更新日:
2026/6/2

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※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省の一次情報をもとに、救急多職種化の設計と外部リソース活用の実務ポイントを解説します。
医師の働き方改革が2024年4月に施行された今、救急運営を「医師に集中させない」設計が、すべての2次・3次救急病院に問われています。救命救急士の院内活用、診療看護師(NP)の配置、救急専属看護師の育成——選択肢は揃いつつありますが、どこから手を付けるべきかが分かりにくいのも事実です。本稿では、救急現場の多職種タスクシフトを「3職種の活用範囲」「配置設計の実装」「採用ルートと育成」の3つの切り口で整理します。
結論として、救急運営を立て直す問いは「医師を増やす」から「医師に集中させない」へと転換しています。
厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」は、医師の長時間労働の削減を目的に、看護師・薬剤師・救急救命士・診療放射線技師など他職種への業務移管を体系的に整理しました。2024年4月の医師時間外労働の上限規制施行を受けて、この動きは「議論」から「実装」へと段階を進めています。
救急領域では、この構造変化が特に顕著です。総務省消防庁の速報値によれば、令和6年の救急出動件数は770万件を超え、過去最多を更新しました。搬送患者の高齢者比率は約6割(85歳以上が約25%)に達し、対応の複雑性は増す一方です。一方で、医師の総量を急に増やすことは現実的ではありません。
ここから導かれる経営判断は明快です。「医師にしかできない仕事」と「医師でなくてもよい仕事」を切り分け、後者を多職種で担う設計が現実解になります。その候補が、本稿で扱う3職種——救命救急士・診療看護師(NP)・救急専属看護師です。
結論として、3職種それぞれの法的根拠と現場で担い得る領域を整理することが、配置設計の出発点となります。
比較項目 | 救命救急士(院内) | 診療看護師(NP) | 救急専属看護師 |
|---|---|---|---|
根拠制度 | 救急救命士法(2021年10月改正) | 特定行為研修制度(2015年10月創設) | 看護師資格+院内配置設計 |
院内での主な役割 | 救急隊との窓口対応、病院救急車運転、転院搬送調整、院内搬送補助 | 病棟呼び出しへの先行対応・アセスメント、特定行為の実施 | 救急外来固定配置、症例蓄積、勉強会主導 |
業務範囲 | 重度傷病者の到着〜入院までの救急救命処置(医師の具体的指示下) | 21区分38行為の特定行為(手順書による) | 看護師の業務範囲+救急領域の専門性深化 |
人材プール | 全国登録約7.6万人(うち消防外勤務多数) | 特定行為研修修了者(拡大中) | 院内異動+外部募集 |
2021年10月施行の改正救急救命士法により、医療機関に勤務する救急救命士は、所定の院内研修を修了したうえで「重度傷病者が病院もしくは診療所に到着し、当該病院もしくは診療所に入院するまでの間」に救急救命処置を実施できるようになりました。改正前は「搬送されるまで」に限定されていたため、院内活用の幅が大きく広がっています。
現場での具体的役割は、救急隊からの受入電話対応、病院救急車の運転、転院搬送の調整など、医師・看護師の業務を圧迫していた「窓口・搬送・調整業務」を担うパターンが中心です。なお、消防に勤務する救急救命士がそのまま院内処置を担うことはできず、病院側で雇用関係を結んだうえでの院内研修修了が前提となります。
2015年10月に創設された特定行為に係る看護師の研修制度に基づき、21区分38行為について、医師が事前に作成した手順書のもとで自律的に判断・実施できる看護師を指します。日本NP教育大学院協議会等が認定する大学院修士課程修了者は「診療看護師(JNP/NP)」と呼ばれ、より広い臨床判断能力を備えた人材として救急領域でも注目されています。
救急領域では、病棟からの呼び出しへの一次対応、患者アセスメント、医師の指示出しを待たずに進められる処置などを担い、常勤医、特に夜間オンコールの負担を直接軽減できます。
救急専属看護師は、特別な資格制度を伴うものではなく、救急外来に固定配置することで救急領域の症例経験・知識を蓄積した看護師を指します。看護師主導の勉強会、救急隊との関係構築、新人看護師の教育など、「救急の現場文化」を支える役割が中心です。
結論として、3職種をどう組み合わせるかは病院の規模・救急機能によって異なりますが、共通するのは「医師業務の切り出しから設計が始まる」という発想です。
都市部の3次救命救急センター(500床超)では、院内に救命救急士6名を配置し、2次救急からの搬送受入電話対応、搬送前段階からの転院先探し、病院救急車の運転による下り搬送までを担う体制を構築しています。この病院では救急搬送受入率約98%という水準を維持していますが、その裏側には「受けた後の出口」を整備する仕組みがあり、救命救急士がそのキープレイヤーとなっています。
副院長は「救命救急士も非常にそういう任務を担えるということで、誇り高く働いてくれている」と述べています。職域の広がりは、職員のモチベーション向上にも結びついています。
埼玉県内の2次救急病院(300床超)では、看護師不足を背景に、2024年から救急救命士の採用を開始しました。現在は5名(うち女性3名)が在籍し、役割は看護師タスク(点滴補助・患者移動)と医師タスク(救急隊情報の収集、カルテ記載、オーダー入力)の両方にまたがります。
女性救命士の登用に合わせて電動ストレッチャーを導入し、身体的負荷を下げる装備投資を並行しています。月20件以上の「お迎え搬送」要請にも、病院救急車を救急救命士が運転して対応しています。消防研修への派遣も組み合わせ、運転スキルと現場対応力を継続的に底上げしている点も特徴です。
東京都内の2次救急病院(100床未満)では、2025年10月から診療看護師(NP)を採用しました。主な役割は、病棟からの呼び出しへの先行対応とアセスメントで、常勤医がオンコールで呼び出される回数を削減する設計です。
NPの導入は単なる人員追加ではなく、「常勤医が判断しなければならない場面」自体を減らす設計です。救急専門医である副院長は「自分が折れないことが一番大事。自分が折れるとチーム全体が傾く」と語っています。NP活用は、組織の「折れない頂点」を増やすための投資とも言い換えられます。
埼玉県内の別の2次救急病院(300床超)では、救急専属看護師を配置したことで「看護師主導で勉強会が開かれるなど、現場の空気がポジティブなものへ変わった」と現場から声が上がっています。同院ではこの取り組みを含む組織変革により、救急応需率が50%未満から約70%へ、年間救急受入台数は約3,000台から約4,800台へと改善しました。
この事例が示すのは、救急専属看護師の効果は「業務分担」だけではないということです。固定配置による経験値の蓄積が現場の自走を生み、医師に依存しない学習サイクルを形成しています。
結論として、3職種それぞれに人材プールの「見つかり方」が異なります。採用設計と育成設計を分けて考えることが必要です。
内閣府規制改革推進会議の資料によれば、救急救命士の登録者は令和7年1月時点で約75,915人に上ります。このうち、就業状況等の内訳が把握されている約5.6万人のデータをみると、消防本部に就職しているのは37,143人(約66%)、医療機関等での勤務は9,264人(約16%)、自衛隊・海上保安庁が950人(約2%)と整理されています。そして残りの約16%(9,111人)が「潜在救急救命士」等と分類され、消防機関に就職できなかった者、定年・途中退職者、出産・育児を機に離職した女性などが含まれます。
つまり、消防外には決して小さくない人材プールが存在しており、病院側がこの層にどうリーチするかが採用成否を分けます。事例2では「若くて体力があり、採用応募が集まりやすい」点が、看護師不足の代替策として救命救急士採用に踏み切る決め手になりました。
特定行為研修の修了者数は徐々に増えていますが、当初の「2025年までに10万人以上」という政府目標からは大きく下回る水準にとどまっています。研修指定機関は全国に分散しているものの、地域によっては有資格者の確保が容易ではありません。
NPの活用を進める病院では、外部採用に加えて、院内看護師に対する研修受講支援(費用補助・勤務調整)を組み合わせ、外部採用と内部育成の二刀流で人材を確保しているケースが見られます。育成には2年程度の期間を要するため、5年スパンの人事戦略として位置づけることが現実的です。
救急専属看護師は資格制度に依存しないため、「人材プール探し」というよりは「院内配置設計」の問題に近いです。院内の救急関心層を異動させる、または外部から救急経験者を採用する——いずれの場合も、「救急に固定配置する」というポジション設計が前提となります。
事例4で見たような「看護師主導の勉強会」が自発的に立ち上がる文化は、固定配置という制度設計があって初めて成立します。配置を切り出すこと自体が、採用と育成の起点になります。
本稿で示した3つのポイントを再掲します。
救命救急士・診療看護師(NP)・救急専属看護師の3職種は、それぞれ法的根拠と業務範囲が異なります。設計の出発点はこの整理にあります
配置事例は病院の規模・機能によって異なりますが、共通するのは「医師業務の切り出し」が起点となる点です
採用は3職種で人材プールも経路も異なります。消防外の救命救急士、特定行為研修修了看護師、院内固定配置の救急看護師——それぞれに別の戦略が必要です
「医師が足りない」という嘆きから、「多職種で補う」という発想への転換が問われています。3職種の組み合わせ設計は、医師の絶対数を変えずに救急現場の手数を増やす経営判断であり、医師の働き方改革時代の現実解の一つではないでしょうか。組織設計の課題として、いつ、どの順序で着手するかが、これからの救急運営を左右します。
本稿で紹介した多職種タスクシフト設計の実装について、自院での具体的な進め方や、外部医師との組み合わせに関心のある経営者の方は、関連する病院事例の インタビュー記事 や サービス詳細 をご参照ください。「救急車のたらい回しを解決し、病院経営を黒字化する」——『断らない医師』と『データ分析』の救急改善プラットフォーム、ドクターズプライムワークは、ここで取り上げた多くの病院の取り組みを現場で支援してまいりました。
A. 2021年10月施行の改正救急救命士法により、医療機関に勤務する救急救命士は、所定の院内研修を修了したうえで「重度傷病者が病院に到着し、入院するまでの間」に救急救命処置を実施できるようになりました。改正前は「搬送されるまで」に限定されていたため、院内活用の幅が大きく広がっています。なお、消防に勤務する救急救命士がそのまま院内処置を担うことはできない点には注意が必要です。
A. いずれも厚労省の「特定行為に係る看護師の研修制度」に基づき特定行為を実施できる看護師ですが、診療看護師(NP/JNP)は、日本NP教育大学院協議会等が認定する大学院修士課程の修了者を指す呼称として用いられています。21区分38行為のうちどの区分を修了しているかで、現場で担える業務範囲が異なりますので、求人段階で確認することが推奨されます。
A. 自院で「医師の時間を最も奪っている業務は何か」を可視化し、そこに対応する職種から導入するのが現実的です。救急隊との電話対応・転院搬送調整が課題なら救命救急士、夜間の病棟呼び出しが課題なら診療看護師(NP)、救急外来の経験値蓄積が課題なら救急専属看護師——という対応関係で検討すると、優先順位が見えてきます。一気に揃えるのではなく、最もボトルネックとなっている領域から段階的に導入する設計が、定着率の面でも有効です。
■ 厚生労働省
「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理(案)」(第7回検討会・資料3・令和2年12月11日)
「特定行為に係る看護師の研修制度の概要」(第3回 看護師の特定行為研修制度見直しに係るワーキンググループ・参考資料3・令和7年11月10日)
「看護師の特定行為に係る研修機関支援事業 論点等説明シート」(厚労省事業仕分け資料・平成29年)
「厚生労働省からの情報提供」(厚労省医政局地域医療計画課・令和3年度全国メディカルコントロール協議会連絡会(第2回)資料・令和4年1月28日)
■ 総務省消防庁
■ 厚生労働省医政局
「救急救命処置の範囲の拡大について」(令和7年3月14日・健康・医療・介護WG資料1-6)
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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