更新日:
2026/6/12

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救急改善の議論で最初に問うべきは「全国平均」ではなく「自院は今どこにいるか」です。同じ200床の病院でも、地方都市と政令市では地域構造が異なります。同じ応需率70%でも、救急専門医の配置の有無や搬送圏域の競合状況によって意味合いは大きく変わります。本稿では、DPCデータ・消防庁統計・医療経済実態調査の3つの一次情報を使い、自院のベンチマーキングを実装する手順を解説します。
※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省の一次情報をもとに、救急KPIの自院ポジション診断と改善優先順位の設計を解説します。
ベンチマークは「同規模・同地域・同機能」の病院と比較して初めて意味を持ちます。
第25回医療経済実態調査(令和7年実施)によれば、一般病院全体の損益率は令和6年度で▲7.3%、赤字施設の割合は67.6%に達しています。しかしこの数字は、3次救急の大規模病院から療養型まで含んだ「全体平均」にすぎません。200床前後の2次救急病院が自院の立ち位置を知るためには、病床規模・地域・機能が類似した病院との比較が不可欠です。
多くの病院では、経営会議でKPIを「全国平均」と比較するにとどまっています。しかし全国平均との差が+5ptであっても、同規模・同地域の上位群と比べれば−10ptであるケースは珍しくありません。ベンチマーキングの本質は、「平均」ではなく「分布」でデータを捉えることにあります。
自院ポジションの診断に活用できる一次情報は、主に3つに分類できます。
DPCデータは、自院の診療実績を地域内の他院と比較できる最も強力な情報源です。医師・MBA・経済学博士の肩書きを持つ医療マーケティング専門家は、DPCデータの活用について次のように語っています。
「循環器でアブレーションが自分の病院はまだまだ多くないけど他の病院が多いとなった時に、今いくらアブレーションが話題だと言っても、今から参入してももう間に合わないかもしれない」
このように、DPCデータを使えば「自院に多い疾患」「他院に多い疾患」が地域全体で把握でき、診療科の参入・撤退判断にまでつなげることが可能です。ポジショニング分析において、DPCデータは全国標準ではなく「自院の商圏・エリア分析」として活用するのが最も効果的です。
消防庁が毎年公表する「救急・救助の現況」は、救急搬送件数・現場滞在時間・搬送患者の年齢構成など、地域の救急需要を俯瞰するための基礎データです。令和6年版によれば、令和5年中の救急出動件数は約764万件で過去最多を更新しています。搬送患者のうち65歳以上が約6割を占め、高齢者救急の構造的増加が続いています。
自院の年間受入件数を地域全体の搬送件数と突き合わせることで、「地域シェア」が算出できます。また、都道府県別・市町村別のデータを用いれば、地域間の需給バランスを比較することも可能です。
医療経済実態調査は、病院の財務データを開設主体別・病床規模別に集計した公式統計です。第25回調査では、一般病院全体の損益率がいずれの開設主体でも増収減益の傾向を示しており、賃金・物価上昇によるコスト増が収益を圧迫している構造が浮き彫りになっています。
自院の損益構造を「同規模病院の中央値」と比較することで、人件費比率や材料費比率の偏りを特定できます。全国平均ではなく、同規模病院群の分布における自院の位置を確認することが重要です。
データを集めることと、データで意思決定することは異なります。ここでは、ベンチマーキングを実際の経営判断に活かしている事例を紹介します。
ある3次救急病院(736床)では、経営企画室がDPCの状況を1日4回更新するシステムを独自開発しています。同病院の院長は「日々では遅いと思います」と述べ、リアルタイムに近い経営管理を実践しています。
この病院の病床稼働率は93%(2026年時点)に達し、開院以来一度も下がることなく全指標が毎年上昇しています。ベンチマーキングの頻度と精度が、経営成果に直結している好例です。
前述の医療マーケティング専門家は、DPCデータを用いたポジショニング分析の重要性を強調しています。同規模・同地域の他院と疾患構成を比較し、自院の強みと弱みを可視化することで、「今から参入して勝てるか」という判断が具体的な根拠をもって下せるようになります。この発想は救急領域にもそのまま応用可能です。応需率や入院率を同規模病院と比較し、改善余地がどこに眠っているかを特定するのが出発点になります。
ある地方の2次救急病院(150床・医師少数区域)では、救急搬送データが記録としては蓄積されていたものの、分析されずに「宝の持ち腐れ」になっていました。同病院の事務長は、外部リソースの導入をきっかけにデータの可視化・分析に着手し、経営判断の材料として活用し始めています。
この事例が示すのは、多くの病院が「データは持っているが使っていない」という段階にあるということです。ベンチマーキングの最初の一歩は、新しいデータの取得ではなく、すでにある情報を「分析する仕組み」を作ることにあります。
自院でベンチマーキングを実装するために、以下の5つのステップを順に進めることを推奨します。
ステップ | やること | 使うデータ |
|---|---|---|
① 自院KPIの整理 | 応需率・入院率・平均在院日数・DPC係数を月次で取得 | 自院の院内データ |
② 比較対象の選定 | 同規模(±50床)・同地域(2次医療圏)・同機能(急性期)の病院を3〜5施設特定 | DPCデータ・病院報告 |
③ データ取得 | DPC退院患者調査、消防庁統計、医療経済実態調査から必要項目を抽出 | 厚労省・消防庁の公表データ |
④ ギャップ分析 | 「平均」ではなく「上位25%」と自院を比較し、改善余地を定量化 | 上記3データの統合分析 |
⑤ 改善優先順位の決定 | KPI連鎖(応需率→入院率→稼働率→収益)のうち最弱の段階から着手 | 自院KPI + ベンチマーク結果 |
ステップ④で「上位25%(第1四分位)」と比較するのがポイントです。平均との差を見るだけでは「普通以下かどうか」しか分かりませんが、上位群との差を見ることで「あとどれだけ伸ばせるか」が明確になります。
本稿で伝えたかった3つのポイントを再掲します。
ベンチマークは「全国平均」ではなく「同規模・同地域・同機能」で取る。 全国平均との比較では、自院の立ち位置は見えません。分布の中で自院がどこにいるかを把握することが出発点です。
DPCデータ・消防庁統計・医療経済実態調査の3つの一次情報で、自院のポジションを立体的に診断する。 疾患構成(DPC)、地域需給(消防庁)、財務構造(実態調査)の3軸で見ることで、改善すべき領域が浮き彫りになります。
多くの病院はデータを「持っている」が「使っていない」。 新しいデータの取得より、既存のデータを分析・比較する仕組みづくりが先決です。
ベンチマーキングの真の価値は、データを集めることではなく、データに基づいて経営判断を下すことにあります。「自院は今どこにいるか」を知ることが、救急改善を含むあらゆる経営施策の起点になるのではないでしょうか。
本稿で紹介した「ベンチマーキングに基づく救急改善」の実装について、具体的な導入効果や運用ノウハウに関心のある方は、各病院のインタビュー記事やサービス詳細を参照ください。「救急車のたらい回しを解決し、病院経営を黒字化する」——『断らない医師』と『データ分析』の救急改善プラットフォーム、ドクターズプライムワークは、ここで紹介した多くの病院の取り組みを現場で支援してきました。
A. 主にDPC退院患者調査(厚生労働省DPC評価分科会が公表)、消防庁「救急・救助の現況」、中医協「医療経済実態調査」の3つの公的データが活用できます。いずれも厚労省・消防庁のウェブサイトから無償で入手可能です。自院のDPCデータと組み合わせることで、地域内での立ち位置を可視化できます。
A. 「同規模(±50床)」「同地域(同じ2次医療圏または近隣圏域)」「同機能(急性期・2次救急など)」の3条件で絞り込むのが基本です。DPCデータの公表資料を活用すれば、疾患構成が類似した病院を特定できます。3〜5施設を比較対象とするのが実務的に適切な規模です。
A. KPI連鎖(応需率→入院率→稼働率→収益)のうち、ベンチマーク上位群との差が最も大きい段階から改善に着手するのが効果的です。詳細は「KPI連鎖の経営学|応需率→入院率→稼働率→収益を1本の式で経営判断する」を参照してください。
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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