更新日:
2026/5/14

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keyboard_arrow_right自院の救急応需率の数字は把握しているが、「その数字が経営的に何を意味するのか」「改善したらいくらになるのか」を経営会議で語れる資料がない──2次救急病院の経営層からよく聞かれる声である。
2025年11月公表の厚生労働省・医療経済実態調査では、全国の一般病院の7割が2024年度に赤字に陥っている。この状況下で応需率は「日々動かせて、数字で追える」数少ない経営KPIの一つだが、応需率の「現在値」がそのまま改善余地の金額と打ち手の優先順位を規定するという視点は、まだ経営会議で共有されていない病院が多い。本稿では応需率40%・60%・80%という3つの現在値別に、年間収益改善余地と優先打ち手を定量マップとして提示する。応需率1ポイントの経営価値の総論は別稿[救急応需率1ポイントの経営価値はいくらか]にまとめており、本稿はそこから先の「自院の現在値別・実装設計」に踏み込む。
論点 | 結論 |
|---|---|
応需率の現在値は「改善余地の天井」を決める | 40%帯の病院は年間1.5〜2.5億円、60%帯は年間1.2〜2億円、80%帯は年間5,000万〜2億円の改善余地を内包する |
現在値ごとに「効く打ち手」が違う | 40%帯:応需文化の転換/60%帯:ルール設計とデータ可視化/80%帯:夜間帯・非輪番日の深掘り |
「応需率×入院率」の2軸で見る | 応需率60%でも入院率30%なら改善余地は中程度。応需率80%でも入院率60%なら地域拠点化が射程に入る |
夜間応需率が全体より20p以上低い病院は要注意 | 夜間応需率60%・74%のケースが頻発。改善余地の半分以上が夜間帯に集中する構造 |
3ステップで経営判断に変換する | ①自院ゾーンの判定→②ゾーン別の到達可能値設定→③差分金額の年間換算 |
救急応需率の現在値は、改善余地の金額と打ち手の優先順位を規定する経営変数である。40%・60%・80%という3つの現在値は、それぞれ異なる構造的課題と到達可能値を持つ。
応需率の定義は、厚生労働省・消防庁の公式資料で「消防本部による医療機関への搬送依頼に対して、医療機関が要請に応じて受け入れた割合」と示される。要請数を分母、受入数を分子とする単純な割合指標だが、経営指標としての力は大きい。
別稿の[救急応需率1ポイントの経営価値はいくらか]では、応需率を50%未満・60〜70%・80〜90%・90%超の4水準でベンチマーク化した。本稿はこの4水準を引き継ぎつつ、意思決定のための別の切り口として3ゾーンに再編する。ベンチマーク比較と意思決定は別の作業だからである。
Aゾーン(〜50%未満/40%前後):組織方針の明確化段階。方針の欠如が最大の制約
Bゾーン(50〜70%/60%前後):ルール設計とデータ整備段階。ルール設計とデータ整備で一気に動く
Cゾーン(70〜85%/80%前後):深掘り段階。夜間帯・非輪番日に改善余地が集中
(参考)Dゾーン(90%超):「断らない救急」実現ゾーン。別稿で扱うため本稿では割愛
3つのゾーンは単なる数字の区切りではなく、組織がぶつかっている構造的課題の質が異なる。打ち合わせの現場で観測される2次救急病院の応需率は、40%台にとどまる病院、60%前後で安定している病院、80%台に達している病院と幅広く分布しており、3ゾーンはいずれも実在する現在値として確認される。
応需率の現在値が違うと、不応需理由の構造・入院率との関係・改善1ポイントあたりの難易度という3変数がすべて異なる。ゆえに打ち手の優先順位も変わる。
Aゾーン(40%帯):受入方針が組織として未確立な段階。不応需理由は「専門外」「夜間体制」が表面的な要因として並ぶが、根本には病院全体としての受入判断基準が未整備という構造課題がある。
Bゾーン(60%帯):不応需理由が「専門外」「病床なし」「夜間体制」の3つに均等に分散する。複合施策が必要。関東近郊のある応需率70%・年間要請1,800件規模の病院では、不応需の30%が小児科・循環器の対応不可や夜間の救急手術不可といった施設的要因に集中していた
Cゾーン(80%帯):改善余地は夜間帯・非輪番日・専門外症例の3領域にほぼ集約される。時間帯別・曜日別のデータ分解が必須になる
応需率だけを見ていると、収益改善の実像を見誤る。応需率×入院率の2軸で初めて改善余地の金額が確定する。
Aゾーン:入院率30〜40%(受けていないので重症例そのものが届いていない)
Bゾーン:入院率45〜55%
Cゾーン:入院率55〜65%
同じ応需率でも入院率が10ポイント違えば収益改善余地は2倍以上変わる。
Aゾーン:最も動かしやすい。「受ける」という院長方針の明示だけで10〜20ポイント上昇する事例あり
Bゾーン:ルール設計とデータ整備で20〜30ポイントの改善が1〜2年で可能
Cゾーン:夜間帯・非輪番日への深掘りで5〜10ポイントの改善余地
この非対称性が重要である。Aゾーンは、改善の難易度が高いというより、改善のための方法論が組織内に蓄積されていない段階に近い
3ゾーン別の年間収益改善余地は、Aゾーン(40%帯)で年間1.5〜2.5億円、Bゾーン(60%帯)で年間1.2〜2億円、Cゾーン(80%帯)で年間5,000万〜2億円の幅に分布する。
ゾーン | 現在値 | 到達可能値 | 応需率差 | 年間収益改善余地 |
|---|---|---|---|---|
Aゾーン | 40%前後 | 65〜75%(1年以内) | +25〜35p | 年間1.5〜2.5億円 |
Bゾーン | 60%前後 | 85〜90%(1〜2年) | +25〜30p | 年間1.2〜2億円 |
Cゾーン | 80%前後 | 90〜95%(1年以内) | +10〜15p | 年間5,000万〜2億円 |
前提:年間要請件数2,000件・入院率50〜60%・1入院収益65万円。応需率1ポイントの経営価値を約720万円とする試算(別稿で詳述)を踏まえた数値となる。病床規模別の詳細な試算は別稿[救急車の受け入れ件数の経営価値]で扱う。
Aゾーンの典型は、応需率40%前後で、夜間帯の当直体制や日中の専門医確保が課題となっている2次救急病院である。応需率40%→70%の30ポイント改善で、年間約2億円規模の収益改善余地を内包する計算となる(前提:年間要請件数2,000件・入院率50%・1入院収益65万円)。
Aゾーンで最優先の打ち手は、組織文化の転換である。
院長方針の明示──「原則受ける」という方針を院内に文書で発出
受入基準マニュアルの作成──現場医師が1人で判断できる基準を成文化
医師補強──専門外症例にも対応できる救急応需力のある医師の配置
Aゾーンの病院では、応需率40%弱は本来受けられる患者の半分以上を取りこぼしている水準である一方、現場の判断基準が未整備な状態では数字の提示だけでは改善が動き出さないという構造的課題が観測される。トップの方針表明と現場ルールの両輪が不可欠となる。
Bゾーンは改善余地が最大のゾーンである。応需率60%前後の2次救急病院では、「本来受け入れ可能なケースが多いが、ルールが未整備で取りこぼしている」という現場認識を持つ事例が多い。応需率60%→85%の25ポイント改善で年間1.5億円規模の収益改善余地を持つ。
Bゾーンで特徴的なのは、決裁プロセスの壁である。2次救急病院の委員会プロセスでは、説得材料としてのコストシミュレーション資料が必須とされ、「改善したらいくらになるか」の具体試算が決裁の前提条件となるケースが多い。
受入ルール設計──ベッド上限・条件付き受入・ファーストタッチ担当医のルール化
データ可視化──応需率KPIツリー(時間帯別・診療科別・曜日別・不応需理由別)の構築
医師補強──ルール運用を担う応需力のある医師の配置
Bゾーンの事務長からは「応需率60%台に留まっている。委員会に出す資料として、改善したらいくらになるかのコストシミュレーションが必要と強く求められている」という声が頻出する。数字の試算と委員会プロセスの並走がBゾーン特有の課題となる。
Cゾーンでは全体応需率80%に達しているが、ここから先の改善は構造的に難しくなる。2.5次救急病院では、全体応需率70%台に対して夜間応需率が60%台にとどまり、夜間帯の消化器外科系などの人員不足による不応需が集中するケースがある。
応需率80%台に達した病院では、全体応需率と夜間応需率の差分が改善余地のほぼすべてを占める構造がよく観測される。Cゾーンの改善余地は全体平均の向上ではなく、時間帯・曜日の深掘りに移行する。
夜間帯の医師配置──夜間応需率を日勤帯と同水準に引き上げる医師体制
非輪番日の応需率改善──輪番日と非輪番日の応需率差を縮小する組織設計
KPIツリーでの深掘り──時間帯×診療科×曜日の3軸で弱点を特定
中規模病院の中には、夜間休日応需率が目標を下回り、収益機会損失が経営課題として認識される事例がある。全体応需率ではなく、夜間応需率・非輪番日応需率を独立KPIに格上げすることがCゾーンの実装の第一歩になる。
応需率だけを追うと入院率が低い場合に「数字だけ上げても収益が伸びない」状況に陥る。特にAゾーン→Bゾーンへの移行期には応需率と入院率が連動して伸びる。応需が文化化すると救急隊からの信頼が形成され、重症例の要請が増え、結果として入院率も上昇する好循環が生まれる。
自院のゾーンを判定し、ゾーン別の到達可能値を設定し、差分金額を年間収益換算する。この3ステップで応需率改善の経営判断が数字で組める。
以下の4指標を過去12ヶ月分集計する。
総合応需率(年間・月次)
夜間応需率/日勤帯応需率の差
診療科別・曜日別の応需率ヒートマップ
救急搬送→入院率
これらを基にA/B/Cのゾーンを特定する。この判定を手計算で行う代わりに、Excelテンプレートに4項目を入力すればゾーン判定と改善余地金額が自動算出される仕組みを本記事末尾で公開している。
Aゾーン:12ヶ月で+25〜30ポイント(文化転換の1年)
Bゾーン:12〜24ヶ月で+25〜30ポイント(ルール+データの2段階)
Cゾーン:12ヶ月で+10〜15ポイント(夜間帯集中の1年)
到達可能値の設定には、自院の病床規模・地域特性・医師体制の3変数を加味する必要がある。
改善余地金額 =(到達可能値 − 現在値)× 応需率1pあたりの年間価値 × 入院率補正
この金額を委員会・理事会資料の冒頭に置き、「投資対効果」の議論の起点とする。具体的な委員会提出資料の構築プロセスは別稿[救急体制強化への投資対効果シミュレーション|委員会資料の作り方]で、反論対応を含む提案書の構造は[理事会で否決されない救急改善提案書の構造]で扱う。
確認項目 | チェック |
|---|---|
自院の過去12ヶ月の総合応需率を数字で把握しているか | ◻︎ |
夜間応需率と日勤帯応需率の差を認識しているか | ◻︎ |
救急搬送→入院率を算出しているか | ◻︎ |
不応需理由の内訳(専門外/病床なし/夜間体制等)を集計しているか | ◻︎ |
応需率改善の経営インパクト金額を試算した資料を経営会議で共有しているか | ◻︎ |
3つ以上「□」が残っていれば、応需率はまだ経営指標として機能していない。
本稿の主張を3点に要約する。
応需率の現在値が、改善余地の金額と打ち手の優先順位を規定する。40%帯・60%帯・80%帯の病院は、それぞれ異なる経営課題に直面している。自院ゾーン固有の構造に合わせた打ち手設計が鍵になる。
改善余地は「応需率×入院率」の2軸で把握する。応需率だけを追うと、入院率の低いゾーンで収益が伸び悩む。
現在値別ゾーン判定→到達可能値設定→差分金額の試算、という3ステップを経営会議の議題にすることで、応需率は「測る数字」から「動かす数字」に変わる。
2026年度診療報酬改定で新設される急性期病院Bの要件は、応需率を現在値から動かせる病院にとっては到達可能な一方、現在値を動かす取り組みに着手していない病院にとっては到達のハードルが高くなる。自院が今どのゾーンにいて、どこまで動かせるか──この問いに数字で答えるための次の一手として、末尾のテンプレートを活用してほしい。
現応需率・夜間応需率・入院率・不応需理由内訳の4項目を入力するだけで、自院がA/B/Cのどのゾーンにいるか、どこまで目指せるか、年間の収益改善余地がいくらかが1分で可視化される。経営会議・理事会提出用の資料ドラフトとしても転用可能である。
ドクターズプライムワークは、「救急車のたらい回しを解決し、病院経営を黒字化する」ことを掲げる「断らない医師」と「データ分析」の救急改善プラットフォームです。 本稿で整理した「3つの現在値ゾーンの特定」に基づく精緻なコストシミュレーション作成はもちろん、応需率40%台から70%超へ、60%台から90%超への改善を1〜2年スパンで支援した実績を持っています。さらに、決裁プロセスにおける反論対応や条件の再設計まで含めて伴走しておりますので、委員会通過レベルの緻密な資料を要する経営層の皆様にとって、外部視点を入れた有力な検討候補となります。より集約的な経営視点での論考は[病院経営黒字化の構造]にまとめておりますので、併せてご参照ください。
参照元
厚生労働省「救急医療体制の現状と課題について」(応需率の定義)
総務省消防庁「令和6年版 救急・救助の現況」(令和5年実績・搬送人員664万人)
厚生労働省「医療経済実態調査」(2025年11月公表・一般病院7割赤字)
中央社会保険医療協議会「2026年度診療報酬改定・急性期病院A/B要件
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ
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