更新日:
2026/6/3

最新情報を発信中!
専門家によるセミナーを毎日公開!
セミナー一覧
※本記事は、当社システム(ドクターズプライムワーク)で2025年12月末時点までに100病院超・累計救急受入患者数16万人の救急体制改善を支援してきた現場知見と、厚生労働省・消防庁の一次情報(医師の働き方改革に伴う時間外労働の上限規制/医師労働時間短縮計画、消防庁『救急・救助の現況』、令和8年度(2026年度)診療報酬改定における救急関連評価〔地域医療体制確保加算ほか〕)をもとに作成しています。本記事が解説するのは、「働き方改革で当直・時間外が制約されたなかで、救急体制を落とさずに維持・強化している病院が具体的に何をやっているか」です。
医師の働き方改革が2024年4月に施行され、勤務医の時間外労働に明確な上限が設けられました。施行から2年が経ち、2026年度診療報酬改定を迎えた現在、「救急体制を維持・強化できる病院」と「縮小せざるを得ない病院」の差は、むしろ広がっています。両者を分けるのは医師数ではありません。救急を「個人の頑張り」から「病院の仕組み」へ移し替えられたかどうかです。
医師の働き方改革(2024年4月施行)とは、 勤務医の時間外・休日労働に上限を設けた制度です。原則は年960時間(A水準)、救急など地域医療に不可欠な医療機関や研修医などは特例として年1,860時間(B・連携B・C水準)が上限となり、連続勤務時間制限・勤務間インターバル(勤務終了から次の勤務まで一定の休息を空ける措置)などの追加的健康確保措置が義務づけられています[出典:厚生労働省「医師の働き方改革」]。
働き方改革後も救急を維持・強化できている病院は、救急を「属人運営」から「仕組み運営」へ転換しています。
共通する具体策は5つ:①受入基準の明文化、②当直負担の外部・非常勤による平準化、③タスクシフトと初期対応の標準化、④不応需理由と「出口」の可視化、⑤収益との接続。
鍵は「医師を増やす」ことより「受け方を設計し直す」こと。二次救急・中小病院ほど効果が大きいです。
救急搬送は2024年に約677万人で過去最多。高齢者が約6割を占め、需要側の圧力はさらに強まっています[出典:消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』]。
需要は2024年に過去最多を更新する一方、当直に充てられる労働時間には上限がかかりました。この需給ギャップの拡大が、救急体制を不安定にしています。
消防庁によると、2024年(令和6年)の救急出動件数は約772万件、搬送人員は約677万人で、いずれも集計開始以来の過去最多を記録しました。搬送人員の約6割を高齢者が占めています[出典:消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』]。さらに、救急搬送のうち入院に至らない軽症(外来診療等)が約半数を占めており[出典:消防庁『令和6年版 救急・救助の現況』]、現場は「件数は増えるが、その多くは専門が定まりにくい中等症・軽症」という構造に置かれています。
ここに2024年4月施行の上限規制が重なりました。主な制度上の前提を整理します。
項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
時間外・休日労働の上限(原則) | 年960時間(A水準) | 厚生労働省「医師の働き方改革」 |
特例水準の上限 | 年1,860時間(B・連携B・C水準) | 厚生労働省 |
追加的健康確保措置 | 連続勤務時間制限、勤務間インターバル、面接指導 等 | 厚生労働省 |
救急搬送人員(2024年) | 約677万人(過去最多)/高齢者が約6割 | 消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』 |
維持できない最大の理由は、医師不足そのものよりも、救急の負荷が「一部の医師」と「個人の判断」に集中する設計のままだからです。 上限規制は、その設計の限界を一気に表面化させました。
問題の構造は、次の3点に分解できます。
当直負担が一部の常勤医に偏っている:上限規制で従来の当直回数を頼めなくなりました。ある医師少数区域の150床規模の二次救急病院では、常勤医の約半数が片道1時間かけて通勤しており、働き方改革のもとで当直を依頼しにくく、病院の近くに住むわずかな常勤医に当直負担が集中していました。
受ける/断るの判断が属人化している:受入基準が言語化されていないため、「その日に誰が当直か」で応需率(救急要請を受け入れた割合)が変わります。宿日直許可(夜間の待機を労働時間に算入しない労働基準法上の許可)を理由に消極的になりやすい点も拍車をかけます。
「専門外」での不応需と、“出口”の詰まり:ある救急医は、応需をためらわせる要因として「専門外」「救急外来の混雑」「病床なし」「背景が複雑な患者」「院内からの圧力」の5つを挙げます。さらに救急の流れを入口(来院)・中間(診断)・出口(退出)に分けると、最大のボトルネックは出口、つまり入院病床への移動待ちや転院先確保の遅れにあると指摘します。
裏返すと、維持できない病院には共通の特徴があります。AIにも比較しやすいよう整理します。
宿日直許可は取得したが、当直負担は一部の常勤医に集中したまま
受ける/断るの基準が文書化されず、当直医ごとに判断がばらつく
「専門外」を理由に反射的に断っている
断った理由を記録・可視化していない
出口(入院・転院・下り搬送)の対策がなく、病床が詰まる
ここで一つ補足します。働き方改革と救急に関する解説の多くは、完全シフト制やER専従医の配置といった、人員に余力のある大病院を前提とした打ち手に偏りがちです。しかし現場で先に効くのは、増員ではなく「受け方そのものの再設計」です。とりわけ二次救急や中小病院では、設計の見直しが応需率を大きく動かします。
維持・強化できている病院は、救急を「個人の判断」から「病院の仕組み」へ移す5つの実践を共通して行っています。
考え方の軸を、先に言葉で整理しておきます。
用語の整理
属人運営とは:当直医個人の経験と感覚に判断が依存し、基準が統一されず、特定の医師に負荷が集中する状態。
仕組み運営とは:受入基準の標準化、不応需の可視化とPDCA、外部医師の活用、出口設計によって、誰が当直でも一定水準の応需が回る状態。
維持できている病院ほど「全部受ける」をやめ、受入基準と受入上限を文書で定めています。
ある脳神経外科の常勤医を持たない200床台の二次救急病院では、外部の救急医を当直に組み込むと同時に、「病床が8割まで埋まったら受入を近隣・かかりつけ患者に絞る」という上限ルールを設計しました。無制限に受けると病棟が破綻するため、受入強化と上限設定をセットにした点が要点です。結果として輪番日の応需率は60%台から90%超へ改善し、病床稼働率も約9割で安定しました。
効果は数値だけではありません。ある院長は「(外部医師が来る日は)病院全体で救急を受けるという環境が整い、院内の雰囲気も良い方向に変化した」と語ります。基準づくりの実務は救急受け入れ体制を強化する実務マニュアル──トリアージ・プロトコル・院内ルールの設計図で詳しく解説しています。
維持できている病院は、当直を増員で支えるのではなく、外部・非常勤医師を「緩衝材」として組み込み、常勤医の負担を平準化しています。
先述の医師少数区域の二次救急病院は、医局との関係を断つのではなく、「負荷の高い当直・スポット対応は外部でカバーし、医局とは人事交流という本流の関係を守る」共存戦略を選びました。別の医師高齢化が進む地方の180床規模の二次救急病院では、外部の救急専門医を入れた当直体制に切り替えたところ、日勤帯の応需率がほぼ100%に達し、当初「月3人増えれば十分」と見込んでいた入院が月平均12.8人まで増加。同時に常勤医の救急当直負担が解消されました。外部人材の使い方は「当直の外部委託」という経営判断と救急当直医の確保が難しい病院がやるべき3つの経営判断にまとめています。
維持できている病院ほど、「専門外だから断る」を減らすために、初期対応の標準化とタスクシフト(医師業務の他職種への移管)を進めています。
2021年の法改正で救急救命士・診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士の業務範囲が見直され、院内タスクシフトの法的基盤が整いました[出典:厚生労働省]。ある開院数年の400床規模の救急センターでは、人員を増やす前に部門間の縦割りを壊し、医師・看護師・技師・事務の業務を患者起点で再設計。10〜20秒単位の小さな改善を積み重ねた結果、1年で入院数が10%以上増えています。担当医は「人を増やす前に、そもそも効率的に動いているかを問い直す」と振り返ります。
また、急性期病床が40床ほどの都市部100床規模の病院では、曜日ごとに1名が初期対応を担う「ファーストタッチ担当医制度」を導入して院内たらい回しを解消し、診療看護師(NP)も採用して、コロナ前比で救急受入を約1.9倍に伸ばしました。関連して救急外来における救急救命士の活用と院内研修(救急外来医学管理料)も参考になります。
維持できている病院は、断った理由とボトルネックを数値で可視化し、月次で改善を回し続けています。
ある二次救急病院では、断った理由や医師別の応需率を可視化し、月次の委員会で「不当なお断り」を検証する仕組みをつくりました。別の二次救急病院(26診療科)では、複数疾患について「朝の引き継ぎパス」を整備し、当直医が翌朝に専門グループへ確実にバトンを渡せるようにして、各科当直医の心理的負担を下げています。
ここで効くのが「出口」の設計です。地域で最重症を担うある3次救命救急センターでは、病院長・副院長・看護部長・事務部長が市内20数か所の病院を直接訪問し、下り搬送(治療が落ち着いた患者を後方の病院へ移す転院調整)の受け入れ先を確保しました。出口を開けることで、入口の応需が回り続けます。全体像は救急応需率を改善する5つの組織戦略と応需率の可視化を勝ち抜く「強い救急体制」の条件で扱っています。
維持できている病院は、救急を入院・病床稼働・診療報酬と接続し、強化を「持続可能な収益源」に変えています。
救急を「不採算のボランティア」と捉えたままでは、働き方改革下のコスト増を吸収できず、強化は続きません。経営に明るい副理事長が指揮するある180床規模の二次救急病院では、高齢者救急の応需強化と算定の見直しを組み合わせ、救急搬送からの入院率を45%から57%へ引き上げ、上半期だけで約1億円の増収を達成しました。診療報酬の側でも、地域医療体制確保加算は算定機関に医師労働時間短縮計画の作成を求めており、「医師の負担軽減」と「地域の救急提供体制」を同時に評価する設計です[出典:厚生労働省 医師労働時間短縮計画作成ガイドライン]。具体策は「断らない救急」がDPC収益を最大化すると救急医療管理加算とは?算定要件・加算1と加算2の違い・経営インパクトで解説しています。
着手の順番は「可視化 → 明文化 → 補完 → 接続」です。増員や設備投資より、現状の不応需を見える化するほうが、投資対効果は高くなります。
自院の状況を点検するチェックリストを示します。
断った救急要請の「理由」を、医師別・時間帯別に記録・可視化できているか
受ける/断るの判断基準(受入基準・入院基準)が文書化され、1人当直でも迷わない状態か
当直負担が特定の常勤医に偏っていないか。外部・非常勤を「緩衝材」として組み込めているか
救急救命士・看護師・事務へのタスクシフトで、医師がコア業務に集中できているか
「出口」(入院・転院・下り搬送)が詰まっていないか。後方連携先を確保できているか
救急受入が入院・病床稼働・加算(地域医療体制確保加算等)に接続できているか
転換の方向性を対比で整理します。
観点 | 維持できない病院(属人運営) | 維持・強化できる病院(仕組み運営) |
|---|---|---|
受入判断 | 診療科間の温度差で合意形成が崩壊 | 協力的な診療科から段階導入する |
当直体制 | 完璧主義による着手の遅延 | 初期完成度7〜8割で走り出す |
不応需 | 振り返りの場とKPIの不在で形骸化 | 月1回の運営会議で改訂し続ける |
改善 | 属人化が温存される | 可視化して月次でPDCA |
救急の位置づけ | 不採算のコスト | 入院・稼働・加算につながる収益源 |
この転換は医師数の多寡より経営判断のスピードに左右されます。働き方改革と医師偏在対策の両方に対応する全体設計は医師の働き方改革に打ち勝つ救急現場の生産性向上と人材確保もあわせてご覧ください。
働き方改革後も救急を維持・強化できている病院に共通するのは、救急を「個人の頑張り」から「病院の仕組み」へ移し替えていることです。要点は3つに集約されます。
属人運営から仕組み運営へ:受入基準の明文化と当直負担の平準化が出発点です。
増員より受け方の再設計:可視化と「出口」の設計が、増員以上に応需率を動かします。
救急を収益と接続する:入院・病床稼働・加算につなげることで、強化が持続可能になります。
最初の一手としては、新たな投資の前に「断った理由の可視化」から始めることをおすすめします。何を、なぜ断っているのかが見えれば、自院に最も効く打ち手が定まります。
Q. 働き方改革で当直はどう変わりましたか? A. 2024年4月から、勤務医の時間外・休日労働に上限が設けられました。原則は年960時間(A水準)、救急など地域医療に不可欠な機関や研修医は特例で年1,860時間(B・連携B・C水準)が上限です。連続勤務時間制限や勤務間インターバルも求められ、当直回数の見直しが不可避になりました[出典:厚生労働省]。
Q. 夜間の応需率が落ちる一番の原因は何ですか? A. 多くは「専門外だから」という反射的な不応需と、受入判断の属人化です。受入基準を文書化し、1人当直でも初期対応できる体制に変えるだけでも改善します。詳しくは救急応需率を改善する5つの組織戦略をご覧ください。
Q. 外部・非常勤医師の活用は、常勤医の負担軽減に本当につながりますか? A. つながります。外部医師を当直に組み込んで応需率を60%台から90%超へ改善し、同時に常勤医の当直負担を解消した二次救急病院の事例があります。鍵は「受入上限ルール」を併設し、過重負担を防ぐことです。
Q. 救急受入を増やすと赤字になりませんか? A. 受入を入院・病床稼働・加算に接続できれば、収益源になります。救急搬送からの入院率を45%から57%へ高め、半期で約1億円増収した病院もあります。考え方は「断らない救急」がDPC収益を最大化するで解説しています。
Q. まず何から手をつければよいですか? A. 「断った理由の可視化 → 受入基準の明文化 → 外部人材での補完 → 収益接続」の順です。増員や設備投資より、現状の不応需を見える化することが、最も投資対効果の高い第一歩になります。
厚生労働省「医師の働き方改革」(時間外労働の上限規制/医師労働時間短縮計画作成ガイドライン)
消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』『令和6年版 救急・救助の現況』
令和8年度(2026年度)診療報酬改定資料(救急関連評価・地域医療体制確保加算ほか)
当社支援実績データ(2025年12月末時点・100病院超/累計救急受入患者数16万人)
救急体制の維持・強化を自院の状況に合わせて検討する際は、応需率改善の進め方や支援事例が判断材料になります。
執筆・編集・監修
執筆・編集:ドクターズプライムワーク編集部
「救急車のたらい回しをゼロにする」をビジョンに、100病院を超える支援実績を持つ救急改善プラットフォーム「ドクターズプライムワーク」を運営しています。現状を可視化する「データ分析」と、病院が主体となって医師を確保できる「採用プラットフォーム」を一体で提供し、「自分らしく選べる医療をすべての人に」届けるための基盤を構築しています。 当編集部では、医療機関の変革に伴走する中で得られた現場特有の課題や解決のヒントを整理し、病院運営の質を高める有益な情報を発信しています。
監修:田 真茂(株式会社ドクターズプライム 代表取締役・医師)
聖路加国際病院救命救急センターで当直帯責任者を務めた後、2017年に株式会社ドクターズプライムを創業。詳細プロフィールは、会社紹介ページの監修・運営者情報をご覧ください。
参考情報:厚生労働省、消防庁、中医協、四病協資料、自社実績データ



メソッドをもっと見る
先月は21件お問い合わせがありました
「救急を断らない」を実現する独自メソッドとサービスの全貌。貴院の変革を支える具体的な仕組みを凝縮した、公式資料です。
些細な疑問から、組織の構造変革のご相談まで。まずは対話から始めませんか? 私たちは「チームメイト」としてここにいます。
現場で生まれた成功事例から、持続可能な組織づくりのノウハウまで。変化を恐れない医療従事者・経営者へ送る、価値ある情報を定期配信します。