更新日:
2026/6/2

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※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省の一次情報をもとに、救急受入実績を医師採用ブランディングに転用するための動線設計と実践ポイントを解説します。
救急改革の真の収益は、診療報酬だけではありません。「断らない病院」になることで生まれる採用ブランディング効果こそ、長期的に最も大きな経営インパクトをもたらします。本稿では、救急実績を医師採用ピッチに転用するための動線設計と、「何者か」を語れる病院になるための具体策を、医療マーケティングの第一人者の知見と実装事例から解説します。
医師採用が困難な病院の経営者から、「給与を上げても集まらない」「採用しても定着しない」という声が繰り返し聞かれます。この問題の根本には、病院そのものの「選ばれる理由」が設計されていないという構造的な課題があります。
医師・MBA・経済学博士の3つの顔を持つ医療マーケティングの専門家は、この現実をこう断言しています。
「マーケティング戦略がない病院には医師も集まらないというふうに思っています」
マーケティングとは、ホームページを整備したり求人広告を出したりすることではありません。本質は、バリューとポジショニングという2つの概念で構成されます。
バリュー:自院が患者にとって何の意味を持つか。地域の医療ニーズに照らして「何を提供すると選ばれるか」を考えること
ポジショニング:エリアの人口・疾患構造・他院との分担を分析し、明確な市場での立ち位置を定めること
そしてこの専門家がとりわけ重視するのが、採用との連動です。医師は就職先の選択において「将来性」を重視し、病院のトップが経営方針を明確に語れているかを見極めます。給与の多寡よりも「この病院が患者を惹きつける努力をしているか」「トップの人柄と使命感」が長期判断の軸になるのです。
「担当者が小手先の話をしたとしても、やっぱり見透かされちゃうことはあると思います」
これは採用ブランディングの核心を突いた言葉です。人事担当者がどれほど求人票を工夫しても、病院トップが「自分たちは何者か」を語れなければ、優秀な医師の心は動きません。
厚生労働省が推進する医師偏在対策は、2025年12月5日に参院本会議で成立した改正医療法(医療法等の一部を改正する法律)を通じて、重点的に医師を確保すべき区域の設定と、医師少数区域での勤務促進を明確に打ち出しています。医師の確保は、すべての地域病院にとって避けられない経営課題です。その解決策として、救急改革が採用ブランディングに与える効果は3つの理由から非常に大きいと言えます。

引用:厚生労働省「医療法等の一部を改正する法律の成立について」

引用:厚生労働省「医師偏在是正対策について」
理由① 「成長中の病院」シグナルになる
救急受入件数の伸びは、外部から目視できる数少ない経営指標のひとつです。求人票に「年間救急受入数○台(前年比○%増)」と記載できる病院は、それだけで「動いている病院」「改革に本気な病院」であることを示せます。停滞している病院では数値は動きません。救急実績の改善そのものが、採用市場での差別化要素になるのです。
理由② 若手医師の臨床経験要求にマッチする
初期・後期研修医を含む若手医師が職場を選ぶ際、「どれだけの症例に触れられるか」は最重要項目のひとつです。救急症例数が多い病院は、研修の場としての魅力が高く、若手からの応募が増えます。
ある東京の2次救急病院(100床弱規模)では、救急改革開始から2年が経過した段階で、若手医師の病院に対する認知が変化したことが確認されています。コロナ禍で年間数千台規模まで落ち込んだ救急受入が、救急専門医の副院長着任後に「断らない宣言」と院内改革を経て、着任1年後にコロナ前比約1.5倍、2年後には約2倍近くまで回復。この実績が若手医師へのシグナルとなったのです。
理由③ トップのビジョンが「実績」で語れる
「断らない病院を目指している」と口で言うだけでは信用されません。しかし救急実績が数字として蓄積されれば、そのビジョンは言葉ではなく事実になります。「昨年度、救急応需率を○%から○%に改善した」「年間受入件数が○台を突破した」という具体的な実績を持つ経営者の言葉には、重みが生まれます。これが採用面談における最大の武器です。
救急実績を採用に活かすためには、3段階の動線設計が必要です。
ステップ1|求人票での実績の可視化
多くの病院の求人票は、診療科・給与・当直回数といった基本情報で埋め尽くされています。ここに「救急受入件数」「救急応需率」「救急からの入院率」を追加することで、採用票面の印象が大きく変わります。特に「前年比○%増」という変化率は、「成長途上の病院」であることを端的に伝えます。
数値の例示として活用できるフォーマット:
掲載可能な指標 | 採用への訴求効果 |
|---|---|
年間救急受入件数(とその前年比) | 病院の活動量・成長性 |
救急応需率(時間帯別) | 体制の整備度・本気度 |
救急からの入院率 | 症例の重篤度・臨床経験の深さ |
救急外来での担当症例数/月 | 若手医師への研修魅力 |
ステップ2|面談時のトップの言葉
採用面談において最も重要なのは、院長・理事長自身が自院のビジョンを語ることです。その核心は、前述の医療マーケティング専門家が言うとおりです。
「自分たちが何のためにこの病院を運営しているか、もっとかっこいい言い方をすると自分たちが何者か、みたいなところまで語れた方がいいんです」
インナーブランディングの先進事例として知られる兵庫県の大規模3次救急病院(700床超規模)の院長は、職員への発信の場で決してブレないことを強調しています。最初に掲げた4つのミッション(救命救急医療・高度専門医療・人材育成・臨床研究)を「今も言い続けている」と述べています。採用候補者も、面談の場でまったく同じことを見ています。院長が一貫したメッセージを持ち、それを体現できているかどうかを見極めているのです。
ステップ3|現場見学での体験設計
最終的な採用判断は、現場を目で見た後に下される場合が多くあります。救急外来が活気を持って動いている姿、医師・看護師・事務が連携して救急搬送を受け入れる場面は、求人票のどの言葉よりも雄弁に「病院のリアル」を伝えます。
埼玉県の2次救急病院(300床超規模)では、クラウドファンディングを通じて地域に自院の活動を広めた結果、病院のミッションに共感した人材が集まる環境が生まれました。目的はお金ではなく広報であり、「救急を守っている姿」を地域に見せることで院内外のブランドが形成されました。これは採用においても同様の効果をもたらしています。見学者が「ここで働きたい」と思う病院は、何かを「やっている」病院です。
採用ブランディングを機能させるためには、まず院内から始める必要があります。外向きのブランディングより、インナーブランディングの方が「はるかに大変」と語る経営者が複数います。
◻︎ MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が言語化されているか
病院理念が「地域医療に貢献します」という抽象論にとどまっていないか
具体的な診療圏・担う機能・目指す数値が明示されているか
◻︎トップが繰り返し語り続けているか
ある2次救急病院(広島県・公的)の院長は「1回言ったからって浸透するわけでもない。手を替え品を替え伝え続ける」と語っています。採用候補者に届くメッセージは、院内に浸透したものだけです
◻︎採用動画・現場発信の設計はあるか
現場スタッフが語る「なぜここで働くか」の動画は、求人広告の何倍もの説得力を持ちます
救急外来の1日を記録したドキュメント形式の動画は、若手医師に特に響きます
◻︎救急実績を定期的に可視化・発信できているか
月次・四半期ごとの救急受入実績をホームページや採用ページで更新しているか
◻︎「断らない理由」を語れる言葉があるか
「救急を断らない」は理想論ではなく、実績に裏付けられた経営判断であることを示せるか
本稿で論じてきたことを3点にまとめます。
第一に、採用ブランディングの本質はトップの言葉と経営方針の一貫性にあります。担当者の小手先の施策より、院長・理事長が「何者か」を語れることの方が、はるかに強い採用力をもたらします。
第二に、救急受入実績は外部から見える数少ない経営指標であり、それ自体が「成長中の病院」を証明するシグナルです。応需率・受入件数・入院率という3つの数値が改善されれば、求人票から面談、現場見学まで、すべてのタッチポイントで採用ピッチが機能するようになります。
第三に、インナーブランディングなしに採用ブランディングは機能しません。MVVを言語化し、繰り返し語り続け、現場がそれを体現して初めて「選ばれる病院」が生まれます。救急改革は、経営収益だけでなく採用力の向上という側面でも、長期的な経営への投資と捉えることができます。
給与を上げても集まらない、採用しても定着しない——この問いの答えは、「何者か」を語れる病院に変わることの中にあります。救急実績は、その変革の証明書になり得るのです。
救急受入体制の強化を採用ブランディングに転用したいと考える経営者の方は、ドクターズプライムワークにご相談ください。
A. まず、自院の救急受入件数・応需率・入院率を時系列で把握し、求人票に記載することから始めてください。数値が「改善途上」であっても、変化率を示すことで成長性をアピールできます。次に院長・理事長が採用面談の場で自院のビジョンを語れるよう、MVVを言語化しておくことが重要です。
A. 2025年12月に成立した改正医療法による医師偏在対策の強化で、医師少数区域への誘導と重点支援が整備されました。厚生労働省はこれにより、医師確保計画の実効性を高める方向を打ち出しています。病院としては、この政策方針に乗りつつ、「地域医療に貢献している実績」を採用訴求に転用することが有効です。地域医療への貢献を数値で示せる病院は、使命感のある医師に選ばれやすくなります。
A. インナーブランディング(院内への浸透)を先に整備することが原則です。外向けに「断らない病院」を発信しても、院内文化がそれを体現していなければ、見学に来た医師にすぐ見抜かれます。MVVを言語化し、全職員が同じ方向を向いてから、採用動画や求人票への反映という順番が効果的です。ある院長が語るように、「1回言ったからって浸透するわけではない。手を替え品を替え伝え続ける」ことが、長期的な採用ブランディングを支える土台になります。
厚生労働省「医療法等の一部を改正する法律の成立について」(令和7年12月8日 第122回社会保障審議会医療部会)
厚生労働省「医師偏在是正対策について」(令和6年12月19日 第190回社会保障審議会医療保険部会)
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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