更新日:
2026/5/14

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keyboard_arrow_right「救急トリアージのマニュアルを整備したい」「受入基準が現場でばらついている」「2026年度改定で新設された院内トリアージ実施体制加算に対応したい」——こうした実務課題を抱える病院の救急科責任者・事務長は少なくないのではないでしょうか。
救急受け入れ体制の強化は、経営層の方針だけでは動きません。現場で使える具体的なトリアージ基準・受入プロトコル・院内ルールがあって初めて、医師・看護師が自信を持って救急患者を受けられるようになります。
本記事では、応需率50%未満から70%超へ改善した大学病院系事例や、全国で実装されつつある院内トリアージの具体フレームをもとに、救急受け入れ体制を強化するための実務マニュアルの設計図を整理します。
論点 | 結論 |
|---|---|
制度変更(2026年度改定) | 「院内トリアージ実施料」が廃止され、救急外来医学管理料に「院内トリアージ実施体制加算」として組み替え(2026年6月1日施行予定) |
マニュアル化の本質 | 「やったか」ではなく「仕組みとして回っているか」が評価対象になる |
3層構造 | トリアージ基準(重症度判定)+受入プロトコル(診療フロー)+院内ルール(出口動線) |
医学的基準 | 症状別の客観的ツール(PECARN/GBS/SNOOP等)を院内標準として採用 |
実装のカギ | 「個人の判断力」から「誰がやっても回る仕組み」への転換 |
救急受け入れ体制のマニュアル化が急務となっている理由は、単なる業務効率化にとどまりません。以下3つの構造変化が、マニュアル化を経営課題として位置づけ直しています。
2026年度診療報酬改定(2026年6月1日施行予定)では、従来の院内トリアージ実施料(300点/夜間・休日・深夜の受診患者であって初診のもの。救急搬送患者は対象外)が廃止され、新設の救急外来医学管理料の中に「院内トリアージ実施体制加算」として組み替えられます。組み替えにより、従来は対象外だった救急搬送患者(再診患者を含む)にも加算が認められる方向で見直されました。(中医協2026年2月13日答申)。
この変更の本質は、評価軸が「トリアージをやったかどうか」から「トリアージが仕組みとして回っているかどうか」に切り替わったことです。具体的には、以下が施設基準として求められます。
院内トリアージ基準書の整備
院内掲示・ウェブサイトへの基準掲載
専任医師または救急医療経験3年以上の専任看護師の配置
基準の定期見直し運用
つまり、「マニュアルがない病院は加算が取れない」時代に入ったといえます。
救急応需率が低い病院の多くは、現場で以下のような「判断のばらつき」が発生しています。
当直医によって受入可否が違う:同じ症状でもA医師は受け、B医師は断る
看護師の第一判断が一貫しない:電話受け段階で「相談窓口」へ回すか「受入準備」に進むかの基準が不明確
救急科と病棟の連携ルールが曖昧:受けた患者の引き継ぎ方法が定まっていない
このばらつきは、救急隊からの信頼低下につながり、最終的には要請数の減少として現れます。標準化されたマニュアルは、応需率の底上げに直結するのではないでしょうか。
2024年4月施行の医師働き方改革により、特定の常勤医に当直負担を集中させる体制は維持が困難になりました。外部の非常勤医師・スポット当直医が現場に入る機会が増える中、「誰が当直しても同じように判断できる」標準プロトコルがなければ、救急体制は崩れます。
関東地方の大学病院系救急センター(330床規模・2次救急)は、応需率50%未満から約70%への改善を、マニュアル整備と組織変革の同時進行で実現しました。同院の救急科副部長は次のように述べています。
「この症例ならこの検査セットを入れる」というマニュアル整備で、外部医師でも迷わず診療できる環境を整備した
マニュアル化の本質は、「優秀な医師への依存」から「仕組みで診療の質を担保する体制」への転換です。
実務で機能する救急受け入れマニュアルは、以下の3層で構成されます。それぞれの層に独立した設計が必要です。
層 | 目的 | 主な内容 |
|---|---|---|
第1層:トリアージ基準 | 重症度・緊急度の客観的判定 | 症状別の医学的判定ツール(PECARN・GBS・SNOOP等) |
第2層:受入プロトコル | 受入決定から初期診療までのフロー | 診療パス・検査セット・専門医コール基準 |
第3層:院内ルール | 入院判断・引き継ぎ・退出動線 | 病床確保ルール・朝引き継ぎパス・転院調整 |
各層が独立に設計され、かつ連動して回る状態が、救急体制マニュアルの完成形になります。
第1層は「この症状のこの状態なら、このレベルの緊急度」という客観的判定基準です。医師の経験値に依存せず、誰がトリアージしても同じ結論になる仕組みをつくります。
救急医療の国際的な判定ツールを院内標準として採用することで、医学的根拠と判定一貫性の両方を担保できます。
頭部外傷:PECARN基準(小児)、Canadian CT Head Rule(成人)でCT撮影の要否を判定
消化管出血:Glasgow-Blatchford Score(GBS)で入院・内視鏡処置の緊急度を判定
頭痛:SNOOPのRed flag sign(Systemic symptoms, Neurologic signs, Onset sudden, Older age, Pattern change)で二次性頭痛の可能性を評価
胸痛:HEART Scoreで急性冠症候群リスクを層別化
脳卒中疑い:FAST(Face, Arm, Speech, Time)+NIHSSで緊急搬送適応を判定
小児発熱:YIOS(Yale Infant Observation Scale)等の観察スケール
これらの基準は、院内のトリアージ基準書に明記し、電子カルテ上でも参照できる形で整備します。看護師のトリアージ研修でも、これらのツールを共通言語として使えるようにすることが重要です。
症状別のツールに加えて、5段階緊急度区分(JTAS:日本版緊急度判定支援システムが代表例)を院内共通言語として採用することで、トリアージから診療までの情報伝達がスムーズになります。
レベル1(蘇生):即時の救命処置が必要
レベル2(緊急):10分以内の診察開始
レベル3(準緊急):30分以内の診察開始
レベル4(低緊急):60分以内の診察開始
レベル5(非緊急):120分以内の診察開始
レベル別の対応時間を院内掲示にも明記することで、患者家族からの「いつ診てもらえるのか」というクレームも構造的に減らせます。
第2層は、救急隊からの電話受信から初期診療開始までの「診療の流れ」を標準化するプロトコルです。
電話受信時の確認項目テンプレート:バイタル・主訴・年齢・既往・搬送時間等の聴取項目を標準化する
受入可否の判断フロー:ベッド充足率・当直医の専門性・患者状態の3軸で判定するフローチャートを整備する
搬送到着時の対応プロトコル:ABCDE評価(Airway, Breathing, Circulation, Disability, Exposure)と並行した初期検査セットを発動する
症状別の初期検査セット:「胸痛なら心電図+トロポニン+胸部X線」「意識障害なら頭部CT+血糖+血ガス」等、標準の検査パッケージを事前定義する
専門医コール基準:「この検査値・症状が出たら〇科の専門医を呼ぶ」という明確な閾値を設定する
搬送元への返答テンプレート:受入可否を迷わず伝えるための定型文を準備する
症例別の検査セットを事前に定義しておくと、以下の効果が生まれます。
外部医師でも迷わず診療できる:初期対応の標準化により個人の経験値依存が減る
検査漏れが減る:必須検査を漏れなく実施できるため、入院初期の医療資源投入量が正確にレセプトへ反映される
診療時間が短縮される:検査オーダーの意思決定時間がゼロになる
救急補正係数の評価向上にも直結:入院初期2日間の出来高実績点数がDPC設定点数を上回りやすくなる
入院初期の医療資源投入量と救急補正係数の関係については、関連記事「救急補正係数を上げるには?DPC収益を最大化する5つの実践ステップ」で詳しく解説しています。
第3層は、救急から入院・転院・退院に至る「出口の設計」です。救急外来の回転率を上げるためには、この層が最も重要になります。
入院判断の閾値設定:「この症状・バイタル・年齢なら入院」という明確な基準を文書化する
ベッド充足率に応じた受入制限ルール:「ベッド8割充足で近隣・かかりつけ患者に限定」等、無制限でも全拒否でもない中間ルールを設定する
病棟への引き継ぎパス:救急外来から病棟への移動を30分以内に完結させる仕組みを整備する
朝引き継ぎプロトコル:夜間の救急症例を翌朝の専門診療科へ構造化された申し送りフォーマットでバトンタッチする
転院先ネットワークの事前合意:後方支援病院との24時間365日の相互支援協定を締結する(急変時は責任を持って受ける↔落ち着いたら転院する)
下り搬送ルート:2024年度改定で新設された救急患者連携搬送料(入院前 1,800 点/入院 1 日目 1,200 点等)を活用し、3 次救急 → 連携する 2 次救急・地域包括医療病棟への「下り搬送ルート」を設計する。回復期へのつなぎは、退院後の地域包括ケア病棟・回復期リハ病棟と段階的に連携設計する。
退院調整の早期介入:MSW(メディカルソーシャルワーカー)が搬送時点から退院先調整を並行開始する
中部地方の3次救命救急センター(540床規模)では、院内に救命救急士を6名配置し、搬送前から転院先探しを並行開始する仕組みを構築しました。この出口動線の整備により、救急搬送受入率98%(ほぼ断らない救急)を維持しながら、救急外来の回転率を高水準で保っています。
「入口(応需)」だけを見ていても、「出口(退出)」が詰まれば応需率は維持できません。3層すべての連動設計が、本質的なマニュアル化の姿ではないでしょうか。
2026年度改定の新設加算である院内トリアージ実施体制加算(2026年6月1日施行予定)を取得するための施設基準は、本記事で扱う3層マニュアルの整備と完全に整合します。施行まで残り1ヶ月強というタイミングで、未整備の病院には早急な体制整備が求められるのではないでしょうか。
要件 | 内容 |
|---|---|
院内トリアージ基準 | 専任医師・看護師がトリアージを実施するための基準書が整備されていること |
専任配置 | 専任医師、または救急医療経験3年以上の専任看護師の配置 |
患者への周知 | 院内の見やすい場所への掲示等で、院内トリアージの実施について周知 |
ウェブサイト掲載 | 原則としてウェブサイトに掲載(自ら管理するホームページ等を有しない場合は除く) |
算定対象 | 救急外来医学管理料の「夜間休日救急医学管理料」を算定する患者(救急搬送された者を除く) |
マニュアル整備は「作る→周知する→運用する→見直す」のサイクルを組織的に回す仕組みとしての整備が求められます。単なる文書作成ではなく、体制整備として取り組む必要があります。
自院でマニュアル整備を進める際の、実務的なロードマップを整理します。
フェーズ | 期間の目安 | 主要アクション |
|---|---|---|
Phase 1|現状把握 | 1ヶ月 | 既存の判断基準・受入プロトコルを棚卸し、ばらつきの実態を可視化 |
Phase 2|基準策定 | 2〜3ヶ月 | トリアージ基準(第1層)の標準化、症状別の医学的ツールを院内標準として採用 |
Phase 3|プロトコル設計 | 2〜3ヶ月 | 受入プロトコル(第2層)の整備、症状別検査セットの事前定義 |
Phase 4|院内ルール整備 | 2〜3ヶ月 | 入院判断・引き継ぎ・退出動線(第3層)の設計と病棟連携 |
Phase 5|運用開始+定期見直し | 継続 | 3ヶ月ごとに運用状況を検証、現場のフィードバックを反映 |
マニュアル整備は、短期完了型のプロジェクトではありません。整備開始から本格運用までには6〜12ヶ月を見込む必要があります。
マニュアルは作って終わりではなく、運用されて初めて価値が出ます。以下の体制で運用を継続することが推奨されます。
定例の救急運営会議:月1回、救急科・救急外来看護師・医事課・各診療科代表が参加
症例振り返りの仕組み:受けた症例・断った症例を定期的にレビューし、基準の妥当性を検証
改訂記録の管理:マニュアルは生き物。改訂日・改訂理由・改訂者を記録
新規職員への教育プログラム:マニュアルを読むだけでなく、シミュレーション訓練を含めた習熟プロセスを整備
自院の救急受入体制マニュアルの整備状況を検証するために、以下の観点で現状を確認してみてはいかがでしょうか。
確認項目 | 整備不足のシグナル |
|---|---|
症状別のトリアージ基準書の有無 | PECARN・GBS等の標準ツールが院内文書に明記されているか |
5段階緊急度区分(JTAS等)の運用 | 看護師が共通言語として使えているか |
症状別の初期検査セットの事前定義 | 「胸痛セット」「意識障害セット」等が電子カルテで運用可能か |
受入可否判断のフローチャート | 電話受信担当者が迷わず判断できる仕組みがあるか |
病棟への引き継ぎパスの文書化 | 救急外来→病棟の移動時間が30分以内に収まっているか |
朝引き継ぎの標準フォーマット | 夜間症例を専門科に渡す申し送りが標準化されているか |
転院先ネットワークの事前合意 | 24時間365日受けてくれる連携先を何施設確保しているか |
マニュアルの定期見直し運用 | 最低年1回の改訂レビューが行われているか |
新規職員への教育プログラム | マニュアルの浸透・習熟が仕組み化されているか |
2026年度改定の院内トリアージ実施体制加算 | 施設基準を満たす準備が整っているか |
10項目中7項目以上で「NO」があれば、マニュアル整備は組織的な中期プロジェクトとして取り組む必要があるのではないでしょうか。
マニュアル整備を支える組織文化の変革については、関連記事「救急応需率を改善する5つの組織戦略」で詳しく解説しています。当直医体制の設計については、関連記事「救急当直医の確保が難しい病院がやるべき3つの経営判断」もあわせてご参照ください。
救急受け入れ体制のマニュアル化に必要な視点は、次の3点に集約できます。
マニュアルは「個人の判断力」から「仕組みで診療の質を担保する体制」への転換です:属人的な対応は持続可能性がありません。誰が当直しても同じ判断ができる状態が、救急体制の完成形です
3層構造(トリアージ基準+受入プロトコル+院内ルール)の連動設計が不可欠です:どれか1層だけを整備しても機能しません。入口から出口まで一気通貫で設計する必要があります
2026年度改定は「体制評価」の時代の到来です:「やったか」ではなく「仕組みとして回っているか」が問われる時代。中期的には、マニュアル整備の有無が経営格差を生むのではないでしょうか
救急受入体制のマニュアル整備は、救急隊との信頼・常勤医の負担軽減・DPC収益・診療報酬上の評価のすべてに連動する経営課題です。単なる現場の業務改善ではなく、病院経営全体を支える基盤として位置づけ直す必要があるのではないでしょうか。2026年6月1日の改定施行まで残された時間は多くありません。院内トリアージ実施体制加算の施設基準未整備の病院にとっては、早急な着手が必要なタイミングです。
自院の救急受入体制マニュアルの整備・運用、および救急応需率改善の具体策を検討したい経営者・救急科責任者・事務長の方は、救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」の活用を検討してみてはいかがでしょうか。「救急を断らない医師」の紹介と、救急データ分析による運用改善の両面から、救急体制の再設計を支援しています。本記事で触れた関東地方の大学病院系救急センター(応需率50%未満→約70%・受入台数1.6倍)や中部地方の3次救命救急センター(受入率98%)の事例も、同サービスの活用や類似アプローチにより実現しています。
引用元
中央社会保険医療協議会「令和8年度診療報酬改定 答申」(2026年2月13日)
厚生労働省「救急外来医学管理料・院内トリアージ実施体制加算 施設基準」(2026年3月告示)
厚生労働省「疑義解釈資料(2026年度診療報酬改定)」
厚生労働省「救急医療体制等のあり方に関する検討会」関連資料
日本救急医学会「JTAS(日本版緊急度判定支援システム)」ガイドライン
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ
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