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救急応需率を改善する5つの組織戦略──「救急車のたらい回し」を組織文化から解決する

救急応需率を改善する5つの組織戦略──「救急車のたらい回し」を組織文化から解決する

更新日:

2026/6/3

救急応需率を改善する5つの組織戦略──「救急車のたらい回し」を組織文化から解決する    |メソッド

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「救急応需率が50%を下回っている」「救急隊から『あの病院は受けない』と思われ始めている」「医師を増やしたのに応需率が上がらない」——こうした悩みを抱える病院経営者・救急科責任者は少なくないのではないでしょうか。

救急応需率の改善は、単に医師数を増やせば解決する問題ではありません。現場で「断る理由」は常に見つかり続けるため、組織として『受ける』という方針をどう根付かせるかが本質的な論点になります。

本記事では、救急車受入を1.6倍に伸ばした大学病院系や、輪番日の応需率を60%台から90%超に改善した2次救急病院の事例をもとに、救急応需率を構造的に改善する5つの組織戦略を整理します。

本記事のポイント(30秒でわかる救急応需率改善)

論点

結論

たらい回しの定義

医療機関への照会4回以上かつ現場滞在30分以上の「救急搬送困難事案」(消防庁定義)

応需率低下の本質

医師個人のスキルではなく「組織文化・仕組み・出口設計」の問題

最も効く打ち手

経営層の方針明示+受入基準のマニュアル化+出口(退出動線)の設計

事例の示唆

応需率50%未満→70%超(1.6倍の受入増)を実現した病院には共通の組織戦略がある

制度との連動

救急搬送応需係数(2026年度改定で導入される救急患者応需係数)の評価向上にも、応需率改善は必須条件

改善の時間軸

「断らない」文化の浸透には3〜6ヶ月。救急隊との信頼構築にはさらに継続的な実績が必要

救急車の「たらい回し」はなぜ起きるのか

救急車の搬送先が決まらない「たらい回し」は、公式には「救急搬送困難事案」と呼ばれます。消防庁の定義では、救急隊による医療機関への照会回数が4回以上、かつ現場滞在時間が30分以上の事案がこれに該当します(消防庁「救急搬送困難事案に係る状況調査」)。

コロナ禍以降、この救急搬送困難事案は全国的に高止まり状態が続いています。背景にあるのは、救急搬送件数の増加(令和6年は過去最多の771万件超)と、受入側の病院の構造的限界です。

受入れに至らない理由の内訳

消防庁「令和4年中の救急搬送における医療機関の受入れ状況等実態調査」によれば、重症以上傷病者で照会回数11回以上に達した事案の受入困難理由は、「手術中・患者対応中」「医師不在」「ベッド満床」「専門外」「処置困難」などが上位を占めます(具体的な内訳は調査年・対象区分により変動)。

注目すべきは、3次救急と2次以下で「断り理由」の構造が異なる点です。3次救急は「手術中・ベッド満床」といった供給能力の限界が主因、2次以下では「処置困難」「専門外」という判断側の理由が主因となる傾向があります。つまり、2次救急病院の応需率改善は、医師の判断基準と組織の仕組みを変えることで改善できる余地が大きいということです。

戦略1|経営層の「受ける」方針を院内に明示する

救急応需率改善の第一歩は、経営層が「救急を受ける」という方針を明確に打ち出すことです。

多くの病院では、現場の医師・看護師が「断る理由を探すこと」に無意識的にインセンティブを感じています。受けた患者が院内で問題を起こせば叱られる、一方で断っても特に追及されない——この非対称性が、組織的な「断る文化」を生みます。

ある救急専門医はセミナーでこう語っています。

「病院全体として地域の救急患者さんをしっかり受けていくっていう方針を、ドーンと掲げていただくっていうのが一番大事」

経営層が打ち出すべき方針の具体例

  • 「救急を受ける」という宣言を院内・救急隊に発信する:院長・理事長が明文化したメッセージを院内に掲示し、救急隊との会議でも伝達する

  • 断り事例の日次確認:救急日誌を経営層が毎日確認し、断った理由を救急会議で検証する仕組みをつくる

  • 院内の評価軸に救急応需を組み込む:診療科・個人の評価に救急応需の実績を反映する

  • 「受けたことで叱らない」文化の徹底:受けた患者の予後が悪くても、受けた判断そのものは評価する

関東地方の99床規模(急性期39床・2次救急)の病院では、コロナ禍で年間4,000台から2,000台に激減した救急受入を、救急専門医が副院長として着任後、2年で7,500台(コロナ前比約1.9倍)に回復させました。同副院長の言葉が、経営層の覚悟の重要性を示しています。

「自分が折れないことが一番大事。自分が折れるとチーム全体が傾く」

方針は一度言えば浸透するものではありません。「手を替え品を替え、伝え続ける」ことが、組織文化変革の前提になります。

戦略2|受入基準のマニュアル化で判断のばらつきをなくす

第二の戦略は、「受ける症例」「受けない症例」の判断基準を文書化し、個人の経験値への依存をなくすことです。

現場で起きている問題の多くは、医師個人のスキルよりも「判断のばらつき」に起因しています。同じ症例でも、当直医が変わると受けたり断ったりする——この不確実性が、救急隊の信頼を損ね、院内の軋轢を生みます。

マニュアル化すべき判断基準の例

  • 症状別の受入可否基準:頭部外傷なら PECARN基準Canadian CT Head Rule、消化管出血なら Glasgow-Blatchford Score(GBS)、頭痛なら SNOOPのRed flag sign など、診療科の垣根を越えて共通で使える判断フレームを整備する

  • バイタル・年齢・基礎疾患による閾値設定:「この数値・年齢以下ならまず受ける」という明確な線引きを設定する

  • ベッド充足率に応じた受入ルール:「ベッドが8割充足したら近隣・かかりつけ患者に限定」など、無制限でも全拒否でもない中間ルールを明文化する

  • 翌朝引き継ぎパスの整備:夜間で判断できない症例を翌日の専門診療科にスムーズに渡す仕組みを構築する

関東地方の大学病院系救急センター(330床規模・2次救急)は、応需率50%未満という状況から、マニュアル整備と組織変革の同時進行により年間救急受入台数を3,000台弱から約4,800台(約1.6倍)に増やし、応需率を約70%まで改善しました。同院の救急科副部長は、こう指摘しています。

「この症例ならこの検査セットを入れる」というマニュアル整備で、外部医師でも迷わず診療できる環境を整備した

マニュアル化の本質は、「個人の頑張り」から「組織の仕組み」への転換です。特定の医師がいないと受けられない体制は、持続可能性がありません。

戦略3|出口(退出動線)の設計で救急の回転率を上げる

第三の戦略は、救急の「入口」ではなく「出口」を設計することです。

救急応需率の低下要因として見落とされがちなのが、「受けた患者を動かせない」ことによる救急外来の飽和です。救急ケアシステムは、次の3層構造で回っています。

  • Input(来院):制御不能。社会の窓口として多様な患者が押し寄せる

  • Throughput(診断・方針決定):比較的短時間で処理可能

  • Output(退出)ここが最大のボトルネック。病棟への移動待ち、家族が来ない、転院先が見つからない、帰る手段がない等で患者が滞留する

出口設計のチェックポイント

  • 入院病棟への引き継ぎパス:救急外来から病棟への移動を30分以内に完結させる仕組み

  • 転院先ネットワークの事前構築:後方支援病院との双方向の約束(急変時は責任を持って受ける↔落ち着いたら転院する)

  • MSW(メディカルソーシャルワーカー)の早期介入:搬送時点から転院・退院先の調整を並行開始

  • 救急救命士・事務職へのタスクシフト:転院搬送の調整・書類作成など、医師でなくてもできる業務を移譲

  • 救急患者連携搬送料の活用:令和6年度診療報酬改定で新設された救急患者連携搬送料(いわゆる「下り搬送」を評価。入院前1,800点/入院1日目1,200点/2日目800点/3日目600点)を活用し、3次救急→2次救急→回復期の流れを設計

中部地方の3次救命救急センター(540床規模)では、院内に救命救急士を6名配置し、搬送前から転院先探しを並行開始する仕組みを構築しました。この結果、救急搬送受入率98%(ほぼ断らない救急)を維持しながら、救急外来の回転率を高めています。

出口設計は地味で時間のかかる施策ですが、応需率を持続的に改善する上で最も効果が大きいのではないでしょうか。

戦略4|各科が自発的に受ける組織文化を醸成する

第四の戦略は、「救急科だけが頑張る」体制から、全科が当事者として救急に関わる文化への転換です。

救急応需率が高い病院に共通するのは、診療科の垣根の低さです。「専門外だから受けない」ではなく、「まず救急科が受けて、翌日専門科に渡す」「困ったときは診療科間で相談できる」という空気が、組織として醸成されています。

中国地方の労災病院系2次救急病院(2次救急・26診療科)は、年間救急車受入約3,600〜3,800台・応需率常に90%以上を維持しています。同院長は次のように語っています。

「ドクターはいきなり『やれ』という形で言っても動かないんです、絶対。それよりはきちんとデータを示して、それで納得されたら自発的に動いて下さる」

全科で救急を受ける組織づくりのポイント

  • MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の言語化と繰り返し浸透:「断らない救急」を病院の価値観として明示し、多チャネル(院内ウェブサイト、朝礼、会議、院長メッセージ)で反復発信する

  • データで動かす:医師は命令では動かない。DPCデータ・応需率・入院率 などを可視化し、納得感ある説明で自発的行動を促す

  • ワーキンググループによる現場の声の吸い上げ:救急・病棟・各科からの課題を定期的に議論し、「朝引き継ぎパス」などの具体施策を現場発で決める

  • 各科当直医の心理的負担軽減:「次の日に専門グループにバトンタッチする」仕組みで、当直医が抱え込まなくてよい環境を整備する

  • 相互尊敬(ミューチュアル・リスペクト)の徹底:医師・看護師・コメディカル・事務すべてがプロとして尊重される組織風土を育てる

組織文化の変革は、3ヶ月・半年では完成しない中期プロジェクトです。しかし、この文化こそが応需率を安定的に高水準で維持する唯一の基盤になります。

戦略5|救急隊との信頼関係を「実績」で構築する

第五の戦略は、救急隊との関係を「宣言」ではなく「実績」で構築することです。

救急隊の間では、「あの病院の当直医は受ける/受けない」という情報が日々共有されています。いくら病院が「受け入れます」と宣言しても、実際に断り続けていれば、救急隊からの要請は減っていきます。

関東地方の99床規模の病院で応需率を劇的に改善した救急専門医は、こう述べています。

「いくら言っただけでも信用は誰もしてくれない。しっかり断らずに受けていくことが救急隊との信頼関係に繋がる」

救急隊との信頼構築のロードマップ

  1. 宣言フェーズ(1ヶ月目):「救急を受ける」という方針を救急隊ミーティング等で明示

  2. 忍耐フェーズ(2〜4ヶ月目):宣言しても最初の3〜4ヶ月は電話が鳴らない時期が続く。ここで諦めないことが重要

  3. 実績蓄積フェーズ(5〜6ヶ月目):徐々に要請が増え、「受けてくれる病院」という認識が救急隊に浸透する

  4. 信頼定着フェーズ(7ヶ月以降):救急隊から幅広い要請が来るようになり、応需率が安定的に高水準で維持される

関東地方の262床規模の2次救急病院では、この過程を経て輪番日の応需率を60%台から90%超に改善しました。同院長は、現場のリアルをこう語っています。

「ドクターズプライムワーク医師が来る日は病院全体で救急を受けるという環境が整ってきており、院内の雰囲気も良い方向に変化しております」

救急隊との信頼関係は、病院経営における無形資産です。地域で「救急を受ける病院」というポジションを確立できれば、救急搬送→入院→DPC収益という経営の根幹にまで好影響が及びます。

自院の救急応需率を検証する──経営者向けチェックリスト

自院の救急応需率改善の余地を検証するために、以下の観点で現状を確認してみてはいかがでしょうか。

確認項目

改善余地のシグナル

現在の救急応需率(輪番日/平時)

70%未満なら構造的改善が必要

経営層の「受ける」方針の明示度

院長メッセージが院内に継続発信されていなければ着手すべき

受入基準のマニュアル化の有無

マニュアル不在なら、当直医の個人判断に依存している状態

救急外来から病棟への移動所要時間

30分を超えるなら出口設計に課題

転院先ネットワークの構築状況

24時間365日受けてくれる連携先が確保できているか

各科の当直医が救急をどう捉えているか

「救急科の問題」と認識している診療科が多いなら文化変革の余地

救急隊からの要請件数の推移

減少傾向なら信頼関係の毀損が始まっている可能性

これらのシグナルに複数該当する場合、救急応需率は単発の施策ではなく、5つの戦略を組み合わせた総合戦略として改善する必要があります。

なお、応需率の改善は診療報酬上の評価とも直結します。2024年度改定で独立した救急補正係数(救急医療入院症例への入院初期資源投入量を評価)に加え、2026年度改定では救急患者応需係数が新設されます。これは「重症度、医療・看護必要度」の該当患者割合に加算される係数で、「病床当たり年間救急搬送受入件数 × 0.005(上限10%)」で算出されます。該当患者割合+救急患者応需係数の合計値(割合指数)が、急性期一般入院料等の施設基準判定に用いられる仕組みです。

応需率を改善することは、救急隊との信頼関係構築のみならず、中期的な診療報酬上の評価向上にも直結する経営課題になっているのではないでしょうか。

救急応需率の改善がDPC収益に与える具体的な影響については、関連記事「救急補正係数を上げるには?DPC収益を最大化する5つの実践ステップ」で詳しく解説しています。救急当直医の確保戦略については、関連記事「救急当直医の確保が難しい病院がやるべき3つの経営判断」もあわせてご参照ください。

まとめ──応需率改善は「組織能力」の問題

救急応需率を構造的に改善するために必要な視点は、次の3点に集約できます。

  • 応需率は個人のスキルではなく組織の仕組みで決まる:経営層の方針明示・マニュアル化・出口設計・文化醸成・救急隊との信頼構築の5点セットが機能して初めて安定的に高水準が維持できます

  • 「断る理由」は常に見つかり続ける:だからこそ「まず受ける」というマインドセットを組織文化として根付かせることが本質的な解決策になります

  • 応需率改善は3〜6ヶ月かかる中期プロジェクト:短期的な数字だけを追わず、仕組みと文化の変革を継続することが、持続的な高応需率への道です

2026年度の次期診療報酬改定でも、救急医療を起点とした政策誘導はさらに強化される方向にあります。救急応需率を単なる「現場のKPI」ではなく、病院の経営戦略そのものとして位置づけ直すタイミングが来ているのではないでしょうか。

自院の救急応需率・入院転換率・病床稼働率の実データをもとに、組織としての救急応需率改善の具体的な打ち手を検討したい経営者・事務長の方は、救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」の活用を検討してみてはいかがでしょうか。「救急を断らない医師」の紹介と、救急データ分析による運用改善の両面から、救急体制の再設計を支援しています。本記事で触れた関東地方の大学病院系(応需率50%未満→約70%・受入1.6倍)や関東地方の99床規模病院(受入台数コロナ前比1.9倍)の事例も、同サービスの活用により実現しています。


引用元

執筆・編集・監修

執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。

監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。

参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ 

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