更新日:
2026/7/23

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2026年度診療報酬改定は本体+3.09%と大幅なプラス改定でした。それでも「経営が楽になった」という声はほとんど聞こえてきません。医薬品も水道光熱費も上がり続け、常勤医を採用してもミスマッチで早期離職してしまう——。本記事では、財政審が掲げる「ワイズスペンディング(賢い支出)」の意味を一次情報に即して整理し、人件費構造を救急部門で「変動費化」する経営判断の枠組みを解説します。
大幅プラス改定でも余力は生まれない:本体+3.09%のうち賃上げ対応が+1.70%、物価対応が+0.76%。増収分は使途が実質的に定まっています。
ワイズスペンディングは「一律削減」ではなく「重点配分」:成果を出す医療機関に資源を寄せる方向であり、削減一辺倒ではありません。
最大のリスクは人件費の硬直化:賃上げ原資は翌年度以降も固定費として残ります。増収は一過性、コスト増は恒久的という非対称が生じます。
打ち手は救急部門の“変動費化”:常勤医一択から、外部人材を変動費として組み合わせるポートフォリオへ。ある180床規模の病院では年間約3,600万円の増収につながりました。
※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、一次情報(財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会「持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)」、内閣府 経済財政諮問会議「経済財政運営と改革の基本方針2026(原案)」、厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について(全体概要版)」ほか)をもとに作成しています。本記事が解説するのは、「ワイズスペンディングという政策方向を正確に読み解き、救急部門の変動費化でコストと収益を同時に最適化する経営判断」です。
※本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。骨太方針2026は同時点で閣議決定に至っておらず、確定した内容は追って反映・更新します。
まず、いま病院が置かれている状況を数字で確認します。
医業赤字74.6% / 経常赤字65.0%(2024年度)。経常赤字病院の割合は前年度の52.1%から12.9ポイント増(四病院団体協議会「2025年度病院経営定期調査」最終報告)
急性期ほど苦しい:赤字病院の割合は回復期40.0%、慢性期56.3%に対し、高度急性期75.0%、急性期A 77.8%、急性期B 73.0%(健康保険組合連合会の見解、2025年12月3日)
ここで重要なのは、2026年度改定が決して渋い改定ではなかったという事実です。本体改定率は+3.09%(令和8・9年度の2年度平均)。令和6年度の+0.88%、令和4年度の+0.43%を大きく上回ります。
にもかかわらず経営が楽にならない理由は、内訳にあります。
改定率の内訳 | 割合 | 使途 |
|---|---|---|
賃上げ対応 | +1.70% | 医療従事者のベア3.2%(看護補助者・事務職員は5.7%)の実現 |
物価対応 | +0.76% | 上昇したコストの穴埋め |
その他・効率化等 | +0.63% | 食費・光熱水費、緊急対応分ほか |
増収分の大半は、あらかじめ使途が定まっています。大幅プラス改定は「損失の穴を塞ぐ」ものであって、「余力を生む」ものではない——これが2026年度改定の本質だと考えられます。だからこそ、改定に頼らない自院の設計力が問われる局面に入っていると言えるのではないでしょうか。
ワイズスペンディングとは 限られた予算・財源を、効果的・効率的な分野に重点配分する考え方です。EBPM(証拠に基づく政策立案)を前提に、支出の費用対効果を可視化・検証し、改善を続けることを指します。要点は「一律削減」ではなく「成果を出している医療機関に集中投資する」方向にあります。
2026年4月28日の財政制度等審議会 財政制度分科会で公表された「持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)」は、この考え方を医療分野で具体的に展開しました。
小規模で分散した病院の集約・再編による入院機能の強化
「量の競争」から「質の競争」を促す評価体系への転換
アウトカム評価と包括払いの一体的な推進
医療DX・AIによる生産性向上
いずれも「効率的に成果を出す医療機関を厚く評価する」という一貫した思想に貫かれています。
この財政サイドの主張は、政府方針と2026年度改定に、次のように分かれて現れています。
「選別」の実体は、病床適正化と再編・集約化です。 骨太方針2026の原案は、2040年に向けて病床数の適正化を着実に実施した上で、2027年度以降の地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進する、としています。供給体制そのものを絞り込み、機能を集約していく流れです。
「実績評価」の実体は、すでに施行された2026年度改定にあります。 同改定では、重症度・医療・看護必要度の該当患者割合に「救急患者応需係数」を加えた指数で評価する仕組みが導入されました。係数は「病床当たり年間救急搬送受入件数×0.005(上限10%)」で算出されます。救急搬送の受入実績が、入院基本料という収益の土台に直結する構造になったということです。
なお、骨太方針2026原案に登場する診療報酬の「加減算」は、物価・経済が改定時の見通しから大きく変動した場合に改定率をマクロで調整する仕組みであり、病院ごとの成績による選別ではありません。この点は誤読されやすいため、骨太方針2026の救急視点解説で詳しく整理しています。
以上を踏まえると、病院経営には2つのリスクが同時にのしかかります。
人件費の硬直化:賃上げ原資はベースアップとして翌年度以降も残ります。加えて採用ミスマッチコスト(紹介手数料は年収の20〜30%が相場)、再採用コスト、超過勤務手当の膨張、負荷集中による離職連鎖という悪循環に陥りやすくなります。
収益機会の取りこぼし:救急を断ることは、救急医療管理加算や救急補正係数の取りこぼしにとどまらず、救急患者応需係数を通じて入院基本料の維持そのものに影響します。
この2つを同時に解く打ち手が、「常勤医を増やす」一択から「外部の質の高い医師を必要なシフトに変動費で配置する」選択肢を経営ポートフォリオに加えること、すなわち“変動費化”です。効果は次の3点に整理できます。
採用・労務コストの圧縮:紹介手数料の重複発生やミスマッチ離職を回避し、再採用コストを未然に防ぐ
質の高い救急対応の維持:応需率が落ちやすい夜間・休日に経験豊富な医師を配置し、常勤医の負担を軽減する
収益機会の確実な獲得:救急受入が安定すれば応需率→入院率→稼働率→DPC収益のKPI連鎖に波及し、入院料の維持にも効く
救急対応に強い外部医師を導入したことで応需率が改善し、初年度で年間約3,600万円の増収を達成しました。同院の事務長は「初期費用や月額の利用料は、最初は高く感じた。しかし採用手数料の重複発生や常勤医の超過勤務手当を考えれば、明らかに合理的な投資だった」と振り返ります。
外部人材の活用が、単なる外注費の増加ではなく、コストと収益を同時に改善する“賢い投資”として機能した事例と言えます。
比較項目 | 従来(固定費中心) | これから(変動費化) |
|---|---|---|
医師確保の発想 | 常勤医採用の一択 | 常勤医+外部人材のポートフォリオ |
コストの性質 | 固定費(動かしにくい) | 固定費+変動費(需要に合わせ調整可) |
採用ミスマッチ時 | 紹介手数料が重複発生 | 変動費部分で吸収・回避しやすい |
夜間・休日の応需 | 常勤医への負荷集中 | 落ちやすい時間帯にピンポイント配置 |
改定への耐性 | 救急実績が伸びず入院料の維持が不安定 | 応需実績を積み上げ上位入院料を狙える |
変動費化は「コストを増やす」施策ではありません。“見えにくい固定費”を圧縮しながら、救急実績を積み上げる二正面の打ち手になります。手段の違いは救急応需率を改善する3つの手段もあわせてご確認ください。
現状コストの可視化:紹介手数料・超過勤務手当・空ベッドコストを月次で把握し、過去2年分の推移を経営会議で共有する
機会損失の定量化:救急応需率1ポイントの収益価値と、自院の救急患者応需係数(病床当たり年間救急搬送受入件数×0.005)を算出する
投資判断の比較設計:「常勤医採用」と「外部人材活用」を単年ではなく3年累計の同一スケールで比較する
撤退条件の明文化:効果が出ない場合の見直し時期を契約段階で設計し、半年・1年で検証する
特に重要なのはステップ③です。多くの病院では常勤医採用を「当然の選択肢」、外部人材活用を「特別な外注」として別枠で議論しがちです。しかし両者は「救急体制を維持・強化するための投資オプション」として、同じテーブルに並べるべきものと考えられます。
3つ以上当てはまる場合、人件費構造の見直しを検討する余地が大きい可能性があります。
⬜︎ 直近2年で常勤医の早期離職(採用1年以内)が複数件発生している
⬜︎ 紹介会社経由の採用で、同じポジションを2回以上募集している
⬜︎ 救急応需率が80%を下回る、または夜間と日勤帯の応需率に大きな差がある
⬜︎ 自院の救急患者応需係数を算出しておらず、入院料の要件への影響を把握できていない
⬜︎ 常勤医の超過勤務手当が年々増加している
⬜︎ 「外部人材活用」を経営会議の正式議題として比較検討したことがない
Q1. ワイズスペンディングとは何ですか。
限られた予算・財源を、効果的・効率的な分野に重点配分する考え方です。EBPMを前提に費用対効果を検証し続けます。国は医療費を一律に削減するのではなく、成果を出す医療機関へ集中投資する方向にあり、2026年度改定でも救急患者応需係数(病床当たり年間救急搬送受入件数×0.005、上限10%)など実績連動の仕組みが導入されています。
Q2. 2026年度改定は大幅プラスなのに、なぜ経営が改善しないのですか。
本体+3.09%(令和8年度+2.41%、令和9年度+3.77%)のうち、賃上げ対応が+1.70%、物価対応が+0.76%を占めるためです。賃上げ分はベア3.2%の実現に、物価対応分はコスト上昇の穴埋めに充てられ、利益として残る性質ではありません。2024年度時点で急性期A 77.8%が赤字という水準からの出発でもあります。
Q3. 「救急部門の変動費化」とは何ですか。コスト増になりませんか。
救急体制を常勤医という固定費一択ではなく、外部の医師を必要なシフトに変動費として配置する選択肢を加えることです。月額利用料は発生しますが、圧縮できる“見えにくい固定費”がそれを上回るケースがあります。九州地方の180床規模の病院では初年度で年間約3,600万円の増収を実現しました。紹介手数料(年収の20〜30%)の重複発生や超過勤務手当の膨張を回避できれば、3年累計で合理的な投資になり得ます。
Q4. 骨太方針2026の「加減算」で、実績のない病院は減算されるのですか。
原案の記載はそのような趣旨ではありません。経済・物価の動向が2026年度改定時の見通しから大きく変動し経営状況に支障が生じた場合に、令和9年度予算編成過程で加減算を含む調整を行う、というマクロの改定率調整を指します。実績に応じた評価は、2026年度改定の救急患者応需係数としてすでに始まっています。
大幅プラス改定でも余力は生まれない:本体+3.09%の大宗は賃上げと物価対応で、使途が実質的に定まっています
選別と実績評価は別のかたちで進む:選別は病床適正化・再編集約化として、実績評価は2026年度改定の救急実績連動として動いています
救急部門の“変動費化”は賢い投資:コスト圧縮と救急実績の積み上げを同時に実現する経営判断のオプションになり得ます
再編・集約化が具体化するのは2027年度以降です。一方、救急実績が入院料に効く仕組みはすでに動いています。だからこそ、評価の土台となる救急実績を「今」積み始めることが次の一手になるのではないでしょうか。
なお、応需率の可視化や、外部医師を活用した当直・救急体制の設計にお悩みがあれば、ドクターズプライムワークでもご支援できます。自院の状況整理の一助として、必要に応じてご活用ください。
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執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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