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救急受入1件あたりの利益を分解する|DPC単価・在院日数・算定漏れの3変数

    救急受入1件あたりの利益を分解する|DPC単価・在院日数・算定漏れの3変数

    更新日:

    2026/5/14

    救急受入1件あたりの利益を分解する|DPC単価・在院日数・算定漏れの3変数|メソッド

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    なお、本稿は応召義務に基づく地域医療機能の維持を前提として、経営持続性の観点から救急経由収益の構造を整理するものである。1件あたりの収益単価を理解することは、医療の質と経営効率を両立させる前提となる。

    「救急車の受入件数を増やせば収益が上がるのは分かった。だが、1件あたりの単価をどう上げるかが分からない」──2次救急病院の事務長・経営企画室長・医事課長から、件数議論の次に出てくる相談である。

    別稿[救急車の受け入れ件数の経営価値]では、救急車1台あたり概算30〜50万円という金額を提示した。この30〜50万円という幅は、何によって決まるのか。本稿では救急受入1件あたりの収益をDPC単価×在院日数×算定漏れの3変数に分解し、それぞれに独立した改善余地があることを示す。病院経営層との対話では「救急管理料2の算定件数が伸び悩み」「入院時の診療報酬ポテンシャルが低い構造」という相談が頻出するが、これらは件数議論では解けない、収益単価の構造課題である。投資対効果の総額議論は別稿[救急体制強化のROI試算と委員会資料]に、病床規模別の試算は別稿[病床規模別・救急投資ROI試算]にまとめており、本稿はその基礎となる「1件あたりの収益単価」の構造分析を扱う。

    本記事のポイント(30秒でわかるサマリー)

    論点

    結論

    救急1件あたりの収益は3変数で構成される

    DPC単価(包括+出来高)/在院日数/算定漏れ。それぞれの変数に独立した改善余地がある

    DPC単価の標準レンジは50〜80万円

    中小急性期で50〜65万円、地域中核病院で65〜80万円。重症度・診療科構成・加算取得状況で変動

    在院日数は短すぎても長すぎても収益悪化

    包括期間内の早期退院は単価減、長期化は1床1日収益の低下。最適値は疾患群により10〜18日

    算定漏れの典型は3パターン

    救急医療管理加算/地域医療体制確保加算/時間外加算。自院で年間数百万〜1,000万円規模の取りこぼしが発生していることがある

    3変数の同時改善が最大の改善インパクト

    DPC単価+5%×在院日数最適化+5%×算定漏れ解消+5%で、1件あたり収益を15〜20%押し上げ可能

    なぜ「1件あたりの収益単価」を分解する必要があるのか

    救急受入1件あたりの収益は、DPC単価×在院日数×算定漏れの3変数で構成される。総額(件数×単価)の議論だけでは、1件あたりの利益を伸ばす道筋は見えない。

    別稿[救急車の受け入れ件数の経営価値]で示した「救急車1台あたり概算30〜50万円」という金額は、なぜ20万円もの幅を持つのか。それは、1件あたりの収益が単一の数字ではなく、3つの独立した変数の積として構成されているからである。同じ受入件数でも、3変数のどこに改善余地があるかで経営インパクトが大きく変わる。

    中規模病院・救急管理料算定の構造課題を抱える事例では、応需率は70%に留まる中、入院患者の重症度不足から救急管理料2の算定件数が伸び悩んでいる現状が観測された。受入件数を増やしても、重症度の低い症例が多ければ、1件あたりの収益単価は上がらない。

    別の事例(診療単価の構造的低位事例)では、データ分析により入院時の診療報酬ポテンシャルが低い構造が示された。1件あたりの収益単価を伸ばすには、件数の総数とは別軸の改善設計が必要となる。

    3変数の構造(概念図)

    1件あたりの収益 = DPC単価(基礎単価)× 在院日数係数 × 算定取得率

    このうち、

    • DPC単価:診断群分類×重症度で決まる基礎単価

    • 在院日数:包括期間との関係で決まる収益効率

    • 算定漏れ:取れるはずの加算を取れているかの運用精度

    この3変数のどこに自院の課題があるかを診断することが、1件あたり収益の改善設計の起点となる。


    変数1|DPC単価(包括+出来高)の構造と改善余地

    DPC単価は、包括部分と出来高部分の合算で構成される。1件あたり収益の最大要因であり、3変数の中で最も大きな改善レバーとなる。

    DPCの構造

    DPC(Diagnosis Procedure Combination)は、診断群分類別包括評価という診療報酬制度である。

    • 包括部分:診断群分類ごとに定額設定。在院日数による段階的減額あり

    • 出来高部分:手術・処置・特定の検査等は出来高で算定

    包括+出来高の合算が、1入院あたりのDPC単価となる。

    DPC単価の標準レンジ(疾患群別)

    • 内科系(肺炎・心不全等):50〜65万円

    • 外科系(消化器手術等):70〜100万円

    • 救急疾患(脳卒中・心筋梗塞):80〜120万円

    • 重症救急(外傷・敗血症等):100〜200万円

    中小急性期病院の救急経由入院の中央値は概ね50〜65万円、地域中核病院では65〜80万円が標準レンジである。これより明らかに低い場合は、症例構成(軽症ウォークインの比率)か、加算取得状況(加算未取得)に課題がある可能性が高い。

    DPC単価を伸ばす3つの方向性

    方向性1|重症度の高い症例の応需を増やす

    軽症ウォークインの増加は1件あたり単価を下げるが、救急車症例の増加は単価を上げる。救急車応需率の向上は、件数増だけでなく単価増にも寄与する構造である。前述の中規模病院では、応需率70%という水準そのものが、重症度の低い症例構成と相関していた。

    方向性2|手術・処置を伴う症例の取り込み

    外科系救急(消化器・整形外科等)の体制構築は、1件あたり単価を大きく押し上げる。手術料・処置料は出来高算定のため、外科系症例の比率が高い病院ほどDPC単価の中央値は高くなる。

    方向性3|DPC係数の改善(中長期施策)

    DPC係数(機能評価係数I)は、急性期入院料・救急医療管理加算等の取得状況・体制で決まる。長期的には、係数の改善そのものが全DPC単価のベースアップにつながる。


    変数2|在院日数の最適化

    在院日数は短すぎても長すぎても収益が悪化する。1件あたり単価の最適値は、疾患群により10〜18日の範囲に分布する。

    在院日数とDPC収益の関係

    DPC包括部分は、入院期間に応じて段階的に減額される構造になっている。

    • 期間I(〜6日程度・疾患により異なる):最も手厚い点数設定(1日あたり単価が最大)

    • 期間II(〜12日程度):標準的な点数設定

    • 期間III以降(13日以降):大きく減額または出来高への切り替え

    つまり、

    • 早期退院(期間I内)→1日あたり単価とベッド回転率は最大化するが、1件あたりの総収益は小さくなる

    • 長期化(期間III以降)→1件あたりの総収益は伸びるが、1日あたり単価とベッド回転率が大きく低下する

    この医療の質と経営効率の両立点にある在院日数が、収益面での目安となる。ただし、退院日の決定は患者の病状回復と退院後の生活基盤の整備が前提であり、収益単価の観点が医学的判断を歪めることがあってはならない。

    疾患群別の標準在院日数

    • 肺炎:10〜14日

    • 心不全:12〜18日

    • 脳卒中:14〜21日

    • 救急消化器手術:8〜12日

    自院の主要疾患群別在院日数が、上記の標準レンジより著しく長い/短い場合は、退院支援体制または受入基準のいずれかに課題がある可能性が高い。

    在院日数の最適化施策

    施策1|退院支援部門の強化

    入院初日から退院計画を立てる「退院支援」の体制構築。社会福祉士・退院調整看護師の配置と、医師・看護師との連携が要となる。

    施策2|後方連携病院との関係強化

    地域包括ケア病棟・回復期リハビリテーション病棟への速やかな転送。自院に後方病棟がない場合は、地域の連携先病院との関係構築が必要となる。

    施策3|クリニカルパスの徹底

    疾患別のクリニカルパス(標準診療プロセス)を整備し、在院日数のばらつきを抑える。これは医療の質の標準化と収益効率の両立を可能にする。


    変数3|算定漏れの典型3パターン

    算定漏れは、3変数の中で最も即効性のある改善レバーである。要件は満たしているのに申請できていない加算が、自院に年間数百万〜1,000万円規模で潜んでいることがある。

    パターン1|救急医療管理加算(1日あたり1,050点・最大7日間)

    救急医療管理加算は、救急搬送された患者のうち、緊急に入院治療を必要とする一定の重症度を満たす患者に算定可能な加算である。

    一定の要件を満たす場合は救急医療管理加算1:1,050点/日、加算2:420点/日(※状態により一部210点への減算規定あり)。

    算定漏れの典型パターン

    • 要件を満たすにも関わらず、医師のカルテ記載不足で算定見送り

    • 医事課の確認体制不足による申請漏れ

    • 加算1と加算2の判別ミス

    改善余地の規模:1患者あたり最大73,500円(1,050点×7日×10円)の追加収益。年間救急経由入院数1,000件の病院で、算定率が10%向上すれば年間735万円の収益増となる)。

    パターン2|地域医療体制確保加算(620点・入院初日のみ)

    地域医療体制確保加算は、医師の働き方改革の実装と、年間救急受入件数等の要件を満たす病院が取得できる加算である。

    算定漏れの典型パターン

    • そもそも要件達成が認識されていない

    • 医師の労働時間短縮が遅れている

    • 年間救急車受入件数の集計が不十分

    地域中規模病院・体制確保加算取得目標の事例では、地域医療体制確保加算達成や夜間の質の高い体制構築が、外部医師導入の合意ポイントとなっていた。加算取得は救急体制強化と連動する施策である。

    パターン3|時間外加算等の取りこぼし

    深夜・休日の加算項目は手厚いが、申請プロセスの煩雑さで漏れることがある。

    典型的な算定漏れ項目

    • 時間外加算(深夜・休日の手術・処置)

    • 救急搬送看護体制加算(一定要件下で200点/回)

    • 入院時医学管理加算

    • 妊婦加算(救急搬送された妊婦)

    公立中規模病院の決裁プロセスでは、「時間外加算の適正算定徹底」が外部サービス導入の必須条件として位置づけられることがある。これは加算取得の重要性を逆説的に示している。時間外加算が大きい病院ほど、深夜帯救急の収益貢献が大きいということである。

    算定漏れの規模感

    中規模病院(年間救急2,000件)で、3パターン合計の算定漏れが年間数百万〜1,000万円規模で発生している事例は珍しくない。

    医事課の体制と、医師のカルテ記載品質が連動する。算定漏れ解消は以下の3点が要となる。

    1. 医事課のレセプト返戻分析(過去の算定漏れの可視化)

    2. 医師向けの算定要件研修

    3. カルテ記載テンプレートの整備


    3変数の同時改善が生む経営インパクト

    3変数は独立しているため、それぞれに改善施策を打つことで効果が乗算的に表れる。

    3変数の同時改善シミュレーション

    • DPC単価+5%(重症度向上・外科系取り込み)

    • 在院日数最適化+5%(退院支援強化)

    • 算定漏れ解消+5%(医事課体制強化)

    これらを同時に実行すると、1件あたり収益が15〜20%押し上がる計算となる。

    例:DPC単価65万円・年間救急経由入院1,000件の病院で、3変数同時改善が達成できれば、年間収益増は約1億円規模となる。応需率改善(件数増)の打ち手と組み合わせれば、経営インパクトはさらに大きくなる。

    自院診断チェックリスト

    確認項目

    チェック

    自院の救急経由DPC単価の中央値を把握しているか

    ◻︎

    主要疾患群の在院日数が業界標準と整合しているか

    ◻︎

    救急医療管理加算の算定率を月次で把握しているか

    ◻︎

    地域医療体制確保加算の要件達成状況を確認しているか

    ◻︎

    医事課と救急科の連携体制が機能しているか

    ◻︎

    3つ以上「□」が残っていれば、1件あたり収益の改善余地はかなり大きい。3変数のうち最も改善余地のある1つに絞り、6ヶ月の実行計画を作ることが、最初の一手として推奨される。

    次の一手

    自院のDPC単価をT1テンプレートの「1入院あたりDPC収益」欄に入力し、件数×単価の年間総額を試算する。


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    1. 救急体制強化のROI試算と委員会資料|投資対効果シミュレーションの作り方

    2. 病床規模別|100床・200床・300床の救急体制投資ROI試算

    3. 救急応需率の「現在値」別・収益改善余地マップ|40%/60%/80%で何が違うか

    上記で扱った件数増の打ち手と、本記事で扱った1件あたり単価の打ち手を組み合わせることで、救急経由収益の総合的な改善設計が完成する。


    まとめ──件数と単価の両軸で経営インパクトを最大化する

    本稿の主張を3点に要約する。

    1. 救急1件あたりの収益は、DPC単価×在院日数×算定漏れの3変数で構成される。総額(件数×単価)の議論だけでは、1件あたりの利益を伸ばす道筋は見えない。

    2. 3変数のそれぞれに独立した改善余地がある。DPC単価は重症度向上・外科系取り込み・係数改善で。在院日数は退院支援・後方連携・クリニカルパスで。算定漏れは医事課体制強化で。

    3. 3変数の同時改善は、1件あたり収益を15〜20%押し上げる。算定漏れの解消だけでも年間数百万〜1,000万円規模の収益増が見込める。即効性のある最大のレバーは、算定漏れの可視化と解消である。

    応需率改善(件数増)の打ち手と、本記事の1件あたり単価改善の打ち手は補完関係にある。両軸を同時に動かすことで、経営インパクトは最大化される。


    ドクターズプライムワークは、「救急車のたらい回しを解決し、病院経営を黒字化する」ことを掲げる「断らない医師」と「データ分析」の救急改善プラットフォームである。応需率改善による件数増だけでなく、DPCデータ分析を通じた症例構成の最適化と、医事課体制強化による算定漏れの可視化まで、収益改善の全体設計を支援している。1件あたり収益の構造課題を抱える経営層にとって、外部視点を入れた検討候補となる。

    より集約的な経営視点での論考は[病院経営黒字化の構造]にまとめている。応需率改善の総論は[救急応需率1ポイントの経営価値]、件数経営価値の概算は[救急車の受け入れ件数の経営価値]を併せて参照されたい。

    参照元

    • 厚生労働省「DPC/PDPS制度の概要」

    • 中央社会保険医療協議会「2024年度診療報酬改定・救急医療管理加算」

    • 厚生労働省「地域医療体制確保加算の概要」

    • 中央社会保険医療協議会「2026年度診療報酬改定・医師の働き方改革(B水準等の指定)に関する評価」

    執筆・編集・監修

    執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
    「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。

    監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
    聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。

    参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ 

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