更新日:
2026/7/29

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2026年7月3日、厚生労働省は「地域医療構想策定ガイドライン」を公表しました。急性期拠点機能は人口20〜30万人程度につき1か所、急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能は同時に報告できない、そして2028年度までに具体的な医療機関名まで決める——。抽象的だった「選別」が、数字と期限を伴って具体化しました。本記事では、ガイドラインの記載を一次情報に即して整理し、自院のポジションを決めるために何を確認すべきかを解説します。
急性期拠点機能は「人口20〜30万人程度につき1か所程度」が目安。2040年の人口推計をもとに確保数が協議されます。多くの地域で、拠点になれる病院は限られます。
急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能は、一つの医療機関が両方報告することはしません。事実上の二者択一です。
選定では救急搬送受入件数が明示的に確認されます。全身麻酔・緊急手術件数と並ぶ判断材料で、年齢区分別・経路区分別まで見られます。
期限は2028年度。2028年度までに、急性期拠点機能を担う医療機関の具体的な医療機関名も含めて協議・策定されます。準備期間は実質2年です。
開設主体は問われない:公立・公的・民間の別ではなく、救急搬送受入件数や手術件数などの診療実績を軸に、経営・施設の状況も含めて総合的に協議されます。従来の位置づけが実績で見直されうる構造です。
※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、一次情報(厚生労働省医政局「地域医療構想策定ガイドライン」、医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号)、内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026(原案)」)をもとに作成しています。本記事が解説するのは、「新・地域医療構想の策定ガイドラインが示した医療機関機能の分化と急性期拠点の集約のなかで、救急を軸に自院のポジションをどう決めるか」です。
※本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。今後、都道府県ごとの協議によって運用が具体化していくため、最新の状況は厚生労働省「2040年に向けた地域医療構想」でご確認ください。
新・地域医療構想は、医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号、2025年12月12日公布)に基づく仕組みです。2026年3月19日に検討会が「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」を公表し、それを踏まえて7月3日に策定ガイドラインが示されました。都道府県はこれを参考に協議を進めます。
注目すべきは、期限とマイルストーンが明確になった点です。
時期 | 何が行われるか |
|---|---|
2026年度〜2027年度上半期頃 | 医療需要の見通しと医療提供体制の現状を、客観的データで分析。地域医療構想調整会議で課題を整理し、構想区域を点検・見直し |
2028年度まで | 急性期拠点機能を担う医療機関の具体的な医療機関名も含め、2040年に各医療機関が担う医療機関機能、必要病床数、連携・人材確保の取組を協議し、地域医療構想として策定 |
つまり、自院がどの機能を担うかは2028年度までに地域の協議で決まります。データ分析と課題整理はすでに2026年度から始まっており、準備に使える時間は実質2年程度と考えられます。
なお骨太方針2026の原案も、病床数の適正化を着実に実施した上で、2027年度以降の地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進するとしています。政府方針と現場の実務が、同じ方向で動き始めた局面だと言えるのではないでしょうか。
医療機関機能報告で報告する機能は、次の5区分です。
急性期拠点機能:手術や救急医療など、医療資源を多く要する症例を集約して提供する
高齢者救急・地域急性期機能:高齢者をはじめとした救急搬送を受け入れ、入院早期からのリハビリ・退院調整を行い早期退院につなげる
在宅医療等連携機能:在宅医療の提供、または在宅医療の後方支援を主に担う
専門等機能:上記以外の専門的な医療を担う
医育及び広域診療機能:医師の養成・派遣など、広域の観点で担う
ここで経営判断上もっとも重いのが、急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能は、一つの医療機関が両方を報告することはしないという点です。ガイドラインは、この2つが医療資源を多く要する医療と高齢者救急の役割分担を明確化するためのものだと説明しています。
「両方やる」という選択肢は制度上想定されていません。地域のなかで自院がどちらを担うのかを、データを持って主張する必要があります。
あわせて、病床機能報告の区分も見直されます。従来の「回復期機能」は、高齢者等の急性期患者に治療と入院早期からのリハビリテーションを行い早期の在宅復帰を目指す機能と統合され、「包括期機能」として位置づけられます。増加する高齢者救急の受け皿を厚くする趣旨です。
ガイドラインでもっとも具体的な数字が示されたのが、急性期拠点機能の確保数です。
急性期拠点機能を担う医療機関については、2040年の人口推計をもとに、人口20万人から30万人程度につき一か所程度を目安に確保する。
人口の少ない地域では1か所を確保・維持し、手術件数等や他区域からの流入が多い場合は2か所、人口30万人超でも他区域への流出が多く症例数が少ない場合は1か所とすることが目安とされています。
背景にあるのは、集約しなければ24時間の救急医療提供や緊急手術への対応体制が地域全体として維持できないという問題意識です。ガイドラインは、拠点を確保する数が増えて医師等の資源や症例が分散すると、働き方に不均等や非効率が生じ、医育や医療の質に必要な症例数も集積されなくなると指摘しています。
もう一つ、この選別を理解するうえで欠かせない前提があります。どの医療機関が急性期拠点を担うかは、開設主体によらず診療実績で判断される、という点です。ガイドラインは、地域で医療機関機能を検討する際、公立・公的・民間といった開設主体で先に線を引くのではなく、救急搬送受入件数や手術件数などの診療実績と、医師確保の見込み・経営状況・施設整備状況を総合して協議することを想定しています。
これは、従来「公立・公的だから当然に基幹病院」とされてきた位置づけが、実績の前で相対化されうることを意味します。診療実績で民間病院が公立・公的病院を上回る構想区域では、拠点の担い手が入れ替わる可能性も、制度上は排除されていません。逆に、公立・公的病院であっても、実績・経営・建物の状況が伴わなければ、拠点の役割を他院が担うことが考えられます。
ただし、実績が高いことは拠点の必要条件であって、十分条件ではありません。ガイドラインは、診療実績だけに着目すれば拠点を担うと想定される医療機関でも、建物が老朽化している場合や経営状況が悪い場合には、他の医療機関が急性期拠点機能を担うことも考えられるとしています。開設主体という「肩書き」ではなく、実績・経営・施設を束ねた総合力で、地域の役割が決まっていく構造だと考えられます。
では、どの病院が拠点になるのか。ガイドラインは、決定にあたって確認する項目を具体的に挙げています。
全身麻酔手術件数・緊急手術件数(必要に応じて診療科別件数等)
救急搬送受入件数(必要に応じて年齢区分別件数、経路区分別件数)
医師をはじめとする医療従事者の確保の見込み
医療機器の整備状況等の施設の整備状況
建物の築年数、各種補助金や繰入金の活用状況
なお、この「医師をはじめとする医療従事者の確保の見込み」が機能選択をどう左右するか——外科・麻酔の集約や都道府県主導の医師派遣の再配分については、新・地域医療構想と医師確保|外科・麻酔の集約と医師派遣の再配分が「機能選択」を左右するで詳しく整理しています。
救急搬送の受入実績が、手術件数と並ぶ判断材料として明記されました。しかも「何台受けたか」だけでなく、年齢区分別・経路区分別まで確認されます。日頃どの層の救急をどう受けているかが、そのまま地域での立ち位置の根拠になるということです。
もう一点、見落とせない記載があります。ガイドラインは、診療実績だけに着目すれば拠点を担うと想定される医療機関であっても、建物が老朽化している場合や経営状況が悪い場合には、他の医療機関が急性期拠点機能を担うことも考えられる、としています。
診療実績が高いことは必要条件ですが、十分条件ではありません。実績・経営状況・建物の状況を総合して地域で協議される以上、救急実績を積みながら経営を安定させることの両方が問われる構造だと考えられます。
観点 | これまでの地域医療構想 | 新・地域医療構想 |
|---|---|---|
議論の対象 | 病床の機能分化が中心 | 入院・外来・在宅医療、介護連携、人材確保まで含む提供体制全体 |
報告する単位 | 病床機能報告(病棟単位) | 病床機能報告に加え、医療機関機能報告(医療機関単位) |
病床機能の区分 | 高度急性期・急性期・回復期・慢性期 | 高度急性期・急性期・包括期・慢性期 |
急性期の位置づけ | 各病院が自主的に選択 | 人口20〜30万人程度に1か所程度を目安に集約 |
決まり方 | 病床数の議論が中心 | 2028年度までに具体的な医療機関名を含めて協議 |
なお厚生労働省は、地域医療構想は病床の削減や医療機関の統廃合ありきではなく、地域での自主的な協議を踏まえて取り組むものだとしています。裏を返せば、協議の場で自院の役割を主張できるかどうかが結果を左右するということでもあります。根拠となるデータを持たない病院ほど、不利な立場に置かれる可能性があります。
⬜︎ 救急搬送受入件数を年齢区分別・経路区分別に把握している(ガイドラインが確認する項目そのもの)
⬜︎ 全身麻酔手術件数・緊急手術件数を診療科別に把握している
⬜︎ 自院の構想区域の2040年推計人口と、想定される急性期拠点の数を確認している
⬜︎ 急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能のどちらを狙うか、経営会議で議論している
⬜︎ 選んだ機能を支える医師配置(とくに夜間・休日の救急)の見通しが立っている
⬜︎ 建物の築年数・更新計画と、経営指標を地域協議で説明できる状態にある
とくに1項目めは、ガイドラインが明示的に挙げている確認項目でありながら、年齢区分別・経路区分別まで整理できている病院は多くないのではないでしょうか。ここが整理できていないと、協議の場で自院の役割を数字で主張できません。
現在地の可視化:救急応需率・救急搬送受入件数・入院率を、年齢区分別・経路区分別まで分解して把握する
ポジションの仮決め:構想区域の人口規模と競合状況から、急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能のどちらを狙うかを仮決めする
不応需理由の解消:専門外・患者対応中・キャパシティのどこで断っているかを分解し、院内改善で埋められる部分を特定する
不足分の外部補完:常勤医の負担を増やさずに夜間・休日の救急を維持するため、外部医師の活用を組み合わせる
実際に、輪番日の救急応需率が60%台にとどまっていた病院が、外部医師の導入と受入ルールの再設計を組み合わせて応需率90%超へ改善した事例があります。また、コロナ禍で救急搬送が半減した99床規模の2次救急病院が、「断らない宣言」の徹底とファーストタッチ担当医制度の導入により、2年で搬送件数を約1.9倍まで回復させた例もあります。
救急実績は、設計によって動かせる指標です。協議が本格化する前に積み上げられるかどうかが、2028年度の結論を左右すると考えられます。
Q1. 新・地域医療構想はいつまでに策定されますか。
改正医療法により、2028年度までに各都道府県が策定することとされています。2026年度から2027年度上半期頃までにデータに基づく分析と課題整理、構想区域の点検・見直しを行い、2028年度までに急性期拠点機能を担う医療機関の具体的な医療機関名も含めて協議・策定されます。
Q2. 急性期拠点機能はいくつ確保されるのですか。
2040年の人口推計をもとに、人口20万人から30万人程度につき1か所程度を目安に確保するとされています。人口の少ない地域では1か所を確保・維持し、他区域からの流入が多い場合は2か所、人口30万人超でも流出が多く症例数が少ない場合は1か所とすることが目安です。
Q3. 急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能の両方を報告できますか。
できません。ガイドラインは、この2機能は医療資源を多く要する医療と高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、一つの医療機関が両機能を報告することはしないとしています。一方、在宅医療等連携機能などを併せて報告することは、地域の実情によっては差し支えないとされています。
Q4. 拠点になるかどうかは、診療実績だけで決まりますか。
決まりません。全身麻酔手術件数・緊急手術件数や救急搬送受入件数といった診療実績を基本としつつ、医療従事者の確保の見込み、医療機器の整備状況、建物の築年数、補助金・繰入金の活用状況も含めて総合的に協議されます。診療実績が高くても、経営状況が悪い場合や建物が老朽化している場合には、他の医療機関が拠点を担うことも考えられると明記されています。
Q5. 「回復期機能」はどうなりますか。
病床機能報告の区分が見直され、従来の回復期機能は、高齢者等の急性期患者に治療と入院早期からのリハビリテーション等を行い早期の在宅復帰を目指す機能と併せて「包括期機能」として位置づけられます。増加する高齢者救急の受け皿を厚くする趣旨です。
Q6. 公立・公的病院が優先的に急性期拠点になるのですか。 開設主体で先に決まる仕組みではありません。ガイドラインは、救急搬送受入件数・全身麻酔手術件数・緊急手術件数などの診療実績を基本に、医師確保の見込み、経営状況、施設整備状況を含めて総合的に協議するとしています。診療実績が高くても経営・施設の状況が伴わなければ、他院が拠点を担うことも考えられると明記されており、公立・公的であることが拠点を約束するわけではありません。
選別が数字と期限を持った:急性期拠点機能は人口20〜30万人程度に1か所程度、決定は2028年度までに具体的な医療機関名を含めて行われます
二者択一を迫られる:急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能は、同時に報告できません
救急実績が判断材料に明記された:救急搬送受入件数は年齢区分別・経路区分別まで確認されます
協議は2026年度からすでに始まっています。どちらの機能を狙うにせよ、その根拠となるのは日々積み上げた救急の受入実績です。まずは自院の救急搬送受入件数を、ガイドラインが求める粒度で整理することが出発点になるのではないでしょうか。
なお、応需率の可視化や、外部医師を活用した当直・救急体制の設計にお悩みがあれば、ドクターズプライムワークでもご支援できます。自院の状況整理の一助として、必要に応じてご活用ください。
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執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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