更新日:
2026/5/28

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※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省・消防庁・中央社会保険医療協議会の一次情報(消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」令和7年3月28日公表/中医協「令和8年度診療報酬改定 答申」令和8年2月13日/厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要 3.急性期・高度急性期入院医療」令和8年告示・公示資料)をもとに作成しています。
結論:救急応需率を改善する手段は、次の3つに整理できます。
① 院内改善 — 組織方針・受入ルール・出口設計を変える内部改革(低コスト/効果まで6〜12ヶ月)
② 医師採用 — 不足する医師を補充する人材施策(即効性高/コスト高)
③ 運用支援 — データ分析と改善サイクルで仕組みを最適化する伴走(再現性高/効果まで3〜6ヶ月)
応需率改善は「医師を増やすだけ」では再現性がありません。 3つを組み合わせて初めて、応需率は60%台から90%超へ安定的に動きます。本記事では、3カテゴリーの中身・違い・選び方を、現場の実装事例とともに整理します。
自院の状態 | 最優先で着手すべき手段 | 補完手段 | 期待される到達点(目安) |
|---|---|---|---|
応需率 50%未満 | ② 医師採用+① 院内改善(同時並行) | ③ 運用支援 | 1〜2年で大幅改善(例:70%超) |
応需率 60〜70% | ③ 運用支援(データ可視化+ルール設計) | ① 院内改善、② 医師採用 | 12〜18ヶ月で85%以上 |
応需率 80〜90% | ③ 運用支援(夜間帯・非輪番日の深掘り) | ① 院内改善(出口設計の高度化) | 12ヶ月で90%超 |
※ 到達点は自社支援事例ベースの目安です。自院の規模・地域特性・初期条件により変動します。
比較軸 | ① 院内改善 | ② 医師採用 | ③ 運用支援 |
|---|---|---|---|
効果発現までの目安 | 6〜12ヶ月 | 導入後〜3ヶ月 | 3〜6ヶ月 |
再現性 | 中 | 低 | 高 |
コスト | 低 | 高 | 中 |
主な目的 | 文化・仕組みの変革 | 当直体制の維持 | データドリブンな改善 |
応需率を改善する手段を選ぶ前提として、「なぜ自院は救急を断っているのか」の構造分解が必要です。理由ごとに有効な手段が異なるからです。
ある救急科責任者がセミナーで示した整理によれば、現場で救急応需をためらわせる要因は次の 5つに分解 できます。本稿ではこれを不応需5因子モデルと呼びます。
専門外 — 自分では対応できないという判断で最初から断る
救急外来の混雑 — これ以上患者が来ては困るというキャパシティ超過
病床なし — 入院が必要と分かっていても病床が空いていない
複雑な社会的背景 — 受けた後の長期化・転帰困難を見越して躊躇する
院内からの圧力 — 「なんでこんな患者を受けたのか」と言われるイメージで現場が萎縮する
この5因子のうち①は判断基準のマニュアル化、④は出口設計とACP整備、⑤は経営層の方針明示で解消可能であり、必ずしも医師を増やさなければ解決しない論点が多数を占めます。 一方、②③は病床マネジメントと出口設計の問題で、医師数を増やしただけでは解決しません。
さらに、救急ケアシステムは Input(来院)→ Throughput(診断・方針決定)→ Output(退出) の三層構造で回っています。応需率低下の根本原因は、多くの場合「出口」の詰まりにあります。入院病床への移動待ち、家族が来ない、転院先が見つからない——これらが救急外来の滞留を生み、結果として「もう受けられない」状態を引き起こします。
「受ける入口の整備」だけでなく「動かす出口の設計」が不可欠であり、この視点が手段選びを大きく左右します。
院内改善は、追加コストが最も低く、効果の持続性が高い手段です。一方で、院長・理事長の覚悟と継続的な発信なしには機能しないという難所もあります。
応需率が低迷する病院に共通するのは、現場の医師・看護師が「断る理由を探すこと」に無意識のインセンティブを感じている状態です。受けた患者が院内で問題を起こせば叱られるが、断っても特に追及されない——この非対称性が、組織的な「断る文化」を生みます。
ある救急専門医はセミナーで次のように述べています。
「病院全体として地域の救急患者さんをしっかり受けていくっていう方針を、ドーンと掲げていただくっていうのが一番大事」
具体的な実装は次のとおりです。
院長・理事長による「救急を受ける」宣言を院内・救急隊に継続発信する
救急日誌を経営層が毎日確認し、断り理由を救急会議で検証する
診療科・個人の評価軸に救急応需実績を組み込む
「受けたことで叱らない」文化を徹底する
方針だけでは現場は動きません。「受ける症例」「受けない症例」の判断基準を文書化し、個人の経験値への依存をなくす設計が必要です。
ある関東地方の大学病院系救急センター(334床・2次救急)は、応需率50%未満という状況から、マニュアル整備と組織変革の同時進行により年間救急受入台数を約3,000台から約4,800台へ約1.6倍に増やし、応需率を約70%まで改善 しました。同センターの救急科副部長は次のように述べています。
「『この症例ならこの検査セットを入れる』というマニュアル整備で、外部医師でも迷わず診療できる環境を整備した」
マニュアル化の本質は、「個人の頑張り」から「組織の仕組み」への転換です。
組織文化と受入ルールを軸とした院内改善の具体策は、救急応需率を改善する5つの組織戦略─「救急車のたらい回し」を組織文化から解決するでさらに掘り下げています。
応需率改善で最も見落とされやすいのが「受けた患者を動かせない」ことによる救急外来の飽和です。
ある3次救命救急センターでは、院内に救命救急士を6名配置し、搬送前から転院先探しを並行開始する仕組みを構築。救急搬送受入率98%を維持しながら、救急外来の回転率を高水準で保つ運用を実現 しています。
出口設計に必要な要素は、入院病棟への引き継ぎパス、転院先ネットワークの事前構築、MSWの早期介入、救急救命士・事務職へのタスクシフト、令和6年度改定で新設された救急患者連携搬送料(下り搬送)の活用です。
なお、下り搬送を収益に接続する具体的な病床マネジメントについては、【令和8年度改定対応】「下り搬送」拡充を収益に変える、急性期病院の救急病床マネジメントで詳しく解説しています。
「医師を補充する」と一言で言っても、市場には少なくとも4類型のサービスが存在します。自院の課題がどの類型で解決されるか を見極めることが、選定の出発点になります。
類型 | サービスの性質 | 主な用途 | 評価軸 |
A. 常勤紹介(仲介型) | 医師個人との雇用契約をマッチング | 常勤医の採用 | 採用成立率、定着率 |
B. スポット派遣 | 1回単位の当直・日直の枠を医師が応募 | 輪番日の体制安定化 | 枠充足率、医師の質 |
C. 継続派遣 | 同じ医師が継続的に同じ曜日に勤務 | 85%以上 | 医師の応需スキル |
D. 運用支援込み派遣 | 医師供給+受入ルール設計+データ分析を一体提供 | 応需率改善と経営収益化の両立 | 応需率改善実績、再現性 |
選定で最も重要なのは、自院の課題が「単なる人手不足」か「応需率と経営収益の同時改善」かを切り分けることです。前者ならA〜Cで足ります。後者であればDが選択肢になります。
ある関東地方の260床規模の2次救急病院では、輪番日の応需率が60%台で停滞していました。 院内でオンコール体制の整備・インセンティブ設置など環境整備を試みたものの、医師個人の経験値・リスク感覚のばらつきによる「断り」は解消できなかったといいます。
外部の若手救急専門医(D類型)を輪番日の当直に導入し、同時に「ベッドが8割充足したら近隣・かかりつけ患者に限定」という受入上限ルールを設計した結果、応需率は90%以上、病床稼働率は約9割で安定 しました。
「救急車が7、8台並んでしまう状況もございますが、外部の救急専門医が1人でスムーズに対応していただけるため、安心して業務をお任せできています」(同院長)
医師の頭数を増やしたのではなく、医師の質(救急応需マインドセット)と院内ルール設計の組み合わせで応需率が動いた 点が核心です。「医師を増やせば応需率が上がる」は半分正解にすぎません。
医師の質 — 救急応需を評価指標として採用しているか
受入ルール設計支援 — サービス側が院内ルール設計に伴走するか
データ分析 — 応需率・入院率を可視化する仕組みがあるか
契約柔軟性 — 時間帯・診療科・輪番日限定の契約が可能か
再現性 — 複数病院で同じパターンの成果が出ているか
A・B類型では「受入ルール設計支援」「データ分析」が病院側の責任範囲となり、C・D類型ではサービス側が担う範囲が広がります。
外部委託というパートナー選定の判断軸については夜間当直の救急対応に強い非常勤医師の採用支援サービスとは|3類型と選定5観点を解説を、自院の医師だけで救急を回そうとする「自前主義」の限界については応需率低下を招く"自前主義"の罠。医師偏在対策×働き方改革時代を生き抜く救急マネジメントを、それぞれあわせてご覧ください。
運用支援は、応需率を「測る数字」から「動かす数字」へ転換するためのカテゴリーです。次の3要素を伴走する形で実装します。
応需率を「総合の%」だけで見ても、改善のレバーは見えません。次のように下位指標へ分解することで、どこに手を打てば動くかが特定できます。
時間帯別応需率(日勤帯・準夜帯・深夜帯)
診療科別応需率(内科救急・外科救急・整形外科救急ほか)
曜日別応需率(輪番日・非輪番日)
不応需理由別内訳(不応需5因子モデルでの分解)
このKPIツリーで月次レビューを行うと、「総合応需率が70%で停滞している要因は、非輪番日×深夜帯×内科救急の応需率が30%に沈んでいるからだ」といった具体的な打ち手の発見につながります。
ある中部地方の急性期病院(400床規模)では、看護師の集団離職で救急受入が前年割れする危機に直面しました。着任した救急医が打ち出した方針は 「人を増やす前に、効率的に動いているかを問い直す」 という業務改善優先のアプローチでした。10秒〜20秒単位の小さな改善の積み重ねにより、1年後には入院数10%増・スタッフ満足度向上を同時達成 しています。
「人を単純に増やすと考える前に、そもそも効率的に物事が動いているかを考え直す」(同担当医)
この事例が示すのは、運用支援は「医師を増やす」より先にやるべき場合がある という構造です。段階的導入の典型(DPの伴走事例における目安)は次のとおりです。
Phase 1(1〜3ヶ月) — 応需率の現状可視化、不応需理由の構造分解
Phase 2(4〜9ヶ月) — 受入ルール設計、出口動線の整備、必要に応じて医師補強
Phase 3(10ヶ月〜) — 月次PDCAサイクルの定着、組織文化の自律運用化
ある中規模の地方中核2次救急病院は、年間救急車受入約3,600〜3,800台・応需率常に90%以上を維持しています。同院長は次のように語っています。
「ドクターはいきなり『やれ』という形で言っても動かないんです、絶対。それよりはきちんとデータを示して、それで納得されたら自発的に動いて下さる」
データドリブンな運用は、医師・看護師・コメディカル・事務すべての職種が同じ数字を見て意思決定する文化を作り、応需率の持続的改善を可能にします。
3カテゴリーは単独では応需率を動かしません。応需率が60%台から90%超へ動いた病院に共通するのは、「医師の質 × 受入ルール設計 × データ可視化」の三位一体が成立している点です。これを 三位一体モデル と呼びます。
要素 | カテゴリー | 担う役割 |
|---|---|---|
医師の質 | ② 医師採用 | 応需マインドセットを持つ医師の確保 |
受入ルール設計 | ① 院内改善 | 個人判断のばらつきを組織の仕組みに転換 |
データ可視化 | ③ 運用支援 | KPIツリーによる月次改善サイクル |
応需率1ポイントの改善は、200床帯の2次救急病院で 年間およそ数百万円規模の経営インパクト を生みます(年間要請件数・入院率・1入院あたりDPC収益による)。30ポイントの改善(60%台→90%超)であれば、年間で億円規模の経営改善が射程に入ります。
この試算の計算式と前提については救急応需率1ポイントの経営価値はいくらか─病院経営KPIとしての応需率と収益の定量関係で、応需率改善をDPC収益に接続する仕組みについては【令和8年度改定】「断らない救急」がDPC収益を最大化する。救急補正係数・体制評価指数の攻略法で詳述しています。
実際、ある北陸地方の180床規模の2次救急病院では、外部の救急専門医を活用した体制強化により、救急車受入が昨対比36.7%増、救急搬送からの入院率が45%→57%、上半期だけで昨対比約1億円の増収 を達成しています。
2026年度診療報酬改定では、急性期医療の評価軸が「看護師配置数(体制)」から 「救急・手術の具体的な実績(機能)」へ大きく転換 しました。中医協が2026年2月13日に答申した内容によれば、新設される急性期病院A・Bの実績要件は次のとおりです。
急性期病院A:救急搬送2,000件以上 かつ 全身麻酔手術1,200件以上(AND条件、点数1,930点)
急性期病院B:以下のいずれか(OR条件、点数1,643点)
救急搬送1,500件以上
救急搬送500件以上 かつ 全身麻酔手術500件以上
人口20万人未満地域の最大救急搬送病院(救急搬送1,000件以上)
離島地域の最大救急搬送病院
つまり、急性期機能を維持するために 救急実績が施設基準そのもの になりました。応需率改善は単なる現場のKPIではなく、経営戦略の中核論点として位置づけ直されています。
新「急性期病院一般入院基本料(A・B)」の基準と背景の詳細は、急性期病院の生き残り戦略!新「急性期病院一般入院基本料」と救急搬送実績への対応で解説しています。
本記事の主張は次の3点に集約されます。
応需率改善の手段は、院内改善・医師採用・運用支援の3カテゴリーに整理できる。
不応需5因子モデルで自院の課題を分解し、どのカテゴリーから着手すべきかを決める。
三位一体モデル(医師の質×受入ルール×データ可視化)が成立して初めて、応需率は60%台から90%超へ安定的に動く。
2026年度診療報酬改定で救急実績が施設基準そのものとなり、応需率改善は経営戦略の中核論点になりました。「現場の問題」ではなく「経営の起点」として捉え直すタイミングが来ています。
必ずしもそうではありません。 不応需5因子モデルで分解すると、医師の頭数では解決しない要因(病床・出口・院内圧力)が多数を占めます。複数の改善事例で共通するのは、医師を増やす前に受入ルール設計や出口動線の整備を先行させたケースです。
「医師の質」、つまり救急応需マインドセットを評価指標として採用しているか が最重要です。同じ医師数でも、専門外でも「まず受ける」姿勢を持つ医師とそうでない医師では、応需率の動き方が大きく異なります。
自院の応需率の現在値によります。 50%未満なら医師補強と組織変革を同時並行。60〜70%帯なら運用支援を先行。80%超なら夜間帯・非輪番日への深掘りが中心です。冒頭の意思決定マップ表を参照してください。
短くても6〜12ヶ月、安定的な高水準維持までは12〜24ヶ月 を見込む必要があります。複数事例では、宣言から救急隊の信頼回復までに3〜4ヶ月の「電話が鳴らない時期」を経て、5ヶ月目以降に要請が増えるパターンが観測されています。
可能です。 支援した事例には99床規模、180床規模、260床規模、334床規模の病院が含まれており、いずれも応需率を大幅に改善しています。重要なのは規模ではなく、三位一体モデル(医師の質×受入ルール×データ可視化)が成立しているかどうかです。
新設される急性期病院A・Bの施設基準に救急搬送件数が直接組み込まれ、急性期機能を維持する前提条件 となりました。急性期病院Bの最低ラインは「救急搬送年1,500件以上」(または救急500件以上+全身麻酔500件以上等のOR条件)です。
総務省消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」(令和7年3月28日公表)
中央社会保険医療協議会「令和8年度診療報酬改定 答申」(2026年2月13日)
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 3. 急性期・高度急性期入院医療」
厚生労働省「救急医療体制の現状と課題について」
自社実績:100病院を超える救急改善支援、応需率60%台→90%超への改善事例多数
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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