更新日:
2026/6/3

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※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省の一次情報(医科点数表A205/別表第七の三/令和8年告示および令和8年3月公示の診療報酬改定資料)をもとに作成しています。本記事の主な対象は、病床規模100〜300床の二次救急告示病院でDPC対象病院/急性期入院基本料を算定する施設の経営層・救急責任者・事務長です。
「救急医療管理料2と地域医療体制確保加算の両方を維持・取得するために、応需率や搬送件数はどの水準を目指せばよいのか」──こうした問いを抱える二次救急病院の経営層は少なくないのではないでしょうか。本記事では、目指すべきKPI水準と、実装が止まる3つの構造課題への対処を整理します。
項目 | 区分 | 水準 | 根拠 |
|---|---|---|---|
救急搬送件数 | 制度上の必須要件 | 年間2,000件以上(特例で1,000件以上) | 地域医療体制確保加算の施設基準 |
救急応需率 | 実務上の運用目安(制度上の基準なし) | 時間帯別に80%以上 | 現場運用上の目標値。制度要件ではない |
救急医療管理加算2「その他の重症な状態」比率 | 制度上の必須要件 | 直近6か月間で5割未満 | 医科点数表A205に基づく半減ペナルティ回避ライン |
救急搬送応需係数(参考) | 制度上の評価指数 | 病床当たり年間救急搬送受入件数 × 0.005 | 重症度、医療・看護必要度の基準患者割合に加算(上限1割) |
出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について【全体概要版】」(令和8年3月10日版)
論点 | 結論 |
|---|---|
両加算は「取得」より「維持」が難しい | 維持を阻む構造課題は①経営層内で目標数値が割れている/②看護部からの「これ以上受けないで」という心理的圧力/③応需率を上げても救急医療管理加算2が伸びない構造(4段階ファネルでのロス)の3つ |
KPI水準を超えた病院が実装している6施策 | ①応需基準のマニュアル化/②救急運営委員会の月次運用/③インセンティブ・ペナルティ設計/④外部医師の活用/⑤救急隊との信頼構築/⑥下り搬送先の確保。単一施策ではなくパッケージで実装することが鍵 |
経営者の最初の一手(5ステップ) | ①現状KPIの時間帯別・診療科別の可視化/②目標水準の社内合意/③阻害要因の特定/④6施策の優先順位付け/⑤費用対効果シミュレーション |
自院診断の出発点 | 「応需率の時間帯別分解」「断り理由の4要因分類(専門外/属人化/物理キャパ/入院率低迷)」「救急医療管理加算1・2の算定比率」の3指標 |
救急医療管理加算とは、緊急に入院が必要な重症患者の受入に対して算定される診療報酬の入院基本料加算です(医科点数表A205)。加算1(1,050点)と加算2(420点)の二段構成で、加算2は「その他の重症な状態」5割以上で点数半減のペナルティが適用されます(2024年度改定)。
地域医療体制確保加算とは、救急体制を支える病院の医師の働き方改革を評価する診療報酬の入院基本料加算です。令和8年告示の改定では加算1(620点)・加算2(720点)の二段構成に再編されました(2026年度診療報酬改定)。
両加算を維持・取得するには、応需率(救急要請に対して受け入れた割合)・搬送件数・入院後の重症度評価の3変数を連動させた経営設計が必要です。
地域医療体制確保加算の年間搬送2,000件は病床規模を問わない制度要件ですが、実務上は病床規模に応じた現実的な目標が異なります。
病床規模 | 目標搬送件数(実務目安) | 目標応需率(実務目安) | 救急搬送応需係数の寄与 |
|---|---|---|---|
100床規模 | 年間1,500件前後 | 70%以上 | 約7.5ポイント |
200床規模 | 年間2,500件前後 | 80%以上 | 約6.3ポイント |
300床規模 | 年間3,500件前後 | 85%以上 | 約5.8ポイント |
※救急搬送応需係数の寄与は「年間救急搬送受入件数 ÷ 病床数 × 0.005」で算出した参考値(重症度、医療・看護必要度の基準患者割合への加算分、上限1割)。
注意点として、搬送件数2,000件以上は地域医療体制確保加算の必須要件であるため、100床規模で1,500件にとどまる場合は周産期母子医療センター等の特例ルートを満たす必要があります。
応需率80%以上・搬送2,000件以上という数値水準は明確ですが、その手前で3つの構造課題が実装を止めています。 公的基準が分かっていても届かないのは、努力不足ではなく構造的な阻害要因が放置されているためです。
100病院超の支援実績から確認できている傾向として、意外に多いのが、経営層内で目標数値が合意できていないケースです。黒字ラインの病床稼働率を80%とするか82%とするか、年間救急搬送目標を1,400件とするか1,500件とするか──こうした基本数値が、院長・理事長・委員長・事務長・医局の間でズレている病院が少なくありません。シミュレーション資料を作っても「委員長判断待ち」「医局との調整待ち」「経営会議の議題化待ち」で意思決定が数ヶ月止まる構造が頻出します。目指すべき水準を語る前に、自院内で目標数値が合意できているかを確認する必要があります。
応需率向上の最大の阻害要因は、医師でも費用でもなく、看護部・看護師からの心理的圧力であるケースが多くあります。救急車1台を受けるごとに、看護師は問診・採血・点滴・記録・付き添いの一連作業を担うため、応需率を上げることは看護師の労働量増加に直結します。看護師の業務負荷は数値化されにくく、経営層に「看護師の疲弊」が伝わりにくいまま応需強化を進めると、夜勤体制の崩壊や離職に直結します。外部から救急看護師と救急救命士の配置を強化した支援先で、応需率が65%から85%に向上した事例もあり、看護師リソースの拡充が応需率向上の前提条件であることを示しています。
応需率を90%まで上げても、救急医療管理加算2の算定が伸びない病院があります。理由は、救急医療管理加算2の算定が、応需率→入院転換率→入院後の重症度評価→算定という4段階のファネルで決まるためです。各段階で5〜20%のロスが発生すると、入口(応需率)を90%にしても出口(管理料2算定)は5割前後まで縮むことがあります。特に「入院患者の重症度不足から救急医療管理料2の算定件数が伸び悩む」という現場の声は支援先でも頻出しており、応需率と入院基準の設計を同時並行で進める必要があります。
KPI水準を超えた病院に共通するのは、単一施策ではなく6つの施策をパッケージで実装している点です。 100病院超の支援実績から見えてきた改善事例には、応需率65%→85%(外部リソース活用)、年間搬送700件→1,000件目標達成(ICU維持目的)、夜間休日応需率74%→80%超への計画(黒字ラインの病床稼働率82%と連動)などがあります。
応需基準・受入基準のマニュアル化:「専門外」「夜間」「酩酊」「頭部外傷」などのグレーゾーン受入ルールを明文化し、医師ごとの属人化を組織化に転換する
救急運営委員会の月次運用:応需率・断り理由を毎月見える化し、改善アクションに繋げる
インセンティブ/ペナルティ設計:受入1件あたり・入院1件あたりのインセンティブと、不当な断りへのマイナスインセンティブを同時設計する
外部医師(応需に積極的な非常勤医)の活用:「専門外でも初期対応する」マインドセットの医師で常勤医の負担を切り分ける
救急隊との信頼構築:医師シフト表の事前共有、患者経過のフィードバック、搬送依頼への応答スピード改善
下り搬送先の確保による出口設計:地域包括ケア病棟への流し込みと、下り搬送先病院との関係構築
これら6施策のうち、自院のボトルネックがどこにあるかを特定し、優先順位をつけて実装することが鍵です。
目指すべきKPI水準への到達は、現状の可視化から始まる5ステップで設計できます。
ステップ | 自院での確認事項 |
Step 1:現状KPIの可視化 | 応需率の時間帯別・曜日別・診療科別の分解/断り理由の分類/救急からの入院率/救急医療管理加算1・2の算定率 |
Step 2:目標水準の社内合意 | 救急搬送年間目標/時間帯別応需率目標/病床稼働率の黒字ラインを経営会議で文書化 |
Step 3:阻害要因の特定 | 専門外断り/属人化/物理キャパ・看護師抵抗/入院率低迷の4要因のうち、自院で最大のボトルネックを特定 |
Step 4:6施策の優先順位付け | ボトルネックから手をつける。複数同時着手は失敗しやすい |
Step 5:費用対効果のシミュレーション | 加算取得による増収と、外部医師費用・体制整備費の天秤を経営層に提示 |
このプロセスを2〜3か月で回し、加算の算定可否判断まで持ち込むのが現実的な進め方です。
両加算を維持・取得するKPI水準は、年間救急搬送2,000件以上(制度要件)・応需率80%以上(実務目安)・救急医療管理加算2の「その他の重症な状態」5割未満(制度要件) の3点を連動させた逆算設計です。ただし、この数値水準は出発点であり、現場で実装が止まる3つの構造課題(経営層内の数値合意不在/看護部の心理的圧力/応需率と算定の連動破綻)への対処なしには到達できません。
経営者の最初の一手は、自院の現状KPIを時間帯別・診療科別に可視化することから始めます。可視化なしには社内合意が形成できず、社内合意なしには施策実装が動かないためです。
A. 制度上の明確な基準はありません。実務目安は時間帯別に80%以上です。 地域医療体制確保加算・救急医療管理加算ともに応需率の数値要件は規定されていません。一方、搬送2,000件以上の維持には実務上80%以上の応需率が必要です。応需率の現在値別の改善余地は救急応需率の「現在値」別・収益改善余地マップに整理しています。
A. 地域医療体制確保加算で年間2,000件以上(特例で1,000件以上)が必要です。 周産期・小児ICU関連の届出がある場合は1,000件以上でも算定可能ですが、原則は2,000件以上です。搬送件数増の経営インパクトは救急応需率1ポイントの経営価値はいくらか──病院経営KPIとしての応需率と収益の定量関係で定量的に解説しています。
A. 加算1(1,050点)の取りこぼしを減らすことが最も効果的です。 別表第七の三の1〜12項目に該当する患者を加算1で正しく算定すれば、「その他の重症な状態」(13項目)の比率は自然に下がります。JCS・NYHA等の客観的指標を電子カルテに確実に記録し、月次で算定状況を経営層がモニタリングする体制が必要です。
A. 90%は到達可能ですが、「正当な断り」と「不当な断り」を分けて管理することが前提です。 当社支援先(100病院超)の応需率は平均84.5%(2025年12月末時点)が確認されており、グレーゾーン受入ルールの明文化と医師インセンティブの設計が90%到達の鍵となります。
A. 看護師の夜勤負担懸念を「経営課題」として正式に経営会議のテーブルに乗せることから始めます。 応需基準のマニュアル化や受入ルールの設計に看護部を意思決定の起点として参加させること、看護師向けインセンティブ設計、夜勤体制の同時補強がセットで必要です。詳細は看護部が「受けないで」と言う本当の理由──夜勤負担と救急受入強化の両立設計も参照ください。
A. 100床規模で年間1,500件前後、200床規模で2,500件前後、300床規模で3,500件前後が地域中核としての安定水準の目安です。 ただし2,000件は地域医療体制確保加算の必須要件のため、100床規模では周産期等の特例ルートの確認が必要です。応需率の経営価値の総論は救急応需率1ポイントの経営価値はいくらか──病院経営KPIとしての応需率と収益の定量関係に整理しています。
A. 病床当たり年間救急搬送受入件数 × 0.005で算出され、重症度、医療・看護必要度の基準患者割合に加算される評価指数です。 令和8年度診療報酬改定で導入されました(上限1割)。搬送件数を増やすことが、加算取得だけでなく急性期病院一般入院基本料の重症度要件クリアにも波及する仕組みです。
各加算の制度詳細・算定運用については以下の記事で個別に解説しています。
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



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