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「専門外だから断る」を減らす─夜間1人当直でも回る救急応需の仕組み

「専門外だから断る」を減らす─夜間1人当直でも回る救急応需の仕組み

更新日:

2026/6/2

「専門外だから断る」を減らす─夜間1人当直でも回る救急応需の仕組み  |メソッド

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※本記事は、厚生労働省の一次情報(医科点数表 A205「救急医療管理加算」/その重症状態を定義する基本診療料の施設基準等 別表第七の三/令和8年度診療報酬改定の告示・関連資料〔令和8年3月公示〕)と、消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』、および全国100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善で得られた現場データ(2025年12月末時点)をもとに整理しています。

この記事の要約(3行サマリー)

  1. 夜間1人当直の「専門外だから断る」は、医師個人の問題ではなく、判断基準と後方体制が用意されていない「仕組みの不在」が生む構造的な現象です。

  2. ①受入基準のマニュアル化 ②出口(転院・退院)の設計 ③不応需の可視化 ④トップによる「受ける」方針の明示 ⑤夜間の人員設計—この5つの仕組みで、当直を増やさずに応需率は改善できます。

  3. 2026年度診療報酬改定(救急医療管理加算A205の見直しなど)の下でも、明確な理由のない不応需を減らす体制づくりは、経営の合理性に直結します。

夜間の当直は内科医が1人。そこへ専門外を思わせる搬送要請が入る—多くの2次救急病院で毎晩繰り返される場面です。当直医が「専門外なので」と断るのは怠慢ではなく、1人で重症を抱えるリスクと翌朝の院内摩擦を考えれば、断ることが最も安全な判断になる構造があるからです。
本記事は、この夜間の専門外不応需を、個人の頑張りではなく病院の仕組みで減らす方法を、現場事例と制度の両面から整理します。

救急応需率とは、救急隊からの受け入れ要請に対して実際に受け入れた割合を指します。 この数値が夜間に落ち込む背景には、当直医個人の判断に可否が委ねられ、基準が言語化されていないという構造があります。応需をためらわせる要因は「専門外」だけではありません。本記事ではこれを「専門外不応需の5要因モデル」として整理します。

いま夜間の救急で何が起きているのか?

救急需要は過去最多を更新し続ける一方で、夜間を支えるマンパワーは構造的に限られています。このギャップが、専門外を理由とした不応需を生む土壌です。

消防庁の統計によると、令和6年中の救急出動件数は約771万件と過去最多を記録し、搬送人員は約677万人にのぼりました[出典:消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』]。

指標(令和6年・救急自動車)

数値

救急出動件数

約771万件(過去最多)

搬送人員

約677万人

高齢者の割合

搬送人員の約6割

傷病程度

軽症・中等症で搬送全体の約9割

この表が示すのは、夜間に運ばれてくる患者の多くが高齢者の中等症・軽症であるという事実です。救急の現場に詳しいある救急専門医によれば、救急科を専門とする医師は全国でおよそ6,300人にとどまり、救急告示病院は約4,000施設にのぼります。
つまり、ほとんどの夜間救急は救急専門医ではない少人数の当直医が担っているのが実態です。専門外の患者を前に当直医が身構えるのは、この体制から見れば自然な反応とも言えるでしょう。

なぜ夜間の1人当直は「専門外」で断るのか?─専門外不応需の5要因モデル

断りが生まれる根本原因は、医師個人の意欲ではなく、判断を支える仕組みが用意されていないことにあります。応需をためらわせる要因は、次の5つに整理できます。

  • 専門外:自分では対応できないという判断で、最初から断る

  • 救急外来の混雑:これ以上は受けられないというキャパシティの限界

  • 病床なし:入院が必要と分かっていても、空き病床がないために断る

  • 複雑な背景を持つ患者:受けた後の長期化や転帰の困難を見越して躊躇する

  • 院内からの圧力:「なぜこの患者を受けたのか」と問われるイメージから萎縮する

5つ目は、経営層が「受ける」という方針を明確に掲げるだけで大きく解消できます。逆に方針が曖昧だと当直医は萎縮し、保守的な判断に傾きます。

もう一つの核心は「臆測で断る」という習慣です。あるベテランの救急専門医は、現場の本質をこう語っています。
「断る理由はいくらでも見つかる。でもその多くは臆測でしかない。一旦は受けてみる、受けた上で判断するというのが、地域の救急を担う病院としての役割だと思います」(ある救急専門医)

救急隊からの限られた情報だけで完全な判断はできません。明確な断り理由がなければ一度受けて、受けたうえで判断する—この「受入ロジックへの転換」が出発点です。応需をためらわせる5要因のさらに詳しい構造は、「断らない救急」がDPC収益を最大化する。救急補正係数・体制評価指数の攻略法 で掘り下げています。

「仕組み」を入れた病院では、夜間の応需はどう変わったのか?

判断基準と受け入れルールを設計した病院では、当直の人数を増やさずに応需率が改善しています。鍵は「断らない精神論」ではなく、「断り方と受け方のルール化」でした。

  • 首都圏の2次救急病院:輪番日の応需率が6割台で停滞。診療範囲の広い外部の救急医を配置し、「病床が一定割合まで埋まったら近隣・かかりつけ患者に限定」という受入上限ルールを設計。結果、応需率は9割超で安定し、1晩15〜20台をスムーズに受けられるようになった。同院の院長は「救急車が7、8台並んでも、医師1人でスムーズに対応してくれるため安心して任せられる」と語る。

  • 300床超の2次救急病院:応需率5割未満から、「この症例ならこの検査セット」という診療マニュアルを整備。外部医師でも迷わず診療できる環境を作り、救急受入は年間3,000台弱から約4,800台(約1.6倍)、応需率は約7割へ改善。

  • 公立の2次救急病院:外部医師確保で受入は年間600〜800件から約1,900件へ増えたが、目標には届かず。院長は「医師さえいれば受け入れが増える」という方程式の限界に直面し、受入基準のマニュアル化・救急日誌の確認・断り事例の救急会議での検証へと舵を切った。

共通するのは、「医師個人のスキルや判断基準に依存するのではなく、病院としてどう判断し動くかという組織の基準を作る」という転換です。

夜間1人当直でも断らない体制は、何から作るのか?─5つの仕組み

5要因モデルの各要因は、対応する仕組みで解消できます。まず全体像を対応表で示します。

断りの要因(5要因モデル)

対応する仕組み

専門外への不安

① 受入基準・症候別マニュアルの明文化

病床なし

② 出口(転院・退院)の設計

判断の属人化

③ 不応需の可視化と救急運営委員会

院内からの圧力

④ トップによる「受ける」方針の明示

夜間の人員不足

⑤ 診療範囲の広い外部医師の配置

それぞれの設計ポイントは次のとおりです。

  1. 受入基準・当直マニュアルの明文化:受け入れの可否を「原則受入/専門科に相談のうえ判断/高次へ転送」の3分類で定義します(受入判断3分類)。頭部外傷・消化管出血・頭痛などのグレーゾーンも、PECARN・Canadian CT Head Rule・Glasgow-Blatchford Score・SNOOPといった判断基準を備えれば、「設備がないから断る」を減らせます。

  2. 出口(転院・退院)の設計:救急ケアは「来院(Input)/診断・方針決定(Throughput)/退出(Output)」の三層で動き、最大のボトルネックは出口にあります(Input-Throughput-Outputモデル)。転院調整を病院救命士や事務職へタスクシフトし、地域連携施設と双方向の取り決め(急変時は受ける/落ち着いたら戻す)を結ぶことで、受け入れがスムーズになります。

  3. 不応需の可視化と救急運営委員会によるPDCA:断りの理由を「専門外・満床・処置不可」などに分類し、医師別・時間帯別・症候別に可視化して、月1回の委員会で振り返ります。

  4. 「受ける」方針のトップ明示とインセンティブ設計:院内圧力という要因は、経営層が「病院全体で救急を受ける」と明確に掲げることで解消できます。受け入れや入院に対するインセンティブを設けると、現場は自信を持って受けられます。救急医療管理加算(A205)をはじめ、2026年度改定は救急搬送から入院につながった初期対応への評価を強めており、明確な理由のない不応需は取れるはずの評価の取りこぼしと同義になりつつあります。

  5. 夜間帯の人員設計:常勤医を疲弊させずに夜間を支えるには、診療範囲の広い外部医師や、曜日ごとに初期対応を担う「ファーストタッチ担当医」を配置する方法があります。

最初の一手は明確です。まず1か月分の不応需理由を「専門外」「満床」「処置不可」に分類してください。 これだけで、仕組みで解ける部分と機能の限界を切り分ける議論が始まります。

まとめ:個人の頑張りではなく、個人に依存しない仕組みへ

  • 「専門外だから断る」は当直医個人の問題ではなく、判断基準と後方体制が用意されていない「仕組みの不在」が生む構造的な現象です。

  • 受入基準のマニュアル化・出口の設計・断りの可視化・トップによる方針明示・夜間の人員設計という5つの仕組みを組み合わせれば、当直の人数を増やさずに応需率を改善できます。

  • 明確な断り理由がなければ一度受けて判断する——この受入ロジックへの転換が、地域の救急を担う病院の役割であり、2026年度改定下の経営合理性にもかなう選択です。

よくある質問

Q. 当直マニュアルには、具体的に何を書けばよいですか?
A. 最低限、「原則受入/専門科に相談のうえ判断/高次へ転送」の受入判断3分類と、転送手順を明記します。あわせて頻度の高い症候(胸痛・腹痛・頭痛・転倒など)ごとに、危険所見と専門科コール基準を1枚にまとめると、1人当直でも判断の迷いが減ります。

Q. 「専門外」の患者をどこまで受け入れるか、線引きはどう決めますか?
A. 夜間当直医の役割を「専門的な最終診断」ではなく「初期の安定化と重症の除外」に再定義することが出発点です。消防庁統計でも搬送患者の約9割は軽症・中等症であり、緊急手術や緊急カテーテルが必須の症例のみを高次医療機関へ送る基準を病院として定めれば、線引きは明確になります。

Q. 医師を増やさずに、夜間の応需率を上げることは可能ですか?
A. 可能です。受入基準のマニュアル化と出口(転院・退院)の設計だけでも、断りは相当数減らせます。ある公立病院の事例は「医師を増やせば解決する」が半分しか正解でないことを示しており、組織としての判断基準づくりが応需率を左右します。

Q. 1人当直の不安をフォローする後方体制は、どう作ればよいですか?
A. 各科のオンコール責任者・返答時間の目安・電話相談か来院かの線引きを明文化し、「専門外を理由に断る前に必ず責任者へ1コール」というルールを設けると効果的です。「相談すれば受けられた」症例が一定数存在するため、相談導線の整備だけで不応需が減る病院は少なくありません。

Q. 受け入れを増やすと、当直医や専門科が疲弊しませんか?
A. 受け入れの拡大と負担軽減は、出口設計とタスクシフトで両立できます。入院確定後の転院調整は医師でなくても担えるため、病院救命士や事務職への移管で医師の負担を抑えられます。


関連記事(詳細解説)

参照情報

  • 消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』(令和6年中の救急出動件数等)

  • 厚生労働省 医科点数表 A205「救急医療管理加算」/基本診療料の施設基準等 別表第七の三

  • 厚生労働省 令和8年度診療報酬改定 告示・関連資料(令和8年3月公示)

  • ドクターズプライムワーク 支援実績(2025年12月末時点:100病院超・累計救急受入16万人)

執筆・編集・監修

執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。

監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。

参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ 

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