更新日:
2026/5/28

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※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省の一次情報(医科点数表A205/別表第七の三/令和8年告示および令和8年3月公示の診療報酬改定資料)をもとに作成しています。
夜間1人当直でも応需率を維持している病院には、5つの共通点があります。
症候ベースの応需基準:診療科ではなく症状と重症度で受入可否を判断する
マニュアル7〜8割運用:完成度を待たず、走りながら月次で改訂する
固定シフト設計:同じ非常勤医が複数回入り、習熟度を担保する
3層構造:ルール層・行動誘導層・可視化評価層で医師1人を支える
出口設計:転院・下り搬送まで含めた地域連携で「Output」を整える
最も重要なのは、「医師を増やす」ではなく「医師1人で判断できる仕組みを設計する」という発想転換です。260床規模の2次救急病院では、外部医師1名による当直+上限ルールで、応需率が60%台から90%以上に改善した実装事例があります。
「夜間の当直医は1人。それでも救急車を断らない体制を、どう設計するか」──医師の働き方改革(A水準・B水準)が施行された2024年4月以降、多くの2次救急病院でこの問いが経営課題として表面化しています。救急搬送は年間771万件を超え過去最多を更新するなか、応需率を維持しながら医師の負荷を抑えるには、宿日直許可・タスクシフト・医師偏在対策を含めた構造的な運用設計が求められます。本記事では、夜間1人当直で質の高い救急対応を維持するための医師シフト・運用設計について、現場で機能している5つの設計原則と実装事例を整理します。
夜間1人当直とは、深夜帯の救急外来を医師1名が初療担当として運用する体制を指します。 中小規模の2次救急病院で多く採用されており、医師の働き方改革による連続勤務時間制限(28時間)や勤務間インターバル(9時間)の確保と両立させるには、シフト設計と判断ロジックの両面で構造的な再設計が求められます。
結論:救急搬送は年間771万件と過去最多を更新する一方、医師の労働時間は年960時間に上限化され、夜間1人当直は需要増と供給制約の二重圧力にさらされています。
消防庁の発表によると、令和6年中の救急自動車による救急出動件数は771万7,000件(速報値)で、過去最多を更新しました(出典:消防庁『令和6年中の救急出動件数等(速報値)』)。搬送人員も676万5,000人で、国民の約18人に1人が救急搬送される計算です。
一方、医師の働き方改革(2024年4月施行)により、A水準の医療機関では医師の時間外・休日労働時間が年960時間/月100時間未満に上限化されました。地域医療確保のためにやむを得ず長時間労働となる連携B・B水準でも年1,860時間が上限です(出典:厚生労働省「医師の働き方改革」)。
夜間帯の応需率は日中より明確に下がる傾向があり、その差は5〜10ポイントに及ぶ現場が少なくありません。
指標 | 値 | 出典 |
|---|---|---|
令和6年 救急自動車による出動件数 | 771万7,000件(過去最多) | 消防庁速報値 |
同 搬送人員 | 676万5,000人 | 消防庁速報値 |
医師の時間外労働上限(A水準) | 年960時間/月100時間未満 | 厚生労働省 |
同(連携B・B水準) | 年1,860時間 | 厚生労働省 |
連続勤務時間制限 | 28時間 | 厚生労働省 |
勤務間インターバル | 9時間 | 厚生労働省 |
結論:応需率低下の根本要因は、人員不足ではなく「判断構造の属人化」にあります。 不応需が増える構造は次の3要因に分解できます。
「専門外だから断る」が出る病院は、応需可否を診療科で判断しているケースが大半です。1人当直医が自分の専門外症例に直面したとき、「専門科のバックアップがない=断るしかない」という結論に直結してしまいます。
応需基準・入院基準が言語化されていない病院では、「あの先生の日は受けてくれる/受けてくれない」という揺れが救急隊側にも伝わり、要請パターンそのものが医師依存になります。救急隊の口コミは、実は応需率に大きな影響を与えています。
受けた後の入院判断や他科コンサルトに詰まると「なんでこんな患者を受けたのか」と問われる──その心理的圧力が、初動の応需判断を萎縮させます。看護師との合意形成ができていない病院では、夜勤看護師側からの受け入れ抑制圧力も生じます。
ある救急専門医は、応需をためらわせる要因を「専門外・キャパシティ超過・病床なし・複雑背景患者・院内からの圧力」の5つに整理しており、特に最後の「院内からの圧力」は経営層の方針明示で大きく解消できる領域です。応需率を組織文化のレベルから改善する方法は、救急応需率を改善する5つの組織戦略で体系的に整理しています。
結論:夜間1人当直で質を維持している病院には、運用設計に5つの共通点があります。
診療科で線を引くのではなく、症候・重症度で受け入れ可否を定義します。たとえばグレーゾーンの代表例である消化管出血では、Glasgow-Blatchford Score(GBS)を用いれば内視鏡の緊急性を救急隊情報の段階である程度判断できます。
頭痛のRed flag sign「SNOOP」(全身症状/基礎疾患/神経症状/雷鳴頭痛/40歳以降初発/パターン変化)に該当しなければ、CT読影への自信を理由に断る必要はありません。小児頭部外傷ではPECARN基準、成人ではCanadian CT Head RuleでCT適応を体系的に判断できます。「設備がないから断る」ではなく「判断基準があるから受けられる」への転換が、症候ベース化の本質です。
完成度を待っていてはいつまでも運用に乗りません。応需基準・入院基準・症候別フロー図・同時搬送時の優先判断ルールを骨子として書き、運用しながら月次で改訂する設計が、複数の医療機関で再現性高く機能しています。
最終承認者を救急科部長と院長など複数で固定し、改訂サイクルを月1回の救急運営委員会に組み込むことが、属人化を防ぐ仕組みになります。マニュアルやトリアージ・プロトコルの具体的な設計手順は、救急受け入れ体制を強化する実務マニュアル──トリアージ・プロトコル・院内ルールの設計図で詳しく解説しています。
非常勤医の活用は、単発のスポット穴埋めでは機能しません。シフトの組み方の典型例は次の通りです。
平日夜間:常勤医のローテーション(働き方改革のA水準内に収まる頻度)
輪番日(例:週2日):固定の非常勤救急専門医1名が継続的に担当
土日24時間:宿直と日直に分割し、慣れてから単一医師の24時間担当へ移行
初回勤務前:事務方によるオリエンテーション(電子カルテ・院内ルール・連絡網の説明)を定型化
同じ医師が複数回入る固定設計にすることで、マニュアル運用の習熟度が上がり、看護師との連携も安定します。非常勤医・外部医師の活用を経営判断として検討する際は、夜間当直の救急対応に強い非常勤医師の採用支援サービスとは|3類型と選定5観点を解説もあわせてご覧ください。
夜間1人当直で質を維持している病院は、医師1人にすべてを背負わせていません。
第1層・ルール層:応需基準・入院基準マニュアル、症候別フロー図
第2層・行動誘導層:受入・入院のインセンティブ設計、不当応需拒否を抑制する仕組み、看護師・救急救命士へのタスクシフト
第3層・可視化評価層:医師別応需率の見える化、相互評価、月次の救急運営委員会レビュー
この3層構造があってはじめて、「1人で判断する」が「1人で抱え込まない」に変わります。
救急ケアシステムは「来院(Input)・診断と方針決定(Throughput)・退出(Output)」の3つに分かれます。多くの病院で実際のボトルネックは「出口」にあり、入院病床への移動待ち・転院先未確保・家族不在などで救急外来に患者が長期滞在することで、次の要請を断る構造が生まれます。下り搬送先の固定化・地域連携施設との双方向の約束・転院搬送の標準化を整えることが、応需率向上の根本解決策になります。
再現条件:常勤医の高齢化(40〜60代)/輪番日(週2日)の応需が課題/病棟・救急外来の混雑が深刻
施策:外部の若手救急専門医を輪番日の当直に導入。従来の2名体制から外部医師1名体制へ移行。同時に「ベッドが8割充足したら近隣・かかりつけ患者に限定」という受入上限ルールを設計
変化:輪番日の救急応需率と病床稼働率がともに改善しました。
指標 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
輪番日の救急応需率 | 60%台 | 90%以上 |
病床稼働率 | 停滞 | 約9割で安定 |
当直体制 | 常勤医2名 | 外部医師1名 |
救急隊からの認知 | 「断ることもある病院」 | 「断らない病院」 |
院長は「救急車が複数台並ぶ状況でも、1人でスムーズに対応してもらえるため、安心して任せられる」と述べています。重要なのは「医師を増やす」ことではなく、「医師1人で判断できる仕組み」を設計したことです。
再現条件:救急専門医(副院長)の着任が起点/100床未満の小規模/コロナ禍で救急搬送数が半減
施策:①「断らない宣言」を院内・救急隊に継続発信(信頼構築に3〜4ヶ月)/②曜日ごとに1名がファーストタッチを担当する制度/③毎朝の日報で断り理由を全員で振り返る/④診療看護師(NP)採用でタスクシフト
変化:救急搬送の受入数が回復し、院内の対応文化も転換しました。
指標 | コロナ前 | コロナ禍 | 改革後(2年) |
|---|---|---|---|
救急搬送受入 | 数千台規模 | 半減 | コロナ前比約1.9倍 |
ファーストタッチ | 各科対応で院内たらい回し | 同左 | 曜日ごと1名担当で解消 |
文化 | 「断ることに慣れた空気」 | 同左 | 「受け入れる文化」 |
同院の副院長は「自分が折れないことが一番大事。自分が折れるとチーム全体が傾く」と語っています。さらに、同副院長の手法を導入した支援先病院でも、年間800台規模から3,000台規模(約4倍)への伸びが観察されており、経営層の覚悟と組織の仕組みは再現性のある方法論であることが示されています。
結論:取り組み順は「現状把握→応需基準の言語化→シフト設計→行動誘導→可視化と評価」の5ステップです。
ステップ | チェック項目 |
|---|---|
1. 現状把握 | 全体応需率と夜間帯応需率の差を把握しているか/不応需理由をカテゴリ別に集計しているか |
2. 応需基準の言語化 | 応需基準は「症候ベース」で書かれているか/同時搬送時の優先判断ルールが文書化されているか |
3. シフト設計 | 非常勤医の固定シフト設計があるか/オリエンテーションが定型化されているか/宿日直許可と整合しているか |
4. 行動誘導の設計 | 不当応需拒否を抑制する仕組みがあるか/タスクシフト(看護師・救急救命士)が進んでいるか |
5. 可視化と評価 | 医師別応需率の可視化/月次の救急運営委員会/救急隊との情報共有 |
特に経営判断として重い論点は、地域医療体制確保加算や急性期入院料に関わる救急搬送実績の確保です。2026年度(令和8年度)診療報酬改定では、地域医療体制確保加算(医科点数表A205)が従来の加算と新設の加算2に再編され、医師の働き方改革と診療科偏在対策に取り組む医療機関への評価が一層強化されました(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(令和8年厚生労働省告示第69号))。
同加算は「医師労働時間短縮計画」に基づく取り組みが要件とされており、「応需率を上げる」と「医師の働き方改革と両立させる」という二重要件を満たす運用設計が、上位加算の取得・維持には不可欠です。なお、当直医の確保そのものに課題を抱える病院では、医師働き方改革後の救急当直、6院の運用モデル【2026年】も参考になります。また、医師偏在対策の文脈でも、外部医師を活用した非常勤シフト設計は地方・少数区域の病院にとって現実的な選択肢になっています。
夜間1人当直で質の高い救急対応を維持するためのポイントは、次の3点に整理されます。
応需基準を「症候ベース」で言語化する:診療科ベースの応需判断をやめ、症候別フロー図とRed flagチェックリストに置き換えることで、1人当直医が自分の専門外症例にも対応できるようになります。
マニュアル+シフト+3層構造をセットで設計する:マニュアル単体では機能しません。固定シフトによる習熟度向上、行動誘導の設計、可視化と月次レビューの3層構造があってはじめて持続します。
「出口」まで設計する:救急ケアシステムのボトルネックは入口ではなく出口にあります。下り搬送・転院連携を含めた地域全体の役割分担まで設計範囲を広げることが、応需率の根本解決策になります。
医師を増やせば救急が伸びる、という方程式はもはや成立しません。人員ではなく設計で解く─夜間1人当直の質維持は、経営層と現場が「設計図」を共有できるかどうかにかかっています。
結論:応需基準を「症候ベース」で書き直すことから始めるのが最も効果的です。
診療科ベースの応需判断を症候別フロー図に置き換えるだけで、「専門外だから断る」というパターンの多くが解消できます。同時に不応需理由をカテゴリ別に集計し、月次の救急運営委員会で振り返るサイクルを作ることが、改善の土台になります。実装事例から見える一つの目安としては、輪番日で90%以上、夜間帯全体で日中との差5ポイント以内に収まる病院が、応需率改善の上位水準にあるといえます。
結論:応需基準を症候ベースに転換し、症候別のRed flagチェックリストを導入することが有効です。
たとえば消化管出血ではGlasgow-Blatchford Score、頭痛では「SNOOP」というRed flag checklistを判断基準として導入することで、内視鏡や脳外科専門医が不在の夜間帯でも、安全に初療を引き受けられる症例が大幅に増えます。「設備がないから断る」を「判断基準があるから受けられる」に転換するイメージです。他科コンサルトを呼ぶ閾値の明文化も同時に進めると、当直医の心理的負担も大きく軽減されます。
結論:宿日直許可の運用要件を満たした上で、非常勤医による固定シフトを組み合わせる設計は、医師の働き方改革と整合可能です。
宿日直許可の運用要件(医療行為の範囲・休息確保)を満たした上で、非常勤医師による固定シフトを組み合わせる運用が、複数の医療機関で実装されています。常勤医の連続勤務時間制限(28時間)・勤務間インターバル(9時間)と、加算の施設基準の両立を意識した設計が前提となります(出典:厚生労働省「医師の働き方改革」)。宿日直許可が取得できない場合の選択肢は、「宿日直許可が取れない」でも病院を守る──働き方改革の罰則期に入った病院経営の選択肢で詳しく扱っています。
結論:マニュアルで「受ける/受けない」の根拠を明文化し、受入目標を看護師と共有することが第一歩です。
応需可否を医師個人の判断ではなく病院のルールとして示すことで、夜勤看護師との合意形成の土台ができます。さらに「受け入れる日」の1日あたり受入台数の目標を看護師と共有することで、「負担がかかる日」が「達成すべき目標がある日」に変わるという意識転換も観察されています。看護師主導の初動対応プロトコル(トリアージ・採血等の標準手順)の整備も、医師1人での対応を支える重要な要素です。
結論:非常勤医のみでの運用は可能ですが、救急専門医の関与は質の担保に大きく寄与します。
実際の現場では、輪番日に非常勤の救急専門医1名が常勤医2名分の応需をカバーする事例があります。救急専門医は全国で約6,300人の登録があり(実働数はさらに少ない)、救急告示病院は全国約4,000施設に上るため、すべての病院が救急専門医を常勤確保することは構造的に困難です。重要なのは「常勤か非常勤か」ではなく、「症候ベースのマニュアル・固定シフト・3層構造」を運用できる医師が継続的に配置されているかどうかです。
結論:救急搬送実績の確保と、医師労働時間短縮計画の運用という二つの要件を同時に満たす運用設計が優先課題です。
常勤医のみで両立させるのは構造的に困難なため、非常勤医による夜間枠補完と、応需基準のマニュアル化による「断らない仕組み」をセットで設計することが現実解になります。応需率改善が結果として救急搬送実績の確保につながり、常勤医の時間外労働の構造的削減も同時に進むため、加算の取得・維持と医師の働き方改革は両立可能な構造になっています。
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執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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