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救急応需率が上がらない5つの構造原因と、組織で「断らない」を作る改善戦略

救急応需率が上がらない5つの構造原因と、組織で「断らない」を作る改善戦略

更新日:

2026/6/17

救急応需率が上がらない5つの構造原因と、組織で「断らない」を作る改善戦略    |メソッド

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※本記事は、救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を通じて、100病院超・累計救急受入患者数16万人超の救急体制改善を支援してきた現場知見と、消防庁・厚生労働省の一次情報をもとに作成しています。

この記事でわかること

  • 医師を増やしても救急応需率が上がらない「構造的な5つの原因」

  • 応需率を組織で改善する5つの戦略と、自院がどれから着手すべきかの選び方

  • 応需率改善が2026年度改定(救急患者応需係数)の評価にどう効くか

「救急応需率が50%を下回っている」「救急隊から『あの病院は受けない』と思われ始めている」「医師を増やしたのに応需率が上がらない」——こうした悩みは、医師個人のスキル不足ではなく、組織の構造に原因があります。本記事は「応需率を組織でどう上げるか」という改善戦略に特化します。応需率の定義・計算方法・全国平均は「救急応需率とは?計算方法・全国平均・改善方法」、現在値(40%/60%/80%)別の収益改善余地は「救急応需率の現在値別・収益改善余地マップ」、応需率1ポイントの金額換算は「救急応需率1ポイントの経営価値」に整理しています。

30秒サマリー|応需率は「個人のスキル」ではなく「組織能力」

論点

結論

なぜ上がらないか

医師個人のスキルではなく「組織文化・仕組み・出口設計」の構造問題

最も効く打ち手

経営層の方針明示+受入基準のマニュアル化+出口(退出動線)の設計

2次救急の特性

断り理由が「処置困難・専門外」=判断側の理由が主因なので、組織の仕組みで改善余地が大きい

どこから着手するか

自院の現状(マニュアル有無・出口・文化)を診断して、5戦略から優先順位を決める

制度との連動

2026年度改定で新設の救急患者応需係数により、応需率改善が入院料の施設基準維持にも直結

改善の時間軸

「断らない」文化の浸透に3〜6ヶ月。救急隊との信頼構築にはさらに継続的な実績が必要

なぜ医師を増やしても応需率は上がらないのか?

結論から言えば、応需率が上がらない原因は医師数ではなく、組織の構造にあります。現場で「断る理由」は常に見つかり続けるため、組織として「受ける」方針をどう根付かせるかが本質的な論点です。

注目すべきは、3次救急と2次以下で「断り理由」の構造が異なる点です。消防庁「救急搬送における医療機関の受入れ状況等実態調査」では、3次救急は「手術中・ベッド満床」といった供給能力の限界が主因、2次以下では「処置困難」「専門外」という判断側の理由が主因となる傾向があります。つまり、2次救急病院の応需率は、医師の判断基準と組織の仕組みを変えることで改善できる余地が大きいということです。

応需率が上がらない構造的な原因は、次の5つに整理できます。

#

構造原因

何が起きているか

経営層が「受ける」方針を示していない

受けて問題が起きれば叱られ、断っても追及されない非対称が「断る文化」を生む

受入基準が文書化されていない

当直医が変わると受けたり断ったりし、判断がばらつく

出口(退出動線)が設計されていない

受けた後の転院先・病棟移動が詰まり、現場が受けたがらない

「断らない」文化が醸成されていない

各科が「救急科の問題」と捉え、全院の課題になっていない

救急隊との信頼が毀損している

一度断りが続くと要請自体が減り、件数が構造的に落ちる

なお、たらい回し(救急搬送困難事案)は消防庁の定義で「医療機関への照会4回以上かつ現場滞在30分以上」を指し、コロナ禍以降も高止まりが続いています(背景に救急搬送件数の増加と受入側の構造的限界)。

応需率を組織で改善する5つの戦略

上記5つの構造原因に1対1で対応するのが、次の5戦略です。

戦略1|経営層の「受ける」方針を院内に明示する 院長・理事長が「救急を受ける」方針を明文化して院内掲示し、救急隊との会議でも伝達します。断り事例を経営層が日次で確認し、院内の評価軸に救急応需の実績を組み込みます。要点は「受けたことで叱らない」文化の徹底です。関東地方の99床規模(急性期39床・2次救急)の病院では、コロナ禍で年間4,000台から2,000台に激減した受入を、救急専門医が副院長として着任後2年で7,500台(コロナ前比約1.9倍)に回復させました(DP Work取材実例)。方針は一度では浸透しないため「手を替え品を替え伝え続ける」ことが前提になります。

戦略2|受入基準をマニュアル化し判断のばらつきをなくす 「受ける症例/受けない症例」の判断基準を文書化し、個人の経験値依存をなくします。マニュアルの中身(トリアージ基準・受入プロトコル・院内ルールの3層)と全院展開の手順は「救急受け入れ基準を全院でマニュアル化する手順」で詳しく解説しています。

戦略3|出口(退出動線)を設計する 受けた患者が病棟や転院先へスムーズに流れる動線がないと、現場は受けたがりません。救急外来から病棟への移動所要時間や、24時間365日受けてくれる転院先ネットワークの整備が鍵です。受け入れ可否の意思決定フローは「転院・戻り受け入れ可否の意思決定フロー」が参考になります。

戦略4|「断らない」文化を全院で醸成する 救急を「救急科の問題」から「全院の経営課題」へ転換します。救急部と各診療科の対立解消は「救急部と各診療科の対立を解消する院内ルール」、受入強化に反対する常勤医への対話は「反対する常勤医を動かす対話設計」、夜勤負担と両立させる看護部の論点は「看護部が『受けないで』と言う理由」に整理しています。

戦略5|救急隊との信頼関係を再構築する 断りが続くと要請件数自体が減ります。「宣言→実績→信頼」の3段階で関係を再構築する進め方は「『断らない宣言』の院内ロールアウト戦略」をご覧ください。

どの戦略から着手すべきか?院内改善・医師採用・運用支援の選び方

5つの戦略すべてを同時には進められません。改善の打ち手は大きく3つの方向に分かれ、自院の制約に応じて選びます。

打ち手の方向

向いている病院

主な手段

院内改善

医師数は足りているが判断・文化に課題

方針明示・マニュアル化・出口設計(戦略1〜3)

医師採用

当直を回す医師の絶対数が不足

常勤・非常勤の確保、外部医師の活用

運用支援

院内だけでは仕組み化・データ化が進まない

外部の運用設計・データ分析の活用

医師の確保で詰まっている場合は「救急の受け入れ件数を増やすには?医師確保と運用改善の選択肢」、夜間1人当直でも回す設計は「『専門外だから断る』を減らす─夜間1人当直でも回る救急応需の仕組み」、インセンティブ設計は「救急応需率を上げるインセンティブとペナルティ設計」が参考になります。

応需率改善は診療報酬にどう効くか?

応需率の改善は、救急隊との信頼構築だけでなく、2026年度改定の評価にも直結します。改定で新設された救急患者応需係数により、救急搬送の受入実績が看護必要度の指数に上乗せされ、急性期入院料等の施設基準維持に効く仕組みになりました(2026年6月1日施行・現行制度)。係数の計算式や入院料区分への具体的な影響は「救急医療管理加算は2026改定でどう変わるか」、DPC収益への影響は「『断らない救急』がDPC収益を最大化する」で詳しく解説しています。

つまり応需率は、現場のKPIにとどまらず、病院の経営戦略そのものとして位置づけ直すべき指標になっています。経営全体の中での位置づけは「病院経営を黒字化する3つの起点」、KPIのつながりは「KPI連鎖の経営学」もご参照ください。

自院診断チェックリスト

次のシグナルに複数該当する場合、応需率は単発の施策ではなく5戦略の組み合わせで改善する必要があります。

  • ◻︎ 経営層が「救急を受ける」方針を明文化・発信しているか(不在なら断る文化のリスク)

  • ◻︎ 受入基準がマニュアル化されているか(不在なら当直医の個人判断に依存)

  • ◻︎ 救急外来から病棟への移動所要時間が30分を超えていないか(超なら出口設計に課題)

  • ◻︎ 24時間365日の転院先ネットワークが確保できているか

  • ◻︎ 各科の当直医が救急を「全院の課題」と捉えているか

  • ◻︎ 救急隊からの要請件数が減少傾向にないか(減少なら信頼毀損の可能性)

まとめ|応需率改善は「組織能力」の問題

第一に、応需率は個人のスキルではなく組織の仕組みで決まります。方針明示・マニュアル化・出口設計・文化醸成・救急隊との信頼構築の5点セットが機能して初めて、高水準が安定します。

第二に、「断る理由」は常に見つかり続けます。だからこそ「まず受ける」というマインドセットを組織文化として根付かせることが本質的な解決策です。

第三に、応需率改善は3〜6ヶ月かかる中期プロジェクトです。短期の数字だけを追わず、仕組みと文化の変革を継続することが、持続的な高応需率への道になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 医師を増やしたのに救急応需率が上がりません。なぜですか? 応需率は医師数ではなく組織の構造で決まるためです。経営層の方針・受入基準・出口設計・文化・救急隊との信頼の5要素が欠けていると、医師を増やしても「断る理由」が見つかり続けます。本記事の構造原因5つをご確認ください。

Q2. 2次救急病院で応需率が70%前後から上がりません。構造的な理由は何ですか? 2次救急の断り理由は「処置困難・専門外」という判断側の理由が主因です。これは医師の判断基準のマニュアル化と、出口(病棟移動・転院先)の設計で改善余地が大きい領域です。戦略2・3を優先してください。

Q3. 応需率とは何ですか。計算方法は? 定義・計算方法・全国平均は「救急応需率とは?計算方法・全国平均・改善方法」に整理しています。本記事は「どう組織で改善するか」に特化しています。

Q4. 5つの戦略のうち、どれから着手すべきですか? 自院の制約によります。医師数が足りているなら院内改善(戦略1〜3)、医師が不足なら採用、院内だけで仕組み化が進まないなら運用支援です。本記事の「選び方」表で自院位置を確認してください。

Q5. 応需率の現在値によって、改善で得られる金額は変わりますか? 変わります。現在値40%/60%/80%別の改善余地は「救急応需率の現在値別・収益改善余地マップ」、1ポイントの金額換算は「救急応需率1ポイントの経営価値」をご覧ください。

Q6. 受入基準のマニュアルはどう作ればよいですか? 中身の3層構造と全院展開の手順は「救急受け入れ基準を全院でマニュアル化する手順」で解説しています。

Q7. 救急受入に反対する常勤医や看護部をどう動かしますか? 反対する常勤医への対話は「反対する常勤医を動かす対話設計」、看護部の夜勤負担との両立は「看護部が『受けないで』と言う理由」をご覧ください。

Q8. 応需率改善は診療報酬にどう影響しますか? 2026年度改定で新設された救急患者応需係数により、受入実績が看護必要度の指数に上乗せされ、入院料の施設基準維持に直結します。詳細は「救急医療管理加算は2026改定でどう変わるか」をご覧ください。

Q9. 救急隊から「受けない病院」と思われています。信頼はどう回復しますか? 「宣言→実績→信頼」の3段階で再構築します。進め方は「『断らない宣言』の院内ロールアウト戦略」に整理しています。要請件数の減少は信頼毀損のシグナルです。

Q10. まず最初に何から手をつければよいですか? 自院診断チェックリストで現状を把握し、最も欠けている要素に対応する戦略から着手します。経営層の方針明示(戦略1)は最も即効性があり、コストもかかりません。

自院の応需率改善の打ち手を検討する

自院の救急応需率・入院転換率・病床稼働率の実データをもとに、組織としての改善の打ち手を検討したい経営者・事務長の方は、救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」をご活用ください。「救急を断らない医師」の紹介と救急データ分析の両面から、救急体制の再設計を支援しています。理事会・委員会への提案資料としても使える形で、現状の改善余地を可視化できます。

参照情報

執筆・編集・監修

執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。

監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。

参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ 

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