更新日:
2026/7/23

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2025年、救急自動車による出動件数と搬送人員がそろって前年を下回りました。集計開始以来の最多を更新し続けてきた流れが、いったん反転した形です。ところが病院の負担は軽くなっていません。入院を要する中等症の搬送は増え、搬送人員に占める高齢者の割合は63.1%と過去20年で最も高い水準に達しました。本記事では、消防庁の最新データと2026年7月公表の地域医療構想策定ガイドラインをもとに、「高齢者救急・地域急性期機能」という新たな選択肢と、2040年に向けた体制設計を整理します。
搬送は減ったのに、入院は増えている:2025年の搬送人員は0.1%減。一方で軽症は2.2%減、中等症(入院診療)は2.1%増。総量ではなく中身が変わっています。
高齢者の割合は63.1%:搬送人員に占める高齢者比率は、平成17年の44.4%から一貫して上昇し、過去20年で最高水準です。
ガイドラインが受け皿を定義した:「高齢者救急・地域急性期機能」は、高齢者をはじめとする救急搬送を受け入れ、入院早期からのリハビリ・退院調整で早期退院につなげる機能です。
病床機能も再編される:従来の「回復期機能」は「包括期機能」として位置づけ直され、高齢者救急の受け皿が制度上も厚くなります。
※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、一次情報(総務省消防庁「令和7年中の救急出動件数等(速報値)」、厚生労働省医政局「地域医療構想策定ガイドライン」、内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026(原案)」)をもとに作成しています。本記事が解説するのは、「高齢者救急の需要構造の変化と、地域医療構想が定義した『高齢者救急・地域急性期機能』を踏まえ、急性期病院が2040年に向けてどう体制を設計するか」です。
※本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。今後、都道府県ごとの協議によって運用が具体化していくため、最新の状況は厚生労働省「2040年に向けた地域医療構想」でご確認ください。
消防庁が2026年3月31日に公表した「令和7年中の救急出動件数等(速報値)」によると、2025年の救急自動車による出動件数は768万6,235件(前年比3万2,145件減、0.4%減)、搬送人員は676万1,871人(同7,301人減、0.1%減)でした。いずれも前年を下回っています。
一見すると、現場の負担が和らいだように読めます。しかし傷病程度別の内訳を見ると、様相が異なります。
傷病程度 | 2025年の搬送人員 | 前年比 |
|---|---|---|
軽症(外来診療) | 310万231人 | 2.2%減 |
中等症(入院診療) | 308万2,202人 | 2.1%増 |
重症(長期入院) | 48万7,060人 | 0.9%減 |
減ったのは軽症です。入院診療を要する中等症は、搬送人員・構成比ともに増加傾向にあります。救急車の総数は減っても、受け入れた先で入院につながる患者は増えている——これが現場実感と統計のずれの正体だと考えられます。
年齢構成の変化も同じ方向を向いています。搬送人員に占める高齢者(満65歳以上)の割合は、平成17年の44.4%から、平成22年51.0%、平成27年56.7%、令和2年62.3%と上昇を続け、2025年は63.1%に達しました。過去20年で最も高い水準です。
つまり急性期病院が直面しているのは、「救急車が増え続ける」問題から「入院を要する高齢患者の比率が上がり続ける」問題へと質的に変わりつつあります。初期評価から専門科へのコンサルテーション、入院調整、そして退院・転院調整まで、1件あたりの手間が重くなる構造です。
この需要変化を、制度の側も正面から受け止めました。2026年7月3日に公表された地域医療構想策定ガイドラインは、医療機関機能の一つとして「高齢者救急・地域急性期機能」を定義しています。
高齢者救急・地域急性期機能は、高齢者をはじめとした救急搬送を受け入れるとともに、必要に応じて専門病院や施設等と協力・連携しながら、入院早期からのリハビリテーション・退院調整等を行い、早期の退院につなげ、退院後のリハビリテーション等の提供を確保するものである。
求められる役割として、ガイドラインは次の点を挙げています。
救急の受入に当たっては、特定の施設からの受入に限定しないこと
高齢者救急等の二次救急への対応
受入後の早期からの医療・リハビリテーションの提供と、早期退院に向けた取組
介護施設の協力医療機関として、介護施設と連携すること
注目したいのは、地域内の役割分担についての記載です。ガイドラインは、手術等の医療資源を要する急性期医療を安定的に提供するために、急性期拠点機能を担う医療機関に集約しつつ、それ以外の救急搬送については高齢者救急・地域急性期機能を担う医療機関が主に受け入れるという役割分担を協議することが重要だとしています。
高齢者救急は「急性期拠点に選ばれなかった病院の受け皿」ではありません。地域の救急搬送の大部分を担う、明確に位置づけられた機能です。搬送人員の63.1%が高齢者である現実を踏まえれば、むしろ量的には中心に近い役割だと考えられます。
なお、急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能は、一つの医療機関が両方を報告することはしません。どちらを担うかの判断軸については、新・地域医療構想で進む病院の選別で詳しく整理しています。
あわせて、病床機能報告の区分も見直されます。従来の「回復期機能」は、高齢者等の急性期患者に治療と入院早期からのリハビリテーション等を行い、早期の在宅復帰を目指す機能と併せて、「包括期機能」として位置づけられます。
医療機関機能で「高齢者救急・地域急性期機能」を報告する医療機関は、包括期機能の病床を有することが想定されています。機能報告と病床報告の両面で、高齢者救急の受け皿を厚くする設計だと読み取れます。
将来の病床数の必要量は、次の手順で推計されます。
2040年の性・年齢階級別人口に、2024年のNDBデータを用いて算出した入院受療率を乗じる
NDBデータに含まれない自然分娩、労災保険、自賠責保険の患者を、機能区分ごとの医療需要に比例して按分・追加する
地域医療構想の取組による効果(改革モデル)を反映する。具体的には、医療機関の連携・再編・集約化に伴う病床利用の効率化分、入院受入時からリハビリ等を提供し早期退院につなげる効率化分、在宅医療や介護との連携による効率化分
ここで押さえておきたいのは、「早期にリハビリを提供して早期退院につなげる」ことが、推計の前提そのものに織り込まれている点です。高齢者救急を受けたうえで、いかに早く在宅・施設へ戻せるか。その運用力が、地域の必要病床数の前提になっているということです。
また、2040年に向けては量的な増加も見込まれています。ある元厚生労働省官僚の病院副理事長は、セミナーで2040年に向けた量的課題として、75歳以上の救急搬送が36%増、85歳以上は75%増という推計を示しています。高齢者の絶対数がピークを迎えるまで、需要の構造的な増加は続く見通しです。
なお、令和7年度補正予算では「病床数適正化緊急支援事業」として、令和8年度末までに病床数の適正化に対する支援を行うこととされています。骨太方針2026の原案も、病床数の適正化を着実に実施した上で医療機関の連携・再編・集約化を促進するとしており、政策と予算の両面から病床の絞り込みが進む局面です。
観点 | これまで | これから |
|---|---|---|
救急需要の捉え方 | 搬送件数の増加が課題 | 総量は頭打ち。中等症・高齢者の比率上昇が課題 |
病院の位置づけ | 病床機能(病棟単位)で表明 | 病床機能+医療機関機能(医療機関単位)で表明 |
高齢者救急の扱い | 明確な機能区分がない | 高齢者救急・地域急性期機能として定義 |
病床機能の区分 | 高度急性期・急性期・回復期・慢性期 | 高度急性期・急性期・包括期・慢性期 |
評価される運用 | 受け入れた実績 | 受け入れ+早期リハ・早期退院まで含めた一連の運用 |
高齢者救急・地域急性期機能を担うと決めた場合、問われるのは「入口・院内・出口」を通した一連の運用です。
入口(受け入れ判断):専門外・患者対応中・病床なしといった不応需理由を分解し、院内ルールで埋められる部分を特定する
院内(多疾患への対応):初期評価から専門科コンサルテーション、入院調整までの動線を標準化し、当直医個人の判断に依存させない
出口(退院・転院調整):入院早期からのリハビリと退院調整を仕組みにする。介護施設の協力医療機関としての連携も含む
人員(夜間・休日の維持):常勤医の自己犠牲に依存せず、外部医師の活用を組み合わせて受入体制を維持する
実際に、ある3次救急病院の副院長は、高齢者救急搬送が10年で3〜5割増加したことを報告したうえで、高齢者救急の難しさは「入口・院内・出口」の3層構造にあると分析しています。同院は受入率98%を維持するため救急救命士を院内に配置し、下り搬送のネットワーク構築とタスクシフトを進めました。
⬜︎ 救急搬送受入件数を年齢区分別に把握している
⬜︎ 不応需の理由を「専門外・対応中・病床なし」等に分解して集計している
⬜︎ 入院早期からのリハビリ開始と退院調整が、担当者依存でなく仕組みになっている
⬜︎ 介護施設との協力医療機関としての連携体制が整理されている
⬜︎ 夜間・休日の救急を、常勤医の時間外労働の上限を守りながら維持できる見通しがある
⬜︎ 高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能のどちらを狙うか、経営会議で議論している
Q1. 救急搬送は減ったのに、なぜ現場の負担感は変わらないのですか。
減っているのは軽症だからです。2025年の搬送人員は前年比0.1%減でしたが、内訳では軽症が2.2%減の一方、入院診療を要する中等症は2.1%増の308万2,202人でした。搬送人員に占める高齢者の割合も63.1%と過去20年で最高水準です。1件あたりの入院調整・退院調整の手間が重くなる構造だと考えられます。
Q2. 「高齢者救急・地域急性期機能」とは何ですか。
2026年7月公表の地域医療構想策定ガイドラインが定義した医療機関機能の一つです。高齢者をはじめとした救急搬送を受け入れ、専門病院や施設等と連携しながら入院早期からのリハビリテーション・退院調整を行い、早期退院につなげる機能を指します。特定の施設からの受入に限定しないこと、二次救急への対応、介護施設の協力医療機関としての連携が求められます。
Q3. 急性期拠点機能と両方を担うことはできますか。
できません。ガイドラインは、この2機能について一つの医療機関が両方を報告することはしないとしています。地域では、急性期拠点機能を担う医療機関に手術等を集約しつつ、それ以外の救急搬送は高齢者救急・地域急性期機能を担う医療機関が主に受け入れる、という役割分担の協議が想定されています。
Q4. 「回復期機能」はどうなりますか。
病床機能報告の区分が見直され、従来の回復期機能は、高齢者等の急性期患者に治療と入院早期からのリハビリテーション等を行い早期の在宅復帰を目指す機能と併せて「包括期機能」として位置づけられます。高齢者救急・地域急性期機能を報告する医療機関は、包括期機能の病床を有することが想定されています。
Q5. 2040年の病床の必要量はどう決まるのですか。
2040年の性・年齢階級別人口に、2024年のNDBデータから算出した入院受療率を乗じて医療需要を推計し、そこに地域医療構想の取組による効果(改革モデル)を反映して算出されます。効率化分には、連携・再編・集約化に伴う病床利用の効率化、入院早期からのリハビリ提供による早期退院、在宅医療や介護との連携が含まれます。
需要の質が変わった:総量は頭打ちでも、入院を要する中等症と高齢者の比率は上がり続けています
受け皿が制度上定義された:高齢者救急・地域急性期機能と包括期機能により、高齢者救急は明確な役割として位置づけられました
問われるのは入口から出口までの運用:受け入れた実績だけでなく、早期リハビリと早期退院までを含めた一連の運用が推計の前提に織り込まれています
高齢者救急は、地域の救急搬送の大部分を占める中心的な機能です。どの機能を担うにせよ、その根拠となるのは年齢区分別まで整理された自院の受入実績ではないでしょうか。
なお、応需率の可視化や、外部医師を活用した当直・救急体制の設計にお悩みがあれば、ドクターズプライムワークでもご支援できます。自院の状況整理の一助として、必要に応じてご活用ください。
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執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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