更新日:
2026/5/18

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「常勤医師の負担が偏っている」「夜間当直に対応できる医師が確保できない」——救急を担う2次救急病院で繰り返し聞かれる悩みではないでしょうか。働き方改革の上限に抵触しそうな医師を抱える病院では、構造的な制度対応が経営判断の中心に来ています。
この構造的課題に対して、診療報酬制度側から経営選択肢を提供しているのが地域医療体制確保加算です。2026年度改定で加算1(620点)・加算2(720点)の二段構成に再編され、加算2では不足診療科への特別手当が追加要件として組み込まれました。本記事では、働き方改革の総論や宿日直許可の解説ではなく、「算定する/しない」と「算定後の運用をどう設計するか」という2つの経営判断軸に絞って整理します。
論点 | 結論 |
|---|---|
加算の構造 | 2026年度改定で加算1(620点)・加算2(720点)の二段構成に再編。加算1は従来要件、加算2は不足診療科への特別手当が追加要件です |
算定対象 | 救急搬送・周産期・小児救急の実績がある急性期病院。特定地域医療提供医師(B・連携B・C水準)が在籍する病院が中心です |
時間外労働の要件 | 経過措置で令和6年度1,785時間→令和8年度1,635時間→令和9年度1,560時間と段階的に引き下げ。客観的記録(タイムカード・ICカード・PCログ)基礎が必須です |
加算2の追加要件 | 特定診療科(消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科)の医師に毎月定額の特別手当。手術件数連動・支給額の8割以上を常勤医に支給します |
算定の経済価値 | 入院初日に加算1で620点、加算2で720点。年間新規入院患者数が2,000人の病院で、加算1が約1,240万円/加算2が約1,440万円の収益寄与です |
運用設計の3ステップ | ①自院の加算算定可否の診断 → ②時間外労働の客観的記録体制の整備 → ③(加算2の場合)特別手当規程の整備 |
地域医療体制確保加算は、医師の働き方改革(時間外労働上限規制)に対応しながら救急医療等を維持する病院を、診療報酬で支える仕組みです。2026年度改定では、従来の加算を「地域医療体制確保加算1(620点)」とし、これに追加要件を満たすことで「地域医療体制確保加算2(720点)」を算定できる二段構成に再編されました。
加算1の要件骨格は次の通りです。①救急搬送2,000件以上または救命救急センター等の指定、②周産期・小児救急のいずれかの実績、③医師の労働時間短縮計画の作成、④医師の労働時間の客観的記録、⑤計画的な勤務環境改善。これらは2024年改定までの「地域医療体制確保加算」の延長線上にあり、医師の働き方改革対応を診療報酬で支える設計が継続されています。
加算2は加算1の要件に加えて、医師の確保が必要な診療科への処遇改善が追加要件として組み込まれました。対象は消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科の4診療科で、医療機関は最大3診療科を「特定診療科」として指定します。指定した診療科の医師に、毎月定額の特別手当を支給することが要件です。
入院初日に1回、加算1で620点、加算2で720点を算定します。年間新規入院患者数が2,000人(病床稼働率80%超で約100床規模相当)の病院で試算すると、加算1で年間約1,240万円、加算2で年間約1,440万円の収益寄与となります。加算1から加算2へのステップアップ(1入院あたり1,000円増)で、年間約200万円の差が生まれる計算です。施行は2026年(令和8年)6月1日です。厚生労働省は2026年4月20日付で施設基準届出チェックリストを発出し、その後5月1日付で一部訂正の事務連絡を発出しています(参考:GemMed「2026診療報酬改定の施設基準届出チェックリストを一部訂正」)。算定を希望する病院は訂正後の最新版で早期の自院診断が必要です。
地域医療体制確保加算の核心は、特定地域医療提供医師(B・連携B・C水準)の時間外労働の段階的削減にあります。「時間外900時間」というキーワードで本記事に到達された読者には、まず制度上の正確な数値を整理します。
検索キーワードで頻出する「900時間」は、A水準達成の最終局面における警戒水準を指す現場の表現です。制度上の正確な分岐点は次の通りです。A水準は960時間(2024年4月から適用)、B・連携B・C-1・C-2水準は1,860時間が法定上限です。900時間を超える医師がいる病院は、A水準(960時間)への抵触が現実的なリスクとなり、次の打ち手を検討すべき段階に入っています。
地域医療体制確保加算の施設基準上、特定地域医療提供医師の時間外・休日労働時間は経過措置として令和6年度1,785時間→令和8年度1,635時間→令和9年度1,560時間と段階的に引き下げられます。法定上限の1,860時間とは別に、加算算定病院にはさらに厳しい削減カーブが課されている点が要注意です。
施設基準では、医師の労働時間について原則としてタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することが求められます。自己申告制では要件を満たしません。さらに、時間外・休日労働が基準を超える医師がいる場合は、その理由・改善計画を医療機関の見やすい場所に掲示することも必要です。
労働時間の上限管理が厳格化される中で、限られたリソースで医療安全を担保しようとする現場のジレンマが、『専門外の受け入れ困難』という形で顕在化しています。客観的記録の整備は加算算定の前提条件であると同時に、自院の医師労務の構造的問題を経営層が把握するための重要な装置になります。
加算2の核心は、不足診療科の医師に対する毎月定額で支給される特別手当の制度化です。具体的な要件を整理します。
算定対象診療科の医師が行った対象手術件数に応じ、当該加算額の30%以上に相当する額を総額として特別手当を支給することが要件です。例えば加算2で年間3,600万円(年間入院患者5,000人クラスの中規模病院を想定)の加算収益があれば、そのうち1,080万円以上を特別手当として診療科の医師に支給する計算になります。
支給配分には明確なルールがあります。特別手当の支給額の8割以上を当該診療科の常勤医師に支給し、かつ支給内容を医療機関内の全医師に周知することが必要です。これは「常勤医に処遇改善を集中させる」という政策意図の現れであり、非常勤医偏重の手当設計では要件を満たせません。
評価対象は「毎月定額で支給される手当による処遇改善」であり、時間外手当・夜勤手当・出張手当などの変動的手当は除外されます。基本給とは別建ての毎月定額手当を、特別手当として規程化する必要があります。
医師の手当設計という論点は、応需率改善のための内部インセンティブ設計(別記事「医師のインセンティブ設計」で詳述)と重なる領域です。両者の関係を整理します。
医師のインセンティブ設計の3軸(受入連動・入院連動・応需率連動)は、応需率改善のための内部設計です。これに対して加算2の特別手当は不足診療科の処遇改善のための外部要件であり、診療報酬制度が要件として明文化したものです。両者は同じ「医師への手当」という形式でも目的・対象・要件が異なるため、両立して整備するのが現実解となります。
実装段階で落とし穴になりやすいのは、①手当規程に「常勤医8割」を明記しているか、②変動的手当(時間外・夜勤・出張)と明確に区別されているか、③毎月定額の支給根拠を運営委員会等で承認しているか、の3点です。いずれも要件未達の場合は加算2の算定が否認されるリスクがあります。
地域医療体制確保加算の算定判断は、自院の現状によって4つのシナリオに分かれます。
シナリオ | 自院の状態 | 判定 |
|---|---|---|
A | 救急2,000件未満/不足診療科の体制なし | 算定対象外 |
B | 救急2,000件以上/時間外管理は整備済み/特別手当未整備 | 加算1(620点) |
C | シナリオB+特定診療科の特別手当規程整備済み | 加算2(720点) |
D | 救急2,000件以上だが客観的記録未整備/労働時間超過医師多数 | 算定不可(改善計画から) |
救急実績がある病院がシナリオDのまま算定を諦めると、機会損失は大きなオーダーになります。年間新規入院患者数が2,000人の病院では、加算1で年間約1,240万円の機会損失です。(年間5,000人規模の病院であれば約3,100万円の機会損失となります)。客観的記録体制の整備や労働時間短縮計画の作成にかかる初期投資は、この機会損失と比較すれば限定的です。
加算1から加算2へのステップアップは、年間数百万円(規模によっては1,000万円以上)の収益差と、特別手当規程整備・運営委員会承認・医師への周知・労務管理体制強化のコストとの比較になります。残額は、コメディカルの処遇改善や、救急受け入れ体制強化のための設備投資など、病院全体の医療提供体制の維持・向上に還元する原資となります。
実際の支援現場でも、東北地方の300〜400床規模の病院では応需率74%という現状から「収益機会の損失」を経営課題として認識し、加算算定の前提となる救急実績水準の確保が議論されています。中部地方の約200床規模の病院では応需率70%・宿日直許可取得済みという状態から、客観的記録体制の整備と段階的な加算取得計画が検討されました。算定の経営判断は、自院の現状をシナリオA〜Dに当てはめるところから始まります。
地域医療体制確保加算の算定は、①客観的労働時間管理、②時間外削減の段階計画、③(加算2の場合)特別手当規程の3点を整えることが前提となります。この3点を整える過程で、救急体制・医師労務管理・処遇改善の全体設計が再構築されることになります。
加算1(620点)と加算2(720点)の二段構成は、医師の働き方改革と地域医療確保の両立を診療報酬制度側から支える設計です。算定可否の自院診断を行い、シナリオA〜Dのいずれに該当するかを把握することが、経営判断の出発点となります。
地域医療体制確保加算の算定可否を、9つの確認項目で診断します。
確認項目ができているかをチェックしてください。
確認項目 | 整備不足のシグナル | チェック |
|---|---|---|
年間救急搬送受入件数が2,000件以上ある | 2,000件未満なら加算算定対象外 | □ |
周産期・小児救急のいずれかの実績がある | いずれもない場合は要件未達 | □ |
医師の労働時間短縮計画が作成され、運営会議で承認されている | 計画書類が未整備 | □ |
タイムカード・ICカード・PCログ等で医師の労働時間が客観的に記録されている | 自己申告制のままになっている | □ |
特定地域医療提供医師の時間外労働が令和8年度基準(1,635時間)以下に管理できている | 超過医師が複数名いる | □ |
(加算2を狙う場合)消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科のいずれかが整備されている | いずれも未整備 | □ |
(加算2を狙う場合)特別手当の規程が毎月定額・常勤医8割ルールに準拠して整備されている | 時間外手当のみで処遇改善している | □ |
(加算2を狙う場合)特別手当の支給内容を医療機関内の全医師に周知する仕組みがある | 周知の仕組みが未整備 | □ |
4月20日付の施設基準届出チェックリストを使った自院診断を実施した | 未着手 | □ |
チェックがつかない(=「整備不足のシグナル」に該当する)項目が3つ以上ある場合、加算算定の運用設計から見直しが必要です。算定要件の整備や運用設計についての具体的な相談は、ドクターズプライムワークまでお問い合わせください。
参照
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 個別改定項目について」(地域医療体制確保加算1・2の要件)
中央社会保険医療協議会「令和8年度診療報酬改定 答申」(2026年2月13日)
厚生労働省 保険局医療課「2026年度診療報酬改定 疑義解釈(その1)」(地域医療体制確保加算2の詳細)
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(地域医療体制確保加算1・2の施設基準告示および経過措置:令和6年度1,785時間→令和8年度1,635時間→令和9年度1,560時間)
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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