ホーム
keyboard_arrow_rightメソッドkeyboard_arrow_right

救急専門医がいない病院の「経営判断」|受ける/繋ぐ/撤退の三択フレーム

救急専門医がいない病院の「経営判断」|受ける/繋ぐ/撤退の三択フレーム

更新日:

2026/6/12

救急専門医がいない病院の「経営判断」|受ける/繋ぐ/撤退の三択フレーム|メソッド

最新情報を発信中!

専門家によるセミナーを毎日公開!

セミナー一覧

「うちには救急専門医がいないから、救急は無理だ」——多くの2次救急病院で繰り返されるこの言葉は、実は特殊事情ではなく業界標準の前提条件です。日本救急医学会によれば、救急科専門医は全国で約6,300人(2026年1月時点)。一方で救急告示病院は約4,000施設にのぼります。つまり、ほとんどの救急外来は「救急専門医以外の医師」が回しているのが現実です。本稿では、救急専門医不在を所与の条件として受け止めたうえで、経営判断のフレームを「受ける」「繋ぐ」「撤退」の三択で整理します。


「救急専門医がいない」は業界標準である

結論から述べます。救急専門医がいない前提で経営判断を組み立てる時代は、すでに到来しています。

日本救急医学会の公表データによると、救急科専門医の登録数は約6,300人です。しかし、この数字には資格のみ更新している医師や、救急以外の診療科で勤務している医師も含まれています。「救急医として現場で実際に働いている」数はさらに少ないと考えられます。

対して、全国の救急告示病院は約4,000施設です。仮に全員が現場に立っていたとしても、1施設あたり1.5人という計算になります。現実には、救急科専門医が複数在籍する3次救命救急センターに集中する傾向が強いため、多くの2次救急病院では専門医ゼロが常態化しています。

消防庁「令和7年版 救急・救助の現況」によると、令和6年中の救急出動件数は約772万件にのぼり、過去最多を更新しました。搬送される患者の6割強が高齢者であり、中等症・軽症が大半を占めます。救急需要は増え続ける一方で、それを支える救急専門医は圧倒的に足りていません。

この構造を正面から受け止めることが、経営判断の出発点になります。「専門医がいないから救急はできない」と嘆くのではなく、「専門医がいない前提でどう設計するか」が問われています。


三択フレーム|受ける/繋ぐ/撤退

救急専門医不在の病院が取りうる経営判断は、大きく3つに整理できます。「受ける」「繋ぐ」「撤退」の三択です。いずれを選ぶかは、地域の人口構成、近隣病院の体制、自院の経営体力、そして新地域医療構想における自院の位置づけによって異なります。

選択肢①「受ける」とは、救急専門医が不在でも、マニュアル化・外部医師活用・出口設計によって応需率を維持・向上させる方針です。救急搬送からの入院を経営の入口と位置づけ、病床稼働率の向上と収益改善を狙います。

選択肢②「繋ぐ」とは、自院でファーストタッチ(初期対応)を行ったうえで、必要に応じて高次医療機関や専門施設へ転送する設計です。あるいは逆に、3次救命救急センターから安定した患者を受け入れる「下り搬送」の受け皿となる方向もあります。

選択肢③「撤退」とは、救急告示を返上し、後方支援・回復期・在宅医療など別の機能にシフトする判断です。

重要なのは、この3つのどれも「正解」になりうるという点です。どれが正しいかは、自院が置かれた構造的条件によって決まります。判断を先送りにすること自体がリスクであり、「どれを選ぶか」よりも「いつ決めるか」が経営の成否を分けると考えられます。


「受ける」を選んだ病院の実装パターン

救急専門医がいなくても「受ける」を選択し、成果を上げている病院には共通する実装パターンがあります。ここでは2つの事例から、その要素を整理します。

ある2次救急病院(182床)では、常勤医の高齢化と属人的な救急体制が課題でした。「その日に出勤している医師次第」で受入の可否が変わる状態が続き、救急隊との関係も悪化していました。この病院が実施したのは、外部の救急対応可能な医師を活用し、応需基準をマニュアル化したうえで運営委員会を設置するという三点セットです。結果として、日勤帯の応需率はほぼ100%に到達し、月平均12.8人の入院を獲得。入院率75.8%を記録し、当初目標の「月3人の入院増」を大幅に上回る実績を初年度で達成しました。年間の売上増加額は3,600万円を超えています。

もう1つの事例は、輪番制の2次救急病院(262床)です。常勤医の高齢化による当直負担の増大と、応需率60%台への低迷が課題でした。院内でインセンティブ設置やオンコール体制の整備を試みましたが、医師個人の経験値やリスク感覚のばらつきによる「断り」は解消できませんでした。そこで、輪番日の当直に外部の救急対応に特化した医師を導入し、同時に「病床が8割充足したら近隣・かかりつけ患者に限定」という受入上限ルールを設計しました。結果として応需率は90%以上で安定し、病床稼働率も約9割に達しています。

2つの事例に共通するのは、次の3つの要素です。

第一に、応需基準のマニュアル化です。受けるか断るかの判断を個人の感覚に委ねず、病院として合意したルールに基づいて運用することで、「誰が当直でも同じ判断ができる」体制を実現しています。

第二に、医師の質保証です。外部医師の活用にあたって、スキルとマインドセット(「断らない姿勢」)の両面を担保する仕組みが組み込まれています。

第三に、運営委員会やPDCAサイクルの設計です。応需データを定期的に振り返り、断り事例を検証する仕組みが、組織全体の「受ける文化」を醸成しています。


「繋ぐ」を選ぶ場合の設計

「繋ぐ」には2つの方向性があります。1つは、自院でファーストタッチを行い、安定化させたうえで他院へ転送する設計。もう1つは、3次救命救急センターから安定した患者を受け入れる「下り搬送」の受け皿となる設計です。

後者について、ある3次救命救急センター(548床)の取り組みが参考になります。この病院では、搬送受入率98%を維持しながら、高齢者救急の急増に対応するため「出口の設計」に注力しました。病院長・副院長・看護部長・事務部長が揃って市内20数か所の病院を訪問し、下り搬送の受け入れを依頼。24時間365日対応可能な受入先を確保することで、救命救急センターの回転率が改善しました。

さらに、院内に配置した救命救急士が搬送前から転院先を並行して探索するタスクシフトの仕組みを構築しています。救急外来に到着した段階で、転院調整が同時に動き出す設計です。

救急患者連携搬送料は、2024年度(令和6年度)の診療報酬改定で新設された点数です。3次救命救急センターなどに搬送されたものの、リハビリ等を地域の病院で行うことが適切と判断された患者を、自院から連携病院へ転院搬送した場合に評価する仕組みです。2026年度改定ではこの点数の対象拡充と要件緩和が図られ、下り搬送の地域での普及が一層後押しされる見込みです。「受ける」ことが難しい病院であっても、この下り搬送の受け皿として地域救急に参加する選択肢が制度的にも担保されています。

直接救急車を受けることが難しくても、「診断確定済みの転院患者を受け入れる」形であれば、対応のハードルは格段に下がります。腰痛精査済み・ぎっくり腰相当の患者のように、リスクが限定された症例の転院受入は、救急専門医がいなくても十分に実施可能です。


「撤退」が経営判断として正しい場合

「撤退」は消極的な選択肢ではありません。ある病院の副理事長(元厚労省出身・消化器外科医)は、2026年度診療報酬改定の解説の中で次のように述べています。

「体制のできていないところが改定の点数を目指して今から救急車を受け入れるのはなかなか難しい。どこか受けているところに機能を任せて、自分たちは受ける方に回るという経営判断も必要になる」

2026年度の診療報酬改定では、急性期病院の機能を明確化する「急性期一般病院入院基本料」(急性期A・B)が新設されました。これは、救急搬送の受入実績や全身麻酔手術件数といった病院単位の実績を施設基準に組み込むもので、急性期機能の集約化を制度的に誘導する設計です。

また、新地域医療構想では、人口20〜30万人圏域に「急性期拠点機能」を持つ医療機関を1か所程度に集約する方針が示されています。この方向性のもとでは、救急受入実績を十分に積めない病院は、別の機能——後方支援、回復期リハ、在宅療養支援——にシフトする判断が合理的になります。

撤退の意思決定で重要なのは、タイミングです。地域医療構想の議論が本格化する前に、自院の立ち位置を明確にすることが、経営の選択肢を広げます。「まだ決めなくていい」という判断の先送りこそが、最もリスクの高い経営判断になりうる点は強調しておく必要があります。


まとめ|「救急専門医不在」は経営判断の出発点である

本稿の主張は、3つに集約されます。

第一に、救急専門医がいないことは特殊事情ではなく業界標準です。約6,300人の救急科専門医に対して約4,000の救急告示施設が存在する以上、不在を前提とした経営設計が求められています。

第二に、不在の前提に立ったとき、経営判断は「受ける」「繋ぐ」「撤退」の三択に整理できます。どれが正解かは自院の構造的条件によって異なりますが、いずれかを選ぶこと自体が経営者の責任です。

第三に、判断の先送りが最大のリスクです。2026年度診療報酬改定による急性期機能の選別、新地域医療構想による拠点集約化が同時に進行する中で、「いつ決めるか」が経営の成否を左右します。

「うちには救急医がいない」と嘆く時間を、「どう選ぶか」を検討する時間に変えること。それが、救急専門医不在時代の経営判断の出発点になるのではないでしょうか。


救急体制の構築に課題を感じている病院経営者の方へ——ドクターズプライムワークでは、救急対応に特化した医師の配置と、データに基づく救急運用の改善支援を行っています。自院の状況に合わせた具体的な設計についてのご相談を承ります。


関連記事

引用元

執筆・編集・監修

執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。

監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。

参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ 

メソッド

ICU・HCU稼働率と救急受入の連動設計|「年間1,000台」目標を病棟経営に翻訳する|メソッド
    • 病院経営収益化
    • 救急応需率向上
    • オペレーション改善
    • 診療報酬

    2026/6/12

    ICU・HCU稼働率と救急受入の連動設計|「年間1,000台」目標を病棟経営に翻訳する

    自院ベンチマーキングの作り方|応需率・入院率・在院日数を地域・病床規模で比較する手法|メソッド
      • 救急データ活用
      • 病院経営収益化
      • 救急応需率向上
      • 医療DX

      2026/6/12

      自院ベンチマーキングの作り方|応需率・入院率・在院日数を地域・病床規模で比較する手法

      KPI連鎖の経営学|「応需率→入院率→稼働率→収益」を1本の式で経営判断する|メソッド
        • 病院経営収益化
        • 救急応需率向上
        • オペレーション改善
        • 診療報酬

        2026/6/12

        KPI連鎖の経営学|「応需率→入院率→稼働率→収益」を1本の式で経営判断する

        メソッドをもっと見る

        先月は21件お問い合わせがありました

        資料請求

        「救急を断らない」を実現する独自メソッドとサービスの全貌。貴院の変革を支える具体的な仕組みを凝縮した、公式資料です。

        資料をダウンロードする

        お問い合わせ

        些細な疑問から、組織の構造変革のご相談まで。まずは対話から始めませんか? 私たちは「チームメイト」としてここにいます。

        まずは相談する

        メルマガ登録

        現場で生まれた成功事例から、持続可能な組織づくりのノウハウまで。変化を恐れない医療従事者・経営者へ送る、価値ある情報を定期配信します。

        登録する