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KPI連鎖の経営学|「応需率→入院率→稼働率→収益」を1本の式で経営判断する

KPI連鎖の経営学|「応需率→入院率→稼働率→収益」を1本の式で経営判断する

更新日:

2026/6/16

KPI連鎖の経営学|「応需率→入院率→稼働率→収益」を1本の式で経営判断する|メソッド

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「応需率は上げたが収益が伸びない」「入院率が安定しない」「ICU・HCUが埋まらない」——これらは別々の問題のように見えて、実は1本の連鎖で繋がっています。応需率→入院率→病床稼働率→収益。この4つのKPIを単独の指標として眺めるのではなく、1本の経営方程式として再定義することが、救急改革を収益に結びつける第一歩です。本稿では、4指標のKPI連鎖モデルを構造的に解き明かし、各段階での漏れポイントと実装事例を交えて、経営判断のフレームを提示します。


※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省の一次情報をもとに、「応需率→入院率→稼働率→収益」のKPI連鎖を経営方程式として捉え直し、自院のボトルネックを特定するための実務ポイントを解説します。


「応需率を上げる」だけでは収益は上がらない

結論から述べると、応需率の向上だけに注力しても、それが入院に繋がらなければ収益は改善しません。

第25回医療経済実態調査(令和7年11月公表)によれば、一般病院全体の損益率は令和6年度で▲7.3%にまで悪化しています。赤字病院の割合は67.6%に上り、約7割の病院が赤字という厳しい経営環境にあります。特に急性期病院は急性期Aで▲9.9%、急性期Bで▲12.0%と深刻です。

こうした状況下で、多くの病院が救急応需率の改善を経営戦略の柱に据えていますが、応需率・入院率・稼働率・収益の4指標を「分けて議論」してしまう病院が少なくありません。応需率を議論する会議と稼働率を議論する会議が別々に走り、KPI間の因果関係が見えない——これが、改善努力が収益に結びつかない構造的な原因です。

この4指標を1本の連鎖として捉え直す経営モデルが、今の急性期病院には不可欠です。


4指標のKPI連鎖モデル

KPI連鎖の全体像は、以下の4段階で構成されます。各段階が前段階のアウトプットを引き継ぎ、最終的に収益に結びつく構造です。

KPI段階

指標

主な打ち手

漏れが起きる典型パターン

段階①

要請数→応需率

救急隊との信頼構築、断り理由の可視化

救急隊からの口コミ低下、電話が鳴らない

段階②

応需率→入院率

入院判断基準の標準化、属人化の排除

「受けたが帰した」、入院判断が医師個人に依存

段階③

入院率→病床稼働率

在院日数管理、転棟・転院設計

長期入院化、転院先未確保で病床が詰まる

段階④

病床稼働率→収益

DPC単価最適化、加算取得、算定漏れ防止

算定漏れ、加算未取得、DPC係数低下

この表が示す通り、KPIは「個別に追うもの」ではなく「連鎖として設計するもの」です。どの段階に漏れがあるかで、経営への影響と打ち手が根本的に変わります。

段階①|要請数→応需率:救急隊に選ばれる病院になる

連鎖の起点は、救急隊からの搬送要請に対して自院がどれだけ応じられるかという応需率です。救急搬送件数は令和6年に772万件(消防防災ヘリコプター含む)を超え、集計を開始した昭和38年以降の過去最多を更新しました(消防庁「令和7年版 救急・救助の現況」)。

需要は十分に存在します。問題は、自院がその需要を受け止める体制を持っているかどうかです。

段階②|応需率→入院率:受けた患者を入院に繋ぐ

応需率が改善しても、受けた患者が全て帰宅してしまえば収益には繋がりません。入院率を左右するのは、入院判断基準の明確化と、救急外来での判断の標準化です。ここが属人的であるほど、入院率はばらつきます。

段階③|入院率→病床稼働率:在院日数と転棟を設計する

入院に繋がっても、在院日数が長期化すれば新たな入院を受けられず、病床が詰まります。DPC期間超過は直接的な収益圧迫要因になります。出口(転院先・退院先)の設計がここでは重要です。

段階④|病床稼働率→収益:DPC単価×加算×回転率

最後の段階は、稼働している病床からいかに収益を最大化するかです。2026年度診療報酬改定では急性期病院A一般入院料(1,930点/日)・B一般入院料(1,643点/日)が新設され、急性期機能の実績に応じた評価が明確化されました。救急搬送受入件数や手術実績が直接的に入院料の水準を左右する時代に入っています。


各段で漏れる典型パターン

KPI連鎖が「途中で断裂する」典型的なケースを整理します。

段階①の漏れ:電話が鳴らない。救急隊との関係が悪化し、「あの病院は断るから」という口コミが回ると、搬送要請そのものが来なくなります。ある病院副理事長は「救急車受け入れを病床稼働率に結びつけなければ、経営改善には繋がらない」と語っています。起点である応需率が上がらなければ、その先の連鎖は動き出しません。

段階②の漏れ:「受けたが帰した」。ある2次救急病院(182床)では、導入前のキャンセル率が28.1%に達していました。救急外来で対応したものの入院には繋がらず、収益機会を逃していたのです。入院判断の基準を組織として標準化し、キャンセル率を21.0%まで改善したことで、月平均12.8人の入院獲得に繋がりました。

段階③の漏れ:「入院したが長期化」。転院先が確保できない、退院調整が進まないという状況は、病床を塞ぎ新規の救急受入を阻害します。高齢者救急が増加する中で、出口設計の欠如は最大のボトルネックとなり得ます。

段階④の漏れ:算定漏れ・加算未取得。せっかく稼働率が上がっても、算定漏れがあれば収益に反映されません。「単に病床を埋めるだけでは利益が出ない」——ある公的病院の副理事長の言葉は、この段階の重要性を端的に示しています。収益性の高い救急からの入院獲得に戦略を集中させることが不可欠です。


事例:4指標を連鎖で改善した病院

事例1|2次救急(182床):応需率ほぼ100%→年間3,600万円超の売上増

福岡県の2次救急病院は、常勤医の高齢化と属人的な救急体制に課題を抱えていました。外部の救急専門医を活用した体制導入後、日勤帯の応需率がほぼ100%に到達。キャンセル率は28.1%から21.0%に改善し、平均入院率75.8%、月平均入院数12.8名を達成しました。

結果として、年間3,600万円超の売上増を初年度で達成しています。当初の目標は「月3人の入院増」でしたが、大幅に上回りました。

「導入費用はもはやコストではなく、病院の成長を加速させるための確実な『投資』であったと確信しています」(事務部長)

この事例は、段階①(応需率)→②(入院率)→④(収益)の連鎖が明確に可視化された好例です。

事例2|公的病院(183床):応需率+入院率改善=上半期1億円増収

石川県の公的病院は、経常収支2%超の赤字が見込まれる経営危機に直面していました。元厚労官僚の副理事長が着任し、「国の政策誘導に徹底して乗る」戦略を実行。救急応需数は昨対比36.7%増、入院率は45%から57%に向上しました。

上半期だけで昨対比約1億円の増収を達成し、当初見込みの2%赤字から2%黒字へとV字回復しています。

「結局は病床稼働率を上げるためにどう工夫するかが腕の見せ所」(副理事長)

この事例は、段階①から④までの4段階すべてが連鎖的に改善した典型例です。応需率を起点に入院率を引き上げ、稼働率を収益に直結させるという一気通貫の経営設計が機能しています。


経営判断のフレーム|自院のボトルネックを特定する

KPI連鎖の改善は、すべての段階を一度に動かすのではなく、「最も漏れが大きい段階」を特定し、そこに集中投下することから始まります。以下の5ステップで自院の現状を診断できます。

ステップ1|自院KPIの現状把握

まず、応需率・入院率・病床稼働率・DPC単価の4指標を月次で数値化します。「数値が取れていない」こと自体がボトルネックの一つです。

ステップ2|連鎖の断裂箇所を特定する

応需率は高いが入院率が低いなら段階②、入院率は高いが稼働率が上がらないなら段階③にボトルネックがあります。

ステップ3|断裂の原因を構造的に分析する

段階②の断裂であれば、入院判断基準の属人化、マニュアルの不在、外来と病棟の情報断絶などが典型的な原因です。

ステップ4|改善施策の優先順位を決定する

最も収益インパクトの大きい段階から着手します。一般に、段階①(応需率)の改善は段階②以降の全てに波及するため、起点としての効果が最大です。

ステップ5|月次モニタリングで連鎖を追跡する

改善後のKPIを月次で追跡し、連鎖が途切れていないかを継続的に確認します。4指標を別々の会議で議論するのではなく、1枚のダッシュボードで連鎖として可視化することが理想です。


まとめ|KPI連鎖は「経営の式」である

本稿の主張を3点に整理します。

  • ポイント1:応需率・入院率・稼働率・収益の4指標は、単独ではなく「連鎖」として経営判断するべきものです。個別最適ではなく全体最適の視点が、収益改善の前提条件になります。

  • ポイント2:連鎖のどこに断裂があるかで、打ち手は根本的に異なります。「応需率は上げたのに収益が伸びない」病院は、段階②〜④のいずれかに漏れがあるはずです。

  • ポイント3:実例が示す通り、KPI連鎖を一気通貫で設計した病院は、初年度で3,600万円超〜上半期1億円規模の収益改善を実現しています。「1本の式」としてKPIを経営判断に組み込むことが、改革の出発点です。

2026年度診療報酬改定で急性期病院A・Bが新設され、救急搬送受入件数が入院料の水準を直接左右する時代に入りました。応需率の向上は、もはや「社会貢献」だけではなく「経営の生命線」です。自院のKPI連鎖を1本の式として捉え直すことが、今この瞬間の経営判断の起点になるのではないでしょうか。

赤字を黒字に変える経営設計の全体像(3つの起点の連鎖)は病院の赤字を黒字に変える3つのKPI連鎖を参照ください。


本稿で紹介した「KPI連鎖モデル」の実装について、具体的な導入効果や運用ノウハウに関心のある方は、各病院のインタビュー記事サービス詳細を参照ください。
「救急車のたらい回しを解決し、病院経営を黒字化する」——「断らない医師」と「データ分析」の救急改善プラットフォーム、ドクターズプライムワークは、ここで紹介した多くの病院の取り組みを現場で支援してきました。


よくある質問

Q1. KPI連鎖モデルにおいて、最初に改善すべき指標はどれですか?

A. 多くの場合、段階①の応需率から着手するのが最も効果的です。応需率は連鎖の起点であり、ここが改善されると段階②以降のすべてに波及効果があります。ただし、応需率は高いのに入院率が低い場合は段階②が優先です。自院のKPIを4指標で可視化し、最もギャップが大きい段階を特定することが第一歩になります。

Q2. 2026年度診療報酬改定で、KPI連鎖にはどのような影響がありますか?

A. 急性期病院A・Bの新設により、救急搬送受入件数や手術実績が入院料の水準を直接左右するようになりました。急性期病院A(新設)では1,930点/日、急性期病院B(新設)では1,643点/日と設定されており、改定後の急性期一般入院料1(1,874点/改定前1,688点から186点増)との比較でも、「病院の機能」を評価する新区分が明確に位置付けられています。段階④の収益をどこまで引き上げられるかは、段階①〜③のKPIの積み上げに直結する構造です。

Q3. 小規模病院(200床未満)でもKPI連鎖モデルは活用できますか?

A. 活用できます。本稿で紹介した事例はいずれも182床・183床の中小病院です。むしろ小規模病院の方が、4指標の因果関係を1つの会議体で追跡しやすく、改善のスピードが速い傾向にあります。重要なのは規模ではなく、4指標を「連鎖」として捉えているかどうかです。


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引用元

執筆・編集・監修

執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。

監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。

参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ 

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