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救急ファーストタッチ→下り搬送の判断基準と地域連携設計「自院で受けて、安全に転送する」を仕組み化する

救急ファーストタッチ→下り搬送の判断基準と地域連携設計「自院で受けて、安全に転送する」を仕組み化する

更新日:

2026/6/2

救急ファーストタッチ→下り搬送の判断基準と地域連携設計「自院で受けて、安全に転送する」を仕組み化する|メソッド

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※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省・消防庁の一次情報をもとに、救急のファーストタッチから安全な下り搬送までを4分類の判断軸で設計する方法を解説します。


30秒サマリー

  • 救急受入は「受けるか/断るか」の二択ではなく、「いったん受けて、適切な出口に流す」第三の道があります。

  • 自院の対応を「自院完結/上り搬送/下り搬送/自院継続」の4分類で整理すると、受入判断が臆測ではなく設計に変わります。

  • 令和6年度改定で新設された救急患者連携搬送料は、下り搬送を制度的に評価する点数です。

  • 下り搬送を回す鍵は、管理者が連携先を直接開拓する「出口の設計」と、救命救急士・MSWへのタスクシフトにあります。

  • ファーストタッチを成立させるには、曜日ごとの担当医制度など「院内たらい回し」を防ぐ組織設計が有効です。


救急受入の議論は「受けるか、断るか」の二択で終わりがちではないでしょうか。しかし実際には第三の道があります。「いったん受けて、適切な出口に流す」という設計です。令和6年度診療報酬改定では下り搬送を評価する点数が新設され、高次の救急医療機関から地域の病院への転院搬送が制度的に位置づけられました。本記事では、ファーストタッチで自院が初期対応し、安全に転送するまでを4分類の判断軸で設計する方法を解説します。


「受ける/断る」の二択を超える第三の道

「救急医療の体制構築に係る指針(いわゆる『下り搬送』に係る第8次医療計画の見直しのポイント)」に関するスライド資料。 高齢者の救急搬送の増加や、ベッド満床による受け入れ困難事案(救急医療機関の出口の問題)といった現状が記載されています。これを改善するため、高度救命救急センター等の基幹となる救急医療機関から、第二次救急医療機関や後方支援を行う医療機関への「転院(下り搬送)」を促進する流れが図解されています。また、第8次医療計画の指針として、医療機関間での事前の情報共有の徹底や、転院搬送における医療機関所有の搬送用車両の活用を求める内容が記載されています。

引用:厚生労働省 医政局地域医療計画 救急・周産期医療等対策室「令和6年度第2回 全国メディカルコントロール協議会連絡会(厚生労働省資料)」

救急受入率の向上は、出口設計とセットで考えることが本質です。受入を「受けるか/断るか」の二択でとらえている限り、病床や専門性の制約に直面するたびに「断る」が選ばれてしまいます。

救急ケアシステムは、来院(Input)・診断と方針決定(Throughput)・退出(Output)の三層構造で整理できます。このうち来院は制御できず、診断と方針決定にはさほど時間はかかりません。問題は退出です。入院病床への移動待ち、転院先が見つからない、帰る手段がないといった理由で、患者が救急外来に長期滞在し、混雑が生まれます。

つまり、応需率を下げている最大のボトルネックは「入口」ではなく「出口」にあると考えられます。受けた患者を適切な行き先へ流す仕組みがあれば、次の患者を受けられます。受入と出口は、車の両輪の関係にあります。

📌編集部ピックアップ
過去に配信したセミナーでの発言によると、ある救急部門の責任者は「断る理由はいくらでも見つかるが、その多くは臆測でしかない。一旦は受けて、受けた上で判断するのが地域の救急を担う病院の役割」と語っています。応需をためらわせる要因のうち「院内からの圧力」は、経営層が受入方針を明示することで解消できる、という指摘も示されました。


4分類の判断軸|自院完結・上り搬送・下り搬送・自院継続

救急のファーストタッチ後の進路は、大きく4つに整理できます。受入の瞬間に「受ける/断る」を決めるのではなく、初期対応の後でどの分類に振り分けるかを設計しておくと、現場の迷いが減ります。

  • 分類①|自院完結:軽症から中等症で、自院で診断・治療・退院まで完結させるケースです。グレーゾーン症例の多くは、判断基準を持てば専門医不在でも自院で対応できます。

  • 分類②|上り搬送:自院では対応困難な重症例を、より高次の医療機関へ転送するケースです。明確なレッドフラグがある場合の正しい判断です。

  • 分類③|下り搬送:高次の救命救急センター等が初期対応した後、リハビリ等を積極的に行える地域の病院へ転院搬送するケースです。令和6年度改定で評価対象になりました。

  • 分類④|自院継続(入院):自院でファーストタッチ後、そのまま自院で入院管理に移行するケースです。応需率を病床稼働率・収益に結びつける起点になります。

重要なのは、自院がこの4分類のどこを主に担うかを、地域の中での役割として定めることです。下り搬送を受ける側に回るのか、ファーストタッチして上下に振り分ける側に立つのか。これは現場の判断ではなく、経営判断と言えます。


令和6年度改定が評価した「下り搬送」とは何か

下り搬送とは、高次の救急医療機関が初期対応した患者を、自院で対応すべき重症ではないと判断した上で、連携する地域の病院へ転院搬送する仕組みです。高齢の救急搬送患者が急性期病棟に入院すると、安静臥床から筋力低下、要介護度の悪化につながるリスクが高いことを踏まえ、リハビリ等を行える地域の病院へ早期に移すことが目的とされています。

令和8年度診療報酬改定における「救急患者連携搬送料の見直し」に関するスライド資料。 高次の救急医療機関と他の医療機関との連携強化や転院搬送の推進を目的とした見直し内容がまとめられています。主なポイントとして、入院前に搬送を行う場合の評価引き上げ(例:医師等が同乗し、入院中の患者以外を搬送する場合、現行の1,800点から改定後は2,400点へ引き上げ)、自院の救急自動車以外の活用も評価対象となることが示されています。また、搬送先医療機関における受け入れの評価(救急患者連携搬送料2の新設:800点または200点)や、医師等が同乗して30分超の搬送を行う場合の「長時間加算(700点)」の新設について、算定要件や施設基準とともに記載されています。

引用:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要 10.重点的な対応が求められる分野(救急医療・小児周産期医療)」

令和6年度診療報酬改定では、この下り搬送を評価する「救急患者連携搬送料」が新設されました。搬送する側の医療機関が、医師・看護師・救急救命士のいずれかが同乗して搬送した場合に算定できます。

比較項目

救急患者連携搬送料(令和6年度新設)

入院中の患者以外の場合

1,800点(救急外来対応後すぐに搬送)

入院初日の患者の場合

1,200点

入院2日目の患者の場合

800点

入院3日目の患者の場合

600点

注目すべきは、救急外来で初期診療を行った直後に搬送する場合(入院前)の評価が最も高く設定されている点です。これは「受けてすぐ、適切な出口へ流す」という運用を制度が後押ししていることを意味します。

そして2026年度改定(令和8年6月施行)では、この下り搬送の評価がさらに拡充されました。厚生労働省の改定説明資料によれば、見直しの柱は3点に整理できます。第一に、医師等が同乗して行う入院前搬送の評価が引き上げられました。第二に、民間救急などを活用し医師等が同乗しない搬送も、新たに評価対象に加わりました。第三に、これまで搬送する側だけが算定できた点数に加え、下り搬送を受け入れる地域の医療機関に対する評価が新設されました。出す側と受ける側の双方を評価する設計です。改定後の点数体系は次の通りです。

救急患者連携搬送料1(搬送する側で算定)

比較項目

イ 医師・看護師・救急救命士が同乗

ロ その他(同乗なし・民間救急等/新設)

入院中の患者以外(入院前)

2,400点

1,000点

入院初日の患者

1,200点

500点

入院2日目の患者

800点

350点

入院3日目の患者

600点

200点

救急患者連携搬送料2(受け入れる側で算定・新設)

比較項目

点数

イ 医師・看護師・救急救命士が同乗

800点

ロ その他

200点

医師等が同乗する入院前搬送が令和6年度の1,800点から2,400点へと引き上げられ、これまで評価のなかった「同乗なし搬送」と「受け入れ側」が新たに算定対象になりました。これは下り搬送が地域でより普及していくことを政策的に強く意図したものと言えます。


高齢者救急の急増という背景

下り搬送が制度評価される背景には、高齢者救急の構造的な急増があります。消防庁「令和7年版 救急・救助の現況」によれば、令和6年中の救急出動件数は772万740件で、集計を開始した昭和38年以降の最多を更新しました。救急自動車による搬送人員676万9,172人のうち、高齢者は428万4,953人で全体の6割超を占め、前年比でも約19万人増加しています。

厚生労働省の資料は、三次救急医療機関に中等症患者も入院することで病床がひっ迫し、重症患者の転院搬送が困難になる場面があると指摘しています。軽症から中等症の患者の入院長期化が、新たな救急患者の受け入れを妨げているという構造です。中等症の患者層は分野が多岐にわたるため、受入先決定にも時間がかかりやすいと考えられます。

高齢者救急は「受ける」だけでは解決しません。併存症やせん妄により在院日数が延び、転院先が確保できなければ病床が埋まり続けます。だからこそ、受けた後の出口を設計することが、高齢者救急対応の核心になります。

📌編集部ピックアップ
ドクターズプライム編集部が取材した中部地方のある救命救急センターでは、救急搬送受入率98%を維持しながら、下り搬送の仕組みを組織で構築しています。病院長・副院長・看護部長・事務部長が揃って市内20数ヵ所の病院を直接訪問し、下り搬送の受け入れを依頼。その結果、24時間365日で受け入れてくれる連携先が現れ、救命救急センターの回転率が改善したといいます。


下り搬送を組織で回す|出口の設計とタスクシフト

下り搬送は、現場の善意ではなく組織の仕組みとして回す必要があります。前述の救命救急センターの事例では、管理者層が自ら連携先を開拓したことが転機になりました。以前はこうした管理者による病院巡回はなかったといいます。連携先との双方向の約束、すなわち「急変時は高次が責任を持って受ける」「落ち着いたら地域の病院が引き受ける」という関係を築くことで、搬送がスムーズになります。

タスクシフトも鍵になります。同センターでは救命救急士を院内に6名配置し、2次救急搬送の受入電話対応、搬送前段階からの転院先探索、病院救急車による下り搬送の実施までを担っています。入院確定後の転院調整は、必ずしも医師が行う必要はありません。誤嚥性肺炎の患者が救急外来に到着した段階で並行して転院先を探し始めるといった運用は、医師の負担を大幅に削減します。

加えて、MSW(メディカルソーシャルワーカー)による転院先調整や介護保険の取得支援も、出口を広げる重要な役割を果たします。介護申請によって転院先の選択肢が増えるため、入院早期からの介入が効果的です。


ファーストタッチを成立させる組織設計

ファーストタッチを成立させる鍵は、専任担当を置いて「院内たらい回し」を防ぐことです。せっかく救急車を受けても、内科と外科の境界が曖昧な症例で院内の各科が押し付け合えば、現場は疲弊し受入意欲が下がります。

ある2次救急病院では、従来の各科対応をやめ、曜日ごとに1名がファーストタッチを担う担当医制度へ移行しました。麻酔科や内科の医師も外傷の初期対応を担い、専門科がバックアップに回る運用です。これにより、初期対応の窓口が一本化され、院内での振り分けがスムーズになりました。

この病院では、コロナ禍で年間2,000台規模まで落ち込んでいた救急受入が、改革2年後にはコロナ前比で約1.9倍まで回復しています。同院の救急専門医は、再現性の高い方法として「1人専任のファーストタッチを置くこと」を挙げています。専任担当の設置は、特別な投資というより組織設計の問題と言えるのではないでしょうか。

📌編集部ピックアップ
ドクターズプライム編集部の取材によると、ある新宿の中規模病院では「断らない宣言」を院内と救急隊に継続して発信し、電話が鳴らない時期が3〜4ヶ月続いても諦めずに受け続けたことで、救急隊との信頼関係を構築しました。同院の副院長は「いくら言っただけでも信用は誰もしてくれない。しっかり断らずに受けていくことが信頼に繋がる」と語っています。


まとめ——「断らない救急」と「下り搬送」は両輪

本記事の論点を3点に整理します。

  • 救急受入は「受ける/断る」の二択ではなく、自院完結・上り搬送・下り搬送・自院継続の4分類で設計するものです。

  • 令和6年度改定の救急患者連携搬送料により、下り搬送は制度的に評価される運用になりました。出口の設計が収益にも直結します。

  • 下り搬送を回すには管理者による連携先開拓とタスクシフトが、ファーストタッチを成立させるには専任担当制が有効です。

「断らない救急」と「下り搬送」は対立する概念ではなく、両輪の関係にあります。自院でいったん受け、適切な出口へ安全に流す。その出口を持つ病院こそが、地域の救急を持続的に担えるのではないでしょうか。自院が地域の中でどの役割を担うのか——その方向性を「いつ決めるか」が、これからの経営の分岐点になります。

本記事で触れたファーストタッチ体制の構築や下り搬送の連携設計について、具体的な運用事例に関心のある方は、各病院のインタビュー記事もあわせてご覧ください。


よくある質問

Q1. 救急の下り搬送とは何ですか?どう判断すればよいですか?

高次の救急医療機関が初期対応した患者を、自院で対応すべき重症ではないと判断した上で、地域の病院へ転院搬送する仕組みです。判断は「受ける/断る」ではなく、自院完結・上り搬送・下り搬送・自院継続の4分類で整理すると、現場の迷いが減ります。

Q2. 令和6年度改定の下り搬送の点数(救急患者連携搬送料)はいくらですか?

入院前の搬送が1,800点で最も高く設定されています。入院初日1,200点、2日目800点、3日目600点と、早期の搬送ほど高く評価される構造です。2026年6月施行の改定では、入院前搬送(医師等が同乗)が2,400点に引き上げられたほか、民間救急等を活用した同乗なし搬送(入院前1,000点ほか)と、受け入れ側を評価する救急患者連携搬送料2(同乗あり800点・その他200点)も新設されました。

Q3. なぜいま下り搬送が重視されているのですか?

高齢者救急の急増により、受けた後の出口確保が病床運用の鍵になっているためです。令和6年の救急出動件数は772万件超で過去最多、救急自動車による搬送人員の6割超が高齢者です。高齢者は在院日数が延びやすく、出口がなければ病床が埋まり続けます。

Q4. 下り搬送を機能させるために、まず何から始めるべきですか?

連携先の開拓とタスクシフトの2点から着手することをおすすめします。管理者層が地域の病院を直接訪問して双方向の受入関係を築き、転院調整を救命救急士やMSWに移すことで、医師の負担を抑えながら出口を広げられます。

Q5. ファーストタッチ担当医制度とは何ですか?

曜日ごとに1名が初期対応の窓口を担い、院内での振り分けを一本化する仕組みです。内科・外科の境界が曖昧な症例での「院内たらい回し」を防ぎ、専門科がバックアップに回ります。再現性の高い受入体制づくりの方法として知られています。

Q6. 自院は下り搬送を「出す側」と「受ける側」のどちらを担うべきですか?

自院の救急実績と地域内の役割分担によって決まる経営判断です。救急実績を積める病院はファーストタッチして上下に振り分ける側に、実績を積みにくい病院は下り搬送を受ける側に回ることで、地域救急に貢献できます。


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参照元

執筆・編集・監修

執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。

監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。

参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ 

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