医師数の推移 | 減少傾向なら調達ルートの多様化が急務 |
輪番日・平時の救急応需率 | 70%未満なら当直医の質・体制に課題 |
非常勤医師募集への応募数 | 応募ゼロが続いているなら条件・ルートの見直し必要 |
B水準・連携B水準の指定状況 | 未取得の病院は2024年4月以降の当直体制が法令順守できているか再確認 |
複数のシグナルに該当する場合、当直医確保は「採用活動の強化」ではなく「調達戦略の再設計」として取り組む必要があります。
救急応需率そのものの改善策については、関連記事「救急補正係数を上げるには?DPC収益を最大化する5つの実践ステップ」もあわせてご参照ください。当直医の質と応需率・DPC収益の関係を、より詳細に整理しています。
救急当直医の確保に必要な経営判断は、次の3点に集約できます。
医局との関係を切らずに外部医師を緩衝材として使う:医局の代替ではなく、常勤医と医局の双方の負担を下げる設計が、医師少数区域では特に有効です
人を増やす前に院内効率化を先行させる:同じ医師数でも、オペレーション改善で応需率は大きく変わります
頭数ではなく質で調達ルートを選ぶ:単発・低単価の当直を重ねても、経営改善には繋がりません
2024年4月の医師働き方改革施行から、時間外労働の上限規制は常態となりました。2035年度末までのB水準・連携B水準の段階的解消を見据えれば、常勤医頼みの当直体制には中長期的な持続可能性がないのではないでしょうか。当直医の確保を「採用問題」ではなく「経営戦略」として位置づけ直すタイミングが来ています。
自院の当直体制・応需率・常勤医の負担状況の実データをもとに、救急当直医の確保戦略と具体的な打ち手を検討したい経営者・事務長の方は、救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」の活用を検討してみてはいかがでしょうか。「救急を断らない医師」の紹介と、救急データ分析による運用改善の両面から、救急体制の再設計を支援しています。本記事で触れた九州地方の民間病院(応需率ほぼ100%・年間3,600万円増収)や関東地方の中規模病院(応需率60%台→90%超)の事例も、同サービスの活用により実現しています。
引用元
・厚生労働省「医師の働き方改革 2024年4月までの手続きガイド」
消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」(2025年3月28日公表)
厚生労働省「医師の働き方改革について」(医師等働き方改革推進室)
医療機関勤務環境評価センター公表資料
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ
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