更新日:
2026/5/28

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※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省の一次情報(医科点数表A205/別表第七の三/令和8年告示および令和8年3月公示の診療報酬改定資料)をもとに作成しています。
「受け入れ基準を作りたいが、どこから手をつければいいか分からない」「当直医によって受ける・断るがバラつく」「マニュアルを作っても現場で使われない」——こうした悩みを抱える病院の院長・救急科部長・事務長は少なくないのではないでしょうか。本記事では、救急受け入れ基準を病院全体でマニュアル化する着手手順と、電話入電から退出までの運用フローの作り方を、現場で機能する形に整理します。結論を先に述べると、マニュアル化のゴールは分厚い文書をそろえることではなく、当直医が迷わず動け、毎月更新され続ける「仕組み」をつくることです。そして着手点は、いきなり基準を書き始めることではなく、不応需理由の可視化と、最終承認者を先に決めることにあります。
救急受け入れ基準のマニュアル化とは、医師個人の裁量に委ねられてきた「受ける/断る」の判断を、病院としての明文化された基準と運用フローに置き換え、誰が当直しても同じ判断に到達する状態を設計することです。 2026年度改定では、この「体制が回っているか」そのものが診療報酬上の評価対象に組み替えられました(中医協 令和8年2月13日答申)。
論点 | 結論 |
|---|---|
マニュアル化の本質 | 「文書を作る」ことではなく「誰がやっても回る仕組み」へ転換すること |
最初の着手点 | 基準の執筆ではなく、不応需理由の可視化と最終承認者の決定 |
進め方の鉄則 | 全科一斉ではなく、協力的な診療科から段階導入。初期完成度7〜8割で走り出す |
運用フローの3層 | トリアージ基準(重症度判定)+受入プロトコル(診療フロー)+院内ルール(出口設計) |
形骸化の防止 | 月1回の救急運営会議で不応需理由を振り返り、3か月ごとに改訂する |
制度的背景 | 2026年度改定で「院内トリアージ実施体制加算」が新設。体制整備が評価対象に |
「どこから着手すべきか」への答えは、次の3点に集約できます。
第1に、不応需理由を分析する:基準を書く前に、過去の「断った理由」を可視化する
第2に、最終承認者を固定する:誰が決裁するかを先に決めてから作成に入る
第3に、運用フローを設計する:トリアージ基準・受入プロトコル・院内ルールの3層を、協力的な診療科から段階的に組む
全院マニュアル化が経営課題に浮上している背景には、救急需要の構造的増加・制度の評価軸転換・医師働き方改革という3つの圧力があります。
まず需要面です。消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』によると、令和6年中の救急自動車による救急出動件数は約771万7,000件、搬送人員は約676万5,000人で、いずれも集計を開始した昭和38年以降の過去最多を更新しました[出典:消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』]。高齢化を背景に救急需要は増え続けており、現場到着から病院収容までの所要時間も新型コロナ禍前と比べて延伸傾向にあります。受け入れ側の判断が属人的なままでは、増え続ける要請をさばききれない構造になっています。
次に制度面です。2026年度診療報酬改定(令和8年6月1日施行)では、従来の院内トリアージ実施料が廃止され、新設の救急外来医学管理料等の加算として「院内トリアージ実施体制加算」に組み替えられました[出典:中央社会保険医療協議会 令和8年2月13日答申/厚生労働省 令和8年告示]。評価軸が「トリアージをやったか」から「トリアージが仕組みとして回っているか」へ移ったことが、この見直しの本質です。基準書の整備・院内掲示・ウェブサイト掲載・定期見直しといった体制要件が求められ、マニュアルがない病院は加算が取れない時代に入ったといえます。
最後に医師働き方改革です。2024年4月施行の上限規制により、特定の常勤医に当直負担を集中させる体制は維持が困難になりました。外部の非常勤医師・スポット当直医が現場に入る機会が増えるなかで、「誰が当直しても同じ判断ができる」標準プロトコルがなければ、夜間の救急体制は崩れます。応需率の可視化を起点とした体制づくりの考え方は、厚労省の救急受け入れDX化に備えよ!応需率の可視化を勝ち抜く「強い救急体制」の条件もあわせてご参照ください。
マニュアル化が進まない病院には、文書作成の巧拙ではなく、着手と運用の設計に共通の3つのつまずきがあります。
着手点の不在:「基準を作ろう」と号令はかかっても、どの診療科から、どこまで踏み込んで決めるかが定まらず、総論賛成・各論停滞に陥る。最初から完成版を目指すほど、合意が取れず動き出せません。
合意形成の壁(診療科間の温度差):救急に協力的な科と消極的な科が混在するなかで、全科一斉に基準を導入しようとすると摩擦が大きく、頓挫します。とりわけ「専門外だから」を理由にした入院受入の押し付け合いは、現場で日常的に起こります。
運用が回らない(作って終わる):マニュアルを整備しても、振り返りと更新の場がなければ現場実態と乖離し、半年で形骸化します。「断った症例」を可視化して議題に乗せる仕組みがないと、基準は更新されません。
このうち診療科間の引き受け摩擦は、受け入れ可否そのものとは別次元の課題として残ります。入院後の引き受けを巡る対立を構造的に解消する設計論は、救急部と各診療科の対立を解消する院内ルール──入院受入を巡る摩擦への処方箋で詳しく整理しています。
マニュアル化の失敗は、ほぼ3つのパターンに集約されます。 着手前に把握しておくことで回避できます。
よくある失敗 | 主な原因 | 回避策 |
全科一斉に導入しようとする | 診療科間の温度差で合意形成が崩壊 | 協力的な診療科から段階導入する |
完成版マニュアルを最初に作ろうとする | 完璧主義による着手の遅延 | 初期完成度7〜8割で走り出す |
作ったあと更新しない | 振り返りの場とKPIの不在で形骸化 | 月1回の運営会議で改訂し続ける |
条件を抽象的に書く(「対応困難なら断る」等) | 属人化が温存される | 客観条件(症状・バイタル・年齢)に落とす |
着手の鉄則は、いきなり基準を書き始めることではなく、「過去の不応需理由の可視化」と「最終承認者の決定」の2点からスタートすることです。 そのうえで、次の6ステップで「現場判断の可視化 → 標準化 → 運用化」の順に進めると定着しやすくなります。
過去1〜3か月分の救急要請件数・応需件数・不応需件数を、不応需理由・時間帯・医師別・診療科別に分解します。ここを飛ばして基準を書くと、実態と乖離したマニュアルになります。不応需理由は、次のように分類して対策と紐づけると、何を基準化すべきかが見えてきます。
不応需理由 | 典型的な対策の方向性 |
|---|---|
専門外(夜間の専門医不在) | 除外条件の客観化+上級医エスカレーション経路の整備 |
患者対応中・満床 | ベッド充足率に応じた中間ルール+後方転院・下り搬送 |
検査制約(夜間CT不可等) | 受け入れ可能な検査条件の事前整理 |
手術不可(麻酔体制なし) | 初期対応後の転送前提での受け入れ設計 |
情報不足 | 電話受信時の確認項目テンプレートの標準化 |
搬送時情報の取得を含めた可視化の実装は、救急DX|電子カルテ情報共有サービスで応需率向上。3文書6情報活用のポイントが参考になります。
基準を誰が決裁するかを最初に固定します。内科系・外科系の診療部長を最終確認者にする、あるいは統括部長を最終承認者に置くなど、承認フローを決めてから着手すると、後戻りが減ります。
全科一斉ではなく、科長が前向きで救急実績のある診療科から始めます。摩擦の小さいところで型を作り、成功事例を院内に伝播させながら横展開します。
応需基準・入院基準・診療科別の対応範囲(得意・難しいの取り決め)を、夜間に非常勤医師が見ても迷わない具体性で明文化します。「明確な除外条件以外は原則として一度受け入れる」という原則を置くと、判断のブレが構造的に減ります。
受けた症例・断った症例を毎月レビューし、基準の妥当性を検証して改訂します。可視化した不応需データを議題に乗せることが、運用を回し続ける推進力になります。
完成したマニュアルやシフト表を救急隊と共有すると、要請段階のミスマッチが減り、結果として要請数そのものが増えます。
最初から100点を目指さず、初期完成度7〜8割で運用を始め、回しながら更新する進め方が、最も失敗しにくいルートです。
実務で機能する救急受け入れマニュアルは、トリアージ基準・受入プロトコル・院内ルールの3層で設計すると運用しやすくなります。 各層が独立して設計され、かつ連動して回る状態が完成形です。
層 | 目的 | 主な内容 |
第1層:トリアージ基準 | 重症度・緊急度の客観的判定 | 症状別の医学的判定ツール(PECARN・GBS・SNOOP等) |
第2層:受入プロトコル | 受入決定から初期診療までのフロー | 診療パス・検査セット・専門医コール基準 |
第3層:院内ルール | 入院判断・引き継ぎ・退出動線 | 病床確保ルール・朝引き継ぎパス・転院調整 |
医師の経験値に依存せず、客観的な医学的ツールを院内標準として採用します。頭部外傷はPECARN基準(小児)やCanadian CT Head Rule(成人)、消化管出血はGlasgow-Blatchford Score(GBS)、頭痛はSNOOPのRed flag sign、胸痛はHEART Score、脳卒中疑いはFAST+NIHSSといった基準を、トリアージ基準書に明記します。あわせて、JTAS(日本版緊急度判定支援システム)に代表される5段階緊急度区分を院内共通言語として運用すると、トリアージから診療までの情報伝達が一貫します。
救急隊からの電話受信から初期診療開始までを標準化します。実際の運用フローは、次のように一本道に落とすと現場が混乱しません。
救急隊入電
↓
事務/看護師が基本情報を取得(バイタル・主訴・年齢・既往・搬送時間)
↓
除外条件を確認(客観条件に照合)
↓
├─ 除外条件に該当しない → 原則受け入れ
└─ 除外条件に該当 → 当直医が確認
↓
判断困難
↓
上級医へエスカレーション
このフローに加えて、症状別の初期検査セットを事前に定義します(胸痛なら心電図+トロポニン+胸部X線、意識障害なら頭部CT+血糖+血ガスなど)。検査セットを決めておくと、外部医師でも迷わず診療でき、検査漏れと意思決定時間が同時に減ります。
入口(応需)だけを整えても、出口(退出)が詰まれば応需率は維持できません。入院判断の閾値、ベッド充足率に応じた受入制限ルール(無制限でも全拒否でもない中間ルール)、病棟への引き継ぎパス、朝引き継ぎの標準フォーマット、後方支援病院との相互支援協定、下り搬送ルートを設計します。3次から連携先への下り搬送を収益につなげる設計は、「下り搬送」拡充を収益に変える、急性期病院の救急病床マネジメントで詳しく解説しています。
成果を出した病院に共通するのは、「受けない理由」ではなく「どうすれば受けられるか」を議論し、属人的な判断を仕組みに置き換えた点です。
関東地方の大学病院系救急センター(330床規模・2次救急)は、応需率50%未満から約70%への改善を、マニュアル整備と組織変革の同時進行で実現しました。同院の救急科副部長は「『この症例ならこの検査セットを入れる』というマニュアル整備で、外部医師でも迷わず診療できる環境を整えた」と語ります。輪番日の応需率が60%台にとどまっていた別の二次救急病院でも、受入上限ルールの明確化と外部医師の配置を組み合わせ、応需率90%超へ改善した例があります。
中部地方の3次救命救急センター(540床規模)では、院内に救命救急士を配置し、搬送前から転院先探しを並行開始する出口動線を構築しました。この設計により、救急搬送受入率98%という高水準を維持しながら、救急外来の回転率を保っています。
これらは、当社が支援してきた100病院超・累計救急受入16万人規模のデータから得られた改善事例であり、改善の幅は病院の規模・体制・地域特性によって異なります。共通して確認されるのは、成功病院ほど「協力的な診療科から段階的に始める」「基準は7〜8割の完成度で走り出す」「最終承認者を先に固定する」という型を持っていることです。逆に応需率が低い病院は、完璧に対応可能な症例しか受けない傾向が見られます。
マニュアルは作って終わりではなく、運用されて初めて価値が出ます。 自院で進める際の現実的なロードマップは次のとおりです。
フェーズ | 期間の目安 | 主要アクション |
|---|---|---|
Phase 1|現状把握 | 2週間〜1か月 | 不応需理由の分析、現場ヒアリング、ばらつきの可視化 |
Phase 2|基準策定 | 2〜4週間 | 受け入れ原則の1枚化、除外条件の客観化、電話確認項目の標準化 |
Phase 3|試験運用 | 1か月 | 協力的な診療科・夜間限定で試行し、振り返って修正 |
Phase 4|全院展開+運用 | 継続 | 段階的に全科へ展開、KPIモニタリングを定常化 |
運用を支えるのは、月1回の救急運営会議(救急科・救急外来看護師・医事課・各診療科代表が参加)、受けた症例・断った症例の定期レビュー、改訂日・改訂理由・改訂者を残す改訂記録、新規職員へのシミュレーション訓練を含む教育プログラムです。継続的にモニタリングすべきKPIは、時間帯別の応需率、不応需理由の月次分析、医師別の判断差異、再搬送率、初療時間です。マニュアル化が応需率・入院率・病床稼働率・DPC収益にどう連動するかは、「断らない救急」がDPC収益を最大化する。救急補正係数・体制評価指数の攻略法で整理しています。
症状別のトリアージ基準書(PECARN・GBS等)が院内文書に明記されているか
5段階緊急度区分(JTAS等)を看護師が共通言語として使えているか
症状別の初期検査セットが電子カルテ上で運用可能か
電話受信担当者が迷わず受入可否を判断できるフローチャートがあるか
救急外来から病棟への引き継ぎが30分以内に収まる仕組みがあるか
24時間365日受けてくれる後方連携先を確保しているか
最低でも年1回、できれば3か月ごとの改訂レビューが行われているか
2026年度改定の院内トリアージ実施体制加算の施設基準を満たす準備が整っているか
8項目のうち過半に「いいえ」があれば、マニュアル整備は組織的な中期プロジェクトとして着手し直す必要があるのではないでしょうか。
救急受け入れ基準のマニュアル化で押さえるべき要点は、次の3点に集約できます。
ゴールは文書ではなく「仕組み」です:分厚いマニュアルをそろえることではなく、当直医が迷わず動け、毎月更新され続ける状態をつくることが本質です。属人的な対応は持続可能性がありません。
着手点は「可視化」と「承認者の決定」です:いきなり基準を書き始めるのではなく、不応需理由を可視化し、最終承認者を先に決めることから始めると頓挫しにくくなります。全科一斉ではなく、協力的な診療科から7〜8割の完成度で走り出すのが定着の鉄則です。
3層の連動と運用の継続が成否を分けます:トリアージ基準・受入プロトコル・院内ルールを入口から出口まで一気通貫で設計し、月次の運営会議で振り返って改訂し続けることが求められます。
救急受け入れ体制のマニュアル化は、救急隊との信頼・常勤医の負担軽減・診療報酬上の評価・病床稼働率のすべてに連動する経営課題です。2026年6月1日の改定施行を前に、院内トリアージ実施体制加算の施設基準が未整備の病院にとっては、早急な着手が必要なタイミングといえるでしょう。自院での着手手順や運用フローの設計を検討する際は、外部の専門家の支援を得ることも一つの選択肢です。
作成は救急科・救急外来看護師・医事課・各診療科代表によるワーキンググループで進め、最終承認者は内科系・外科系の診療部長や統括部長など、あらかじめ固定するのが実務的です。承認フローを着手前に決めておくと、後戻りや差し戻しが減ります。診療科間の引き受け摩擦の調整は別途ルール化が必要で、救急部と各診療科の対立を解消する院内ルールが参考になります。
初期完成度は7〜8割で十分です。完璧を目指して着手が遅れるより、まず走り出し、月次の振り返りで更新していく方が定着します。整備開始から本格運用までは6〜12か月を見込むのが現実的です。
段階導入が推奨されます。科長が前向きで救急実績のある診療科をパイロットに選び、成功事例を数値で可視化してから、協力的な科・中立的な科・慎重な科の順に展開すると、摩擦が小さくなります。
月1回の救急運営会議で「受けた症例・断った症例」をレビューし、3か月ごとに改訂する運用が不可欠です。改訂日・改訂理由・改訂者を記録し、不応需理由の月次データを議題に乗せることで、基準が現場実態に追従し続けます。
2026年度改定(令和8年6月1日施行)で、従来の院内トリアージ実施料が廃止され、救急外来医学管理料等の加算として新設されたものです(中医協 令和8年2月13日答申)。基準書の整備・院内掲示・ウェブサイト掲載・専任配置・定期見直しといった体制要件が施設基準として求められ、本記事の3層マニュアル整備と整合します。
消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』(令和8年1月公表/令和6年中の救急出動・搬送人員データ):消防庁 救急・救助の現況
厚生労働省『令和8年度診療報酬改定について』(令和8年3月):厚生労働省 令和8年度診療報酬改定 概要
中央社会保険医療協議会「令和8年度診療報酬改定 答申」(令和8年2月13日)
厚生労働省「救急外来医学管理料・院内トリアージ実施体制加算 施設基準」(令和8年告示)
日本救急医学会ほか「JTAS(日本版緊急度判定支援システム)」
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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