更新日:
2026/6/3

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※本記事は、当社サービス「ドクターズプライムワーク」で支援してきた公立・公的病院を含む救急体制改善の現場知見と、総務省「公立病院経営強化ガイドライン」および厚生労働省「新たな地域医療構想」関連の一次情報をもとに、公立・公的病院が経営強化プランに掲げた救急医療の数値目標を、議会・自治体・大学医局という三層合意のもとで実装に移すための三者連動フレームを解説します。
「経営強化プランで救急医療体制の強化を最優先と位置づけたが、現場が動かない」—公立・公的病院では、こうした声が珍しくありません。民間病院と異なり、議会・自治体担当部局・大学医局という外部関係者を抱えるため、改革は単独の経営判断では完結しません。本稿では、公立公的病院が救急改革を実行に移すために必要な「経営強化プラン×医局×自治体合意」の三者連動フレームを、現場事例と一次情報をもとに整理します。

引用:「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日、自治財政局準公営企業室)
公立公的病院の救急改革は、いまや「やるかやらないか」ではなく「いつ、誰の合意から動かすか」の問題に転じています。背景には経営悪化と地域医療構想の局面転換という二つの構造変化があります。
総務省の集計では、公立病院の経常損益は令和6年度に合計3,952億円の赤字、赤字病院割合は83.3%に達しました。いずれも過去最大の水準です。黒字病院の割合は前年度の29.6%から16.7%へとほぼ半減し、人件費や物価高騰が経営を直撃しています(総務省「公立病院の現状と課題について」令和7年10月)。

引用:「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日、自治財政局準公営企業室)
一方、厚生労働省は令和6年12月の「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」で、85歳以上人口の増大と現役世代減少を見据えた医療提供体制の再設計を打ち出しました。令和7年8月以降のガイドラインでは、二次医療圏ごとに「高齢者救急・地域急性期機能」を担う医療機関の明確化が求められています。
経営強化と地域医療構想は、いずれも「救急医療の機能をどの病院が担うか」という問いに収斂します。この問いの答えは単独の経営判断では完結しません。議会、首長・自治体担当部局、大学医局—この三層を順序立てて通すことが、改革の前提条件となります。
公立公的病院の救急改革を止めるのは、現場の意欲や能力の不足ではありません。多くの場合、改革は次の3つの関門で停滞します。
関門①|経営強化プランとの整合性:総務省「公立病院経営強化ガイドライン」に基づき、各自治体は令和4〜5年度中に経営強化プランを策定済みです。プランには救急医療の機能強化が明記されることが多いものの、応需率・受入件数・入院率といった数値目標と、人員・予算の手段との間にギャップが残ります。
関門②|大学医局との関係:常勤医の派遣減少、時間外労働の上限規制、若手医師の都市集中という三重苦のなかで、医局頼みの体制維持は限界に近づいています。医局の意向を無視して外部医師を導入すれば関係悪化を招き、過度に依存し続ければ診療体制は派遣の都合に振り回されます。
関門③|自治体・議会への説明責任:公立病院では一般会計からの繰出金が経営の前提となるため、議会・首長への説明責任が常に求められます。費用対効果と地域医療への貢献の両軸で、改革の意義を翻訳する必要があります。
これら3つの関門は、いずれか一つを突破しても改革は進みません。経営強化プランに整合し、医局の納得を得て、議会・自治体に説明できる—この三点同時クリアの設計こそが、公立公的特有の意思決定構造の本質です。
実際に救急改革を進めた公立公的病院の事例には、共通する三本柱があります。マニュアル化による判断基準の組織化、外部医師の活用による医局負担の軽減、そしてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)浸透による組織変革です。
ある市立病院(150床前後、2次救急)では、2023年に策定した経営強化プランで救急体制の強化を最優先課題と位置づけました。改革前は年間600〜800件で推移していた救急車受入件数が、外部医師の導入と受入基準の標準化を経て、約1,900件規模まで拡大しています。同院が同時並行で進めたのは、①受入基準のマニュアル化、②外部医師の質管理(アンケート機能による継続評価)、③院長自らが毎日救急日誌を確認し、断り事例を救急会議で検証する、という地道な組織変革でした。
「医師個人のスキルや判断基準に依存するのではなく、病院としてどう判断し、どう動くかという組織としての基準を作るフェーズに来ている」 ——市立病院(150床前後)院長
この発言は、公立公的の救急改革が「医師の追加採用」だけでは完結しないことを示しています。受入判断を組織のマニュアルに落とし込み、誰が当直でも一定の基準で動ける体制を作る—これが医局派遣の不安定さを補う第一の設計となります。
医師少数区域に立地する別の公的病院(150床前後、2次救急)では、「医局に頼らない」ではなく「医局に負担をかけない」設計を採りました。当直・スポット対応という負荷の高い業務を外部でカバーし、医局には専門医派遣・人事交流という本流のラインでの関係を残す医局共存型のモデルです。同院の院長は「負荷の高い業務を外部でカバーすることで、医局に『無理な相談』をする必要がなくなり、本流での関係性を維持できる」と語っています。大学医局に残る医師がかつての3分の1程度まで減少しているという地方医療の構造変化が背景にあります。
さらに、ある公的労災系病院(2次救急)では、26診療科の全科待機体制を維持しながら年間救急車受入を約3,600〜3,800台規模に到達させ、応需率は常に90%以上を維持しています。背景にあるのはMVVの徹底浸透であり、仕事始め式・電子カルテのトップページ・年度運営方針A4で1枚、という多チャネルで伝える戦略でミッションを伝え続けています。同院の院長は「データを示して納得されたら、医師は自発的に動く」と語り、組織変革の基盤に「ミューチュアル・リスペクト(相互尊敬)」を据えています。6年連続の研修医フルマッチなど、人材面の好循環も生まれています。
これら3事例に共通するのは、医師数の増減ではなく、組織としての判断基準・人員配置・文化を同時に設計し直しているという点です。

引用:「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日、自治財政局準公営企業室)
公立公的病院の救急改革を実装するためには、経営強化プラン・大学医局・自治体合意の三者を順序立てて連動させる必要があります。以下の5ステップは、現場で実装された手順を整理したものです。
ステップ | 検討事項 | 主担当 | 想定時間軸 |
|---|---|---|---|
① | 経営強化プランの数値目標と年限を再確認 | 経営企画 | 1〜2か月 |
② | 自治体担当部局への中間報告タイミングの設計 | 事務長 | 2〜3か月 |
③ | 大学医局への事前相談ルートの明確化 | 院長 | 3〜6か月 |
④ | 議会対応資料(住民還元の説明)の構築 | 事務長・経営企画 | 4〜6か月 |
⑤ | 外部医師活用の予算化と契約形態の選定 | 経営企画・医事 | 6〜12か月 |
このフレームの要点は「順序」です。ステップ①でプランの数値目標を再確認しないまま外部医師の導入に走れば、議会で「なぜいま」を説明できません。ステップ③で医局への事前相談を省けば、関係悪化が長期化します。
特に重要なのは、ステップ④の議会対応資料です。費用対効果の試算と地域医療への貢献を、議員にも住民にも翻訳できる言葉で示します。経営強化プランは、この説明の根拠書類として機能します。なお、ある公的労災系病院では、医師を動かす際に「データを示して納得を得る」「整数で伝える」「ワーキンググループで現場の声を吸い上げる」という3つの原則を運用しています。議会と現場、双方を動かす上で参照に値する手法です。
公立公的病院の救急改革で問われているのは、改革の方法ではなく「いつ、誰の合意から動かすか」という順序設計です。
経常損失病院が83.3%という危機的環境のなか、救急医療体制の強化は経営強化プランの中核に位置づけられています
民間と異なり、議会・自治体・大学医局の三層合意なしには改革は進みません
三者連動の5ステップを順序立てて踏むことが、現場と議会の理解を同時に取りに行く道となります
「現状維持」を選ぶことは、事実上の緩やかな経営悪化を選ぶことに等しいといえます。次の経営強化プランの改定、次の議会、次の医局人事——どこから着手するかという問いが、いま公立公的病院の経営者に突きつけられています。
経営強化プランは令和4年3月29日付の総務省「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」に基づき、令和4〜5年度中に各自治体が策定したものです。旧プランの「経営効率化」中心の発想から、「機能分化・連携強化」「医師・看護師等の確保」「経営形態の見直し」を統合する設計へと軸が広がっています。
応需率・受入件数・入院率の3指標を月次で可視化し、目標と実績の乖離要因を「医師数」「判断基準」「受入ルール」の3軸で分解します。乖離の主因が判断基準の不在にあるなら、外部医師の追加採用より先に受入マニュアルの設計が優先されます。
「医局に頼らない」ではなく「医局に負担をかけない」設計を前提に、当直帯や派遣枠が逼迫する時間帯から段階的に外部医師を導入する事例があります。事前相談のルートを明確化し、医局派遣の常勤医のキャリアパスを維持することで、共存型のモデルは成立します。
費用対効果と地域医療への貢献の両軸を、住民還元の文脈で示すことが鍵となります。受入件数の改善が入院率・病床稼働率を通じて収益にどう寄与するかを試算で示しつつ、応需率の改善が地域住民の救急アクセスをどう守るかを並列で説明します。
経営強化プランの計画期間(標準は令和4〜8年度)の残期間内に成果が出る前提で、複数年度にまたがる予算設計を行うことが現実的です。初年度は試行的に着手し、応需率や入院率の改善が確認された段階で本格予算化する流れが、議会・自治体の理解を得やすくなります。
「三者連動フレーム」の実装には、経営強化プランとの整合性、医局との関係設計、議会・自治体への説明資料の構築という複数の論点を同時に動かす設計力が求められます。「救急車のたらい回しを解決し、病院経営を黒字化する」—『断らない医師』と『データ分析』の救急改善プラットフォーム、ドクターズプライムワークは、公立・公的病院を含む多くの病院の救急体制改善を現場で支援してきました。自院の救急改革の順序設計に関心のある経営者・事務長の皆様は、ぜひサービス詳細をご覧ください。
■ 総務省
・「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(令和4年3月29日)
・公立病院経営強化(公式ページ)
・「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日、自治財政局準公営企業室)
・病院事業決算状況・病院経営比較表(令和5年度・令和6年度)
■ 厚生労働省
・「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」(令和6年12月18日)
・「新たな地域医療構想策定ガイドライン」(令和7年8月、令和8年1月)
・医局の引き揚げにどう備える? 救急の受け入れ停止を防ぐ「負担を切り分ける」共存戦略
・救急受け入れ体制を強化する実務マニュアル──トリアージ・プロトコル・院内ルールの設計図
・救急応需率を改善する5つの組織戦略──「救急車のたらい回し」を組織文化から解決する
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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