更新日:
2026/5/26

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「医薬品・水道光熱費が毎月のように値上がりしている」「常勤医を採用しても、ミスマッチで早期離職してしまう」「次回の改定でさらに厳しい評価軸が入るらしい」——コスト高騰と政策誘導の両方に挟まれた病院経営者・事務長から、こうした悩みを聞く機会が増えているのではないでしょうか。
2026年4月28日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会の資料では、社会保障費の抑制と「ワイズスペンディング(賢い支出)」の徹底が、改めて強く打ち出されました。マクロの政策誘導は、診療報酬改定を通じて確実に個々の病院経営にも波及します。
本記事では、ワイズスペンディングの政策方向性が病院経営にもたらす影響を整理したうえで、固定費中心の人件費構造をいかに「変動費化」し、収益部門である救急の体制を維持しながらコスト最適化を実現するか、その経営判断の枠組みを公的データと現場事例から提示します。
論点 | 結論 |
|---|---|
マクロ環境 | 2026年4月28日財政審で「社会保障費の伸びを高齢化増分の範囲に抑える」方針を継続。診療報酬による政策誘導はさらに厳格化 |
病院経営の実態 | 2024年度の医業赤字病院は74.6%、経常赤字病院は65.0%(四病協「2025年度病院経営定期調査」最終報告) |
人件費の課題 | 病院支出の最大費目である人件費の「硬直化」が、変化対応力を奪う構造リスクに |
収益部門の鍵 | 救急部門は応需率改善で年間数千万〜億円単位の増収余地。同時に医師負担も最大 |
打ち手の本質 | 「常勤医を増やす」一択ではなく、外部人材を変動費として活用する選択肢を経営ポートフォリオに組み込む |
ワイズスペンディングの実装 | 採用ミスマッチコスト・再採用コスト・過剰超過勤務手当を圧縮し、収益機会の取りこぼしを防ぐ「賢い投資」へ |

引用:財務省「2026年4月17日 財政制度等審議会 財政制度分科会 財政総論 資料1」
病院経営が厳しさを増している最大の要因は、コストの上昇に診療報酬の伸びが追いついていないという構造的なギャップです。
四病院団体協議会(四病協)が公表した2025年度病院経営定期調査(最終報告・2024年度実績)(2025年11月26日公表)では、2024年度の医業赤字病院の割合は74.6%、経常赤字病院は65.0%に達しました。2024年度の100床あたり医業利益は▲18,043万円、経常利益は▲8,102万円であり、いずれも前年度より赤字幅が拡大しています。
さらに、2025年11月26日に中医協で公表された第25回医療経済実態調査の機能別分析(健康保険組合連合会の見解)では、機能別の赤字病院割合に明確な差がみられました。回復期は40.0%、慢性期は56.3%、高度急性期は75.0%、急性期A(看護配置7対1相当)は77.8%、急性期B(看護配置10対1相当)は73.0%が赤字という結果で、医療提供の中核を担う急性期病院群ほど経営が苦しい状況が浮き彫りになっています。
同調査では、医薬品費・水道光熱費・委託費といったコスト項目の上昇も明確に確認されています。一般的な企業であればコスト上昇分を価格転嫁できますが、公定価格である診療報酬に依存する病院では、それができません。
さらに2026年度診療報酬改定(2026年6月1日施行予定)における本体プラス改定は限定的で、薬価マイナス改定と合わせれば実質的にネット改定率は厳しい水準にとどまっています。これからの病院経営は、「経費削減」と「トップライン向上」という相反する二つの課題を同時に解く設計力が問われる局面に入っていると言えるのではないでしょうか。

引用:財務省「2026年4月17日 財政制度等審議会 財政制度分科会 財政総論 資料1」
2026年4月28日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会では、「持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)」と題する資料が公表されました。
その骨子は明確です。社会保障負担率の引き下げを通じて現役世代の可処分所得を改善するため、医療・介護を中心とした社会保障制度改革を着実に推進する——つまり、社会保障費の伸びを高齢化による増加分に相当する範囲に抑える方針が、骨太方針2025を経て今後も継続される、という強いメッセージです。
ここで繰り返し用いられるキーワードが「ワイズスペンディング(賢い支出)」です。
ワイズスペンディングとは 限られた予算・財源を、効果的・効率的な分野に重点的に配分すること。EBPM(証拠に基づく政策立案)を前提に、支出の費用対効果を可視化・検証し、改善を続ける考え方を指します。
つまり、国は「医療費を一律削減する」のではなく、「成果を出している医療機関に集中投資する」方向に舵を切っています。2026年度改定で新設された急性期総合体制加算(総合入院体制加算と急性期充実体制加算を統合)や、重症度・医療・看護必要度における「救急患者応需係数」、DPC機能評価係数Ⅱの見直しなどは、いずれも「成果(救急受入・在院日数短縮・地域での役割)に応じた評価」という政策誘導の現れです。
国がマクロ視点でワイズスペンディングを求める以上、その波はミクロの病院経営にも波及します。今後、個々の病院は以下3つの厳しい問いに答えていく必要があります。
2026年度改定は、これまで以上に「成果評価型」の加算と「結果が出ない場合の減算」を組み合わせた構造になっています。たとえば外来における大病院での「直近1年以内に12回以上再診を行った患者」の減算対象化、紹介率・逆紹介率の厳格化、DPC入院期間Ⅱの算定基準見直し(変動係数0.6未満の疾患群で平均値から中央値への移行)など、効率的な運営ができない病院ほど収益機会を失う設計が随所に組み込まれました。
「ワイズスペンディング」というマクロ指針は、個別の医療機関にも「自院は財政資源を効果的に使えているか」という問いを突きつけていると言えるのではないでしょうか。

引用:財務省「2026年4月17日 財政制度等審議会 財政制度分科会 財政総論 資料1」
病院支出の最大費目は、人件費です。固定費の代表格である常勤医の人件費は、診療報酬の変動や患者動態の変化があっても、簡単に動かせません。
ここで起きやすいのが、次のような悪循環です。
採用ミスマッチコスト:常勤医の枠を埋めるためだけに採用し、現場と合わずに早期離職するケースが頻発する。紹介手数料(年収の20〜30%が相場)が無駄になる
再採用コスト:早期離職するたびに、また同じ紹介手数料が発生する。同じポジションで2回・3回と循環すれば、人件費はさらに膨らむ
超過勤務手当の膨張:採用が決まらない期間、限られた常勤医に当直負担が集中し、超過勤務手当が経営を圧迫する
離職連鎖:負荷集中による疲弊が、さらなる離職を生む
このような固定費中心の硬直化した組織構造では、急激な外部環境変化(コスト高騰・改定・地域人口動態の変化)に耐えられなくなります。
人手不足で救急車を受け入れられない、夜間の救急応需率が低い、専門外を理由に断ってしまう——これらはすべて、救急医療管理加算や救急補正係数といった収益機会の取りこぼしに直結します。
中医協が指摘している通り、「救急対応に積極的な病院ほど経営が厳しい」という逆説的な現実があります。しかし2026年度改定では、この構造に対して「救急に取り組む病院に確実に報いる」加算群が新設・拡充されました。つまり、いま救急体制を強化できるかどうかが、改定後の収益格差を決める分岐点になりつつあります。
では、固定費中心の人件費構造をどう組み替えればよいのでしょうか。
ここで有効になるのが、「常勤医を増やす」一択から「外部の質の高い医師を必要なシフトに変動費で配置する」選択肢を持つ、というポートフォリオ転換です。
採用・労務コストの圧縮:紹介手数料の重複発生やミスマッチ離職を回避できる。再採用コストを未然に防げる
質の高い救急対応の維持:救急対応の経験豊富な医師を、応需率が落ちやすい時間帯(夜間・休日)にピンポイントで配置できる。常勤医の負担を軽減し、離職連鎖を止められる
収益機会の確実な獲得:救急受入が安定すれば、救急医療管理加算・救急補正係数・入院収益が積み上がる。応需率の改善は救急部門単体ではなく、病床稼働率・DPC収益まで波及する
九州地方のある民間病院では、救急対応に強い外部医師を導入したことで、応需率が改善し、初年度で年間約3,600万円の増収を達成しました。同院の事務長は「初期費用や月額の利用料は、最初は高く感じた。しかし採用手数料の重複発生や常勤医の超過勤務手当を考えれば、明らかに合理的な投資だった」と振り返ります。
関東地方の中規模病院(262床・2次救急)でも、輪番日の応需率を60%台から90%超に改善し、病床稼働率を約9割で安定化させた事例があります。同院の取り組みは、外部医師の活用と並行して救急運営委員会を月次PDCAエンジンとして機能させ、データに基づいて受入ルールを更新した点に特徴があります。
これらの事例は、「外部人材活用」が単なる外注費の増加ではなく、収益とコストを同時に改善する『賢い投資』として機能したことを示しているのではないでしょうか。
ワイズスペンディングの考え方を自院で実装するには、次の4ステップで現状を点検することが有効です。
ステップ | 点検項目 | 判断基準 |
|---|---|---|
① 現状コストの可視化 | 紹介手数料・超過勤務手当・空ベッドコストを月次で把握しているか | 過去2年分の推移を経営会議で共有 |
② 機会損失の定量化 | 救急応需率1ポイントの収益価値・救急車1台あたりの利益を算出しているか | 自院の応需率改善余地を試算 |
③ 投資判断の比較設計 | 「常勤医採用」と「外部人材活用」を同一スケールで比較しているか | 単年コストではなく3年累計で比較 |
④ 撤退条件の明文化 | 効果が出ない場合の見直しタイミングを契約段階で設計しているか | 半年・1年での効果検証 |
特に重要なのは、「常勤医採用」と「外部人材活用」を同じ評価軸で並べて比較するという設計です。多くの病院では、常勤医採用は「当然の選択肢」、外部人材活用は「特別な外注」として別枠で議論されがちです。しかしワイズスペンディングの観点からは、両者は「救急体制を維持・強化するための投資オプション」として同じテーブルに並べるべきです。
以下のうち3つ以上当てはまる場合、人件費構造の見直し検討余地が大きい可能性があります。
確認項目 | チェック |
|---|---|
直近2年で常勤医の早期離職(採用1年以内)が複数件発生している | ◻︎ |
紹介会社経由の採用で同じポジションを2回以上募集している | ◻︎ |
救急応需率が80%を下回っている、または夜間応需率と日勤帯応需率に大きな差がある | ◻︎ |
救急医療管理加算の算定漏れや、救急補正係数の改善余地を把握できていない | ◻︎ |
常勤医の超過勤務手当が年々増加している | ◻︎ |
「外部人材活用」を経営会議の正式議題として比較検討したことがない | ◻︎ |
社会保障費の増大とコスト高騰という厳しい逆風の中、旧来の「常勤医による固定費中心の体制」だけに依存する病院経営は、もはや持続可能とは言えない局面に入っています。
財政審が示すワイズスペンディングの方向性は、個々の病院経営にも同じ問いを投げかけます。「自院の人件費は、効果的・効率的に使えているか」「収益機会の取りこぼしは、いま把握できているか」——この2つに自信を持って答えられる病院だけが、改定の波を超えて生き残るのではないでしょうか。
本記事の論点は、以下3点に集約されます。
マクロの政策誘導は「成果評価型」へ確実にシフトしている:効率的に運営できない病院ほど収益機会を失う構造に
人件費の硬直化が最大のリスク:採用ミスマッチ・再採用・超過勤務手当の悪循環を断ち切る必要がある
救急部門の「変動費化」は賢い投資:外部人材活用はコスト圧縮と収益確保を同時に実現する経営判断のオプション
救急部門の収益改善や、採用・労務コストの最適化に関心をお持ちの経営層・事務長の方は、「ドクターズプライムワーク」の活用を検討してみてはいかがでしょうか。「救急を断らない医師」の紹介と、救急データ分析による運用改善の両面から、救急体制の再設計を支援しています。本記事で触れた九州地方の民間病院(180床規模・年間3,600万円増収)や関東地方の中規模病院(応需率60%台→90%超)の事例も、同サービスの活用により実現しています。
病院経営の黒字化に向けた全体像については、関連記事「病院経営を黒字化する3つの起点──病床稼働率・救急応需率・DPC収益の連鎖を設計する」もあわせてご覧ください。当直医確保の具体策については「救急当直医の確保が難しい病院がやるべき3つの経営判断」、医師紹介会社の手数料構造については「「医師紹介会社の手数料は高い」の正体」で詳しく解説しています。
【参照一次情報】
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」(個別改定項目・医科点数表)
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について(告示・通知)」(2026年3月5日告示)
中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査の概要」(2025年11月26日公表)
健康保険組合連合会「第25回医療経済実態調査の結果に対する見解」(2025年12月3日)
四病院団体協議会「2025年度病院経営定期調査(最終報告・2024年度実績)」(2025年11月26日公表)
内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)」(2025年6月13日閣議決定)
中央社会保険医療協議会「令和8年度診療報酬改定 答申」(2026年2月13日)
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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